第3話
7
それから。
放課後のその時間は、私たちの楽園になっていた。
まあ、言ってみたものの、実際にはただお喋りをするだけの空間と化していただけ。
お喋りをし続けていても、勉強が進むことは無い。だから、勉強に関するお喋りもしながら、たまにいろいろなお喋りをする。それが私たちの楽しみと化していた。
「だから、あそこのチップスの方が美味しいって。……あ、そこはxじゃなくてyが入るよ」
「ほんとー? あそこのチップスの方が美味しかった気がするんだけどなー。……え? xじゃなくてy? ほんとうに?」
「嘘は吐かないよ」
「そりゃそうだけれどさあ……」
ミキが嘘を吐いたことは無い。
それは今まで私がずっと一緒に居たから分かる話だ。まあ、いざそれを言ったところで何が変わるのか、という話だけど。きっと何も変わりゃしないのだろう。私とミキの関係性のように。いや、それはおかしいか。
私とミキの関係性は、昨日のあれ以降徐々に変わっているような気がする。
それがどれくらい変わっているのかどうかはまた、別の話として。
「……とにかく、そこはxじゃなくてyが入るんだって。それ以上でもそれ以下でも無い。素因数分解出来ないから。やってみなよ。実際に」
「そんなまさか…………………………。ほんとうだ」
ほんとうに出来なかった。
ミキはいつの時間勉強しているのだろう。
てっきり放課後帰ってからやっているのかと思ったら、私の勉強に付き合うぐらいの余裕があるというのだから、案外勉強は進んでいるのかもしれない。
もしかして、推薦とか?
「ねえ。ミキ。あなたってもしかして、推薦」
「じゃないよー。マキと同じ一般。さてと、私もそろそろワークを進めないとねー」
はっきりと否定されて、気づけばミキも私と同じ受験対策のワークと格闘を始めた。格闘を始めた、といっても言葉通りの意味じゃなくて、悪戦苦闘しているとでも言えば良いのかな。どちらにせよ、それは一番大変なことだということは、私が一番分かっていた。
「ねえ、マキ」
「うん? どうしたの」
鞄から昼休みのうちに購入しておいたポッキーを取り出して、私は答えた。
「……ポッキー、一本ちょうだい」
「それだけ?」
「うん? 何か意味でもあったかにゃー?」
「いや、特に意味は無いけれど……。分かったよ。ポッキー、ビターチョコレートだけど?」
「全然問題ナッシング!!」
グーサインをして、ポッキーを一本取り出すミキ。
何というか、つかみ所が無いよなあ。昔から思っていたけれど。
それを言ったところで、何が変わるか分かった話じゃないけれど、さ。
8
それからの時間はあっという間に流れていったような気がする。
具体的には何も無かったし、何かあったかと言われると微妙なところだけれど。
でも、私とミキの関係性が良くなったか悪くなったかと言われると、何も変わりやしなかった。そんなもんだった、人生。
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