第33話 初陣 1Q

練習試合の準備のため朝早くに集合し、体育館に試合用のコート設営を行っていた。

体育館のステージ下の倉庫から、緑色のフロアーマットを取り出し、長い巻物のようにロールされているマットを二人で端を持ち広げるために走り出す。


シャーーーーーーー


フロアーマットが勢いよく広げられてゆく。

広げだマットの幅を半分に折りたたんで、ステージ側のベンチとオフィシャル席の下に敷いて行く。


「全員で、椅子を並べて~ ベンチは、それぞれ15脚と交代要員の2脚ね~」

「あと、オフィシャルは4つよろしく~」


そうみんなに指示しながら、パイプ椅子を順番に並べてゆく。


「ダック~ ステージ脇から得点版を出して来て~ あと、椅子も2つね~」


「ほ~い」


ダックと大志くんのペアで、得点板と椅子をベンチと対面側に設置する。


「キート オフィシャル用の机2つ出しといて」


「OK!」


オフィシャル席用の長机を倉庫から取り出しベンチ側中央に設置し、その上にオフィシャルセットとデジタルタイマーを置く。


「準備終わったら、ボール出しとアップね~ よろしく!」


こんな感じで、淡々と会場設営は進んでいた。


会場設営を終え、僕はストレッチを始めた。

いつものより入念に膝の関節をゆっくりと伸ばしてゆく。


他のメンバーはそれぞれボールを持ち、シュート練習を始めていた。

しばらくして、体育館の入り口から相手チームのメンバーがぞろぞろと入って来ていた。


「集合!」


「はい」


ダダダッ ダダッ キュッ キュッ


チームメイトに号令をかけて、入り口に駆け足で向かった。


「よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


流石は上位常連チームというだけあって、僕らのチームより背の高い選手が多く、バスケット選手として良い体つきをしているメンバーも多く、とても強そうに見えていた。

あくまで、小学生としてだ。

こちらは高校生までバスケを経験しているため、相手に飲まれるような感覚は無かったのだが、他のメンバーは違っていた。


初の練習試合という事もあり、かなり緊張しているようだった。

この緊張をほぐさないと、いつものプレーは望めそうに無かった。


「集合!」


号令をかけ、ハーフコートを相手チームに明け渡し、フリースローレーンのサークルにみんなを集めた。


「今日が初めての練習試合だけど、相手チーム見てどう思った?」


みんな顔を見合わせて、口を開こうとしていなかった。


「強そうだと思った人 手を挙げて」


半数以上が手を挙げていた。


「確かに強そうだよね~ でもうちの方が強いから安心して」

「昨日までの練習で勝てるプランは出来てるから、いつものプレーが出来ればどこにも負けないよ~」


「かなた~ どこにもってw」

「それだと、全国優勝しちゃうってことになるよ~」


キートが茶化して来た。


「そのつもりだけど 何か?」


どこの口からそんな言葉が出てくるのかと自分に突っ込みたくなったのだが、この場ではそう言い切ってしまった。

この言葉にウソは無かった。

フィジカルの差がゲームの勝敗に左右されるような戦い方を選んでいないからだ。


「相手チームより、1ゴール以上余計に得点して勝つ」

「これだけやれれば、絶対に負けない」

「とにかく、点を取られない戦い方をしよう」

「シュート後のスクリーンアウトからのリバウンドは、全員が意識して相手選手を背負うようにね」

「じゃ~ランニングシュートから始めるよ~」


そう言って、試合前の練習メニューをこなしていった。


ビッ!


試合開始3分前の笛が吹かれた。


「集合!」


「はい」


ベンチでこちらを見ていたコーチの元に集合していた。


「かなたから話があったと思うけど、このチームは強いぞ」

「自身を持っていい 思い切って自分のプレーをしてくるんだぞ いいな!」


「はい!」


全員で返事をした。


「じゃ~スターティングは、池尻、末田、児玉、後藤、田中 準備しろ!」


「はい!」


第一クォーターのメンバーがコールされた。

呼ばれたメンバーのキート・スエッチョ・ダック・ゴッケン・元気くん達はTシャツを脱ぎユニフォーム姿となり、コートに飛び出して行く。

僕は、ベンチでその姿を見送った。


「練習試合を始めます 礼!」


「よろしくお願いしま~す」


キートはセンターサークルの自分のベンチ側に立ち片足をセンターサークルに乗せ、もう片方の足を後ろに引き、膝を曲げた。


審判がふわりと投げ上げたボールをみんなが見守る中、落ちてくるボールに向かってキートがおもいっきりジャンプする。

相手チームのジャンパーの方がキートより少し背が高かったが、このジャンプ勝負は互角だった。


デジタルタイマーの時間のカウントダウンが始まっていた。

残り時間(4:59) 得点[0:0]


お互い伸ばした手の先でタップしボールが、左下方向に弾かれていた。

そのボールの落下点に素早く反応したのは、スエッチョだ。落下点に向かってジャンプし、ボールをキャッチしていた。


幸先よく、マイボールからのスタートとなった。


作戦通りに、スエッチョが司令塔となり30秒フルに使ってボールを回す。


残り時間(4:34) 得点[0:0]


残り5秒というところで、ラストパスをシュート確立の一番高いゴッケンに送り、アウトサイドからシュートする。


ガッ


シュートは放物線を描きリングに向かったが、リングに当たり跳ね上がっていた。


「リバウンド!」


ベンチから声をかけた。

キートとダックがリング下でオフェンスリバウンドを取れるように、相手チームのセンターを背負い、ポジショニングをしていた。

相手の膝を殺すように、密着して背中を預け、理想的なスクリーンアウトが出来ていた。

キートは落ちてくるボールに向かって、ジャンプする。両手を差し出しボールをキャッチした。


「ナイス リバウンド!」


キャッチしたボールをスエッチョに返し、またリセットされた30秒を使ってボールを回す。


残り時間(4:10) 得点[0:0]


ショットカウント残り10秒というところで元気くんのスクリーンプレーで、ゴッケンのマークの横に立ち、ゴッケンをフリーにしていた。

残り6秒でパスをもらったゴッケンは、再度フリーの位置でアウトサイドシュートを打った。


カシュッ


きれいな放物線を描き、リングの中央をくぐったボールは、ゴールネットだけを揺らしていた。


「ナイッシュー ゴッケン」


時計の針は、まもなく1分を過ぎようとしていた。

この練習試合は5分の4クォーターで行う事としていたので、残り時間は4分を切っていた。


「ディーフェンス ディーフェンス」


残り時間(3:40) 得点[2:0]


ベンチから声をかけながら、状況を見守った。

ハーフコートのマンツーマンディフェンスを行いながら、相手チームをインサイドでプレーさせないようにリング下のエリアを固めつつディフェンスを行っていた。

ローポストに入ろうとするセンターに対して、キートはしっかり内を固めるディフェンスとして相手選手の腰の辺りに密着して、半身でパスコースを消すように背中越しに片手を前に出すディフェンスしていた。

相手チームのセンターは、ローポストでのポジショニングが思うように出来なかったため、しびれを切らしてハイポストにポジションを変えていた。

フリースローラインの前辺りでキートを背負ってポジショニングをし、両手を上にあげてボールを要求していた。


「キ~ト~ ナイス ディフェンス」


フリースローライン当たりでのセンターへのボールはわざと、入れさせるようにしていた。

ハイポストのセンターにボールが渡ったタイミングで、スエッチョとキートでダブルチームとなり、相手センターに詰め寄りパスコースを消しにかかる。

パスコースを消されて慌てたセンターは、ボールを保持し続けるしか無くなっていた。


ビッ


「オーバータイム 青」


残り時間(3:30) 得点[2:0]


5秒保持のオーバータイムバイオレーションを取り、マイボールとしていた。


「ナイス ディフェンス」


声をかけている瞬間に、キートたちは動き出していた。

すかさず、キートが相手センターからボールを奪い、サイドラインで待っているスエッチョにボールを放る。

反対側のサイドにいたゴッケンは、バイオレーションの笛が鳴った瞬間に、ゴールめがけて走り始めていた。

サイドから思いっきりスエッチョが、ゴールに向かってボールを遠投する。


放物線を描いたボールは、ゴールに向かって走りこんでいたゴッケンに向かって一直線に飛んで行く。


ダーン パシッ


大きくワンバウンドしたボールが、ゴッケンの走りこむ所に落ちてくる。


ダン ダン


キャッチしたボールを持ちながら2ステップしたゴッケンは、無人のゴールに向かってランニングシュートをしていた。

バックボートに当たったボールは、リングの中に吸い込まれていった。

続けて走り出していたダックが、リバウンド用のセーフティーとしてリング下に走りこんで来ていた。


「ナイッ シュー ゴッケン」

「ナイス パス スエッチョ」


残り時間(3:14) 得点[4:0]


ダックとゴッケンがハイタッチを交わし、ディフェンスに戻って行く。

幸先よく、2ゴール差をつけたことで、流れが完全にこちらに来ていた。


「スエッチョ ゲームコントロールよろしく~」


僕はそう声をかけた。

点の取り合いをするのではなく、点を取らせない試合展開に持ち込みたいので、ゲームのテンポを落とすようにお願いしていた。


残り時間(2:50) 得点[4:2]


相手チームの左下からのアウトサイドのシュートが決まっていた。


残り時間(2:25) 得点[4:2]


スエッチョは、制限時間一杯まで時間を使ってボールを廻し、左下にポジショニングをしているゴッケンへのラストパスを送る。

ショットカウントの残秒を5秒残した状態でボールをもらったゴッケンは、角度の無い位置からのジャンプシュートの体制に入る。


ダックとキートがリング下のリバウンドを取るべく良いポジショニングを取るために、相手ディフェンスとゴリゴリ位置取り争いをしている。


カシュッ


放物線を描いて放たれたボールは、きれいな放物線を描きリングにふれずにゴールネットを揺らす。


残り時間(2:19) 得点[6:2]


「ナイッシュー ゴッケン!」


スエッチョとハイタッチを交わしながら、ディフェンスに戻って行く。

この位置からのシュートはゴッケンが最も得意とするところで、試合前の状態では62%の成功率を誇っていた。

日々の練習の成果を余すところなく発揮している状況だ。


「ディ~フェンス ディ~フェンス」


ベンチにいるメンバー全員で声援をおくる。


残り時間(1:59) 得点[6:2]


相手チームの右サイドからのアウトサイドシュートが放たれた。


「スクリーンアウト」


声をかけると同時に、リング下にポジショニングしているキート・ダック・ゴッケンがマークに対して、背中を預けてリバウンドの体制を確保する。


ガッ


リングに弾かれたボールは、上方向に弾み左サイド側に落下しようとしているキートの守備範囲だ。

深く沈み込んだキートは、ボールの落下点に向けて両手を伸ばしてジャンプする。

ジャンプの最高到達点で、落ちてきたボールを両手でキャッチ。


この動作を目で確認したスエッチョは、無人のゴールに向かって全力疾走を開始する。


ダーン


両足を踏ん張り両肘を張った状態で着地を決めたキートは、すかさず円盤投げの要領で、ボールを無人のゴールに向かって投げ上げた。


きれいな放物線を描き、ハーフコートを少し超えた先に着地したボールは大きくワンバウンドして、また小さな放物線を描きスエッチョの前方に落ちてゆく。


ボールの落下点に走りこんだスエッチョが、両手でボールをキャッチしランニングシュートを決める。


「ナイッシュー スエッチョ」


残り時間(1:45) 得点[8:2]


一方的な展開となってきていた。


ビ~ッ


残り時間(0:00) 得点[10:4]


第1クォーター終了時点で、3ゴール差を付ける事が出来ていた。

笑顔で戻ってくるチームメイトとハイタッチを交わして、第2クォータのメンバーがベンチから飛び出して行く。


今度は、僕らの出番だ。

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化物のすすめ(好きになるあなたへ) リュウノスケ @tabo869

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