3話 砂浜での戦闘 お茶会と同じぐらい気楽だけどね


 フォルはアスラに向けて突っ込み、そのままデスサイズで攻撃した。

 アスラはヒラリと身を躱し、みんなに各個撃破をハンドサインで指示。


「シモンとチェリーは私といろ」


 言いながら、フォルの2撃目もサラリと回避。


「チェリーも攻撃に参加したいでござる!」

「……俺は見学で」


 チェリーがイケイケの姿勢で言って、シモンは少し距離を取った。


「もう少し待ちたまえチェリー。大きな鎌を武器として使う奴は珍しいから、もっと見たい」


 アスラは普段の調子で話しているが、フォルの攻撃を躱し続けている。


「鎌ってそういう風に使うんだね」


 アスラたちは色々な武器を扱えるが、さすがに鎌の訓練はしていない。


「クソッ! なんで! 当たらないのよ!」


 ブンブンと鎌を振り回しながらフォルが怒ったように言った。


「君、砂浜に足を取られて、普段の動きができてないよ、たぶん」


 言ってから、アスラは砂を蹴り上げた。


「姑息な!」


 フォルが後方に飛んで、砂が目に入るのを嫌がった。


「うん、私はもういいや。チェリー、遊んでいいよ」


 アスラは平時のようにクルッと踵を返し、焼いている肉の方へと移動。


「舐めるなぁぁぁ!」


 怒り狂ったフォルがデスサイズを持っていない方の掌をアスラに向けた。

 その瞬間、地面を滑るようにチェリーが水面蹴りを放った。

 あまりにも低く、唐突な蹴りだったので、フォルは足を刈られてしまう。しかし無様に転がるのだけはフォルのプライドが許さない。


 フォルはデスサイズを砂浜に突いて、それを支点に空中で体勢を立て直す。そして足から着地した瞬間、再びチェリーの水面蹴りが滑ってきた。

 なんてイヤラシイ攻撃をするガキなのっ!

 フォルは距離を取るように飛んで、水面蹴りを回避。

 着地と同時にチェリーが突っ込んでくる。


「くっそがぁ!」


 フォルは掌をチェリーに向けて衝撃波を放った。

 この衝撃波はフォルの魔法である。

 衝撃波をまともに喰らったチェリーが海の方へと飛ばされ、そのままポチャンと落ちた。


「じゃあ次シモンね」


 モグモグと肉を食べながらアスラが言った。


「……俺は見学だ」

「そうかい? 鎌は珍しいから遊んでおいた方がいいと思うけど?」

「……まぁ確かに珍しいけども……しゃーない。やるか」


 シモンは苦笑いしつつ、フォルの方へと歩みを進める。



 天聖候補50位のベイズキは、いつの間にか仲間と分断されていることに気付いた。

 戦っているうちに、仲間と離れる方向に誘導されていたのだ。

 ちなみに、ベイズキと戦っているのはラウノ、グレーテル、レコの3人。

 ベイズキは天聖最強の男、虚無のロマに憧れているので、使用する武器はハルバードだ。

 ハルバードというのは、槍の穂先に斧も付いている長柄武器である。突いてよし、斬ってよし、柄の部分で叩いてよし、という割と万能で実用性の高い武器だ。


「【加速】」


 ラウノがグレーテルの両腕に魔法を使用。

 グレートソードを使っているグレーテルの振りが、極端に速くなる。

 その斬撃を、ベイズキはハルバードの柄で受け止める。鉄製の柄で良かった、とベイズキは思った。木製だったらへし折られている。

 グレーテルの背中を蹴って、レコが高く飛んで、ベイズキの真上から砂をばら撒いた。


「うおっ!」


 ベイズキは目を瞑って後ろに飛ぶ。危うく視界を奪われるところだった。そう思った瞬間、「ほい」というラウノの声が背後から聞こえ。

 次の瞬間には胸から長剣が生えていた。正しくは、ラウノがベイズキの背中側から長剣を突き刺したのだ。


「あ……れ?」

「君がそう逃げると僕には分かっていた」


 言って、ラウノが剣を引き抜く。

 ゴボッ、とベイズキは血を吐いて、砂浜に両膝を突いた。

 負けた? 天聖候補50位の俺が? とベイズキは思考した。

 思考が終わったと同時に、グレーテルがグルンとグレートソードを横に振って、ベイズキの首を飛ばした。

 ベイズキの首はちょうどレコのいる方へと飛んだ。

 レコはベイズキの首を蹴っ飛ばし、ベイズキの首は海へと落下した。

 その頃には、ベイズキの身体がバタンと倒れた。


「……弱いですわね……」

「オレたちの連係が完璧なだけじゃない?」

「そうだね。彼は気付いていたかな? 一度も反撃できなかったこと」



 天聖候補33位、迅雷のケーコは、自分がまったく反撃できないことに気付いていた。

 どういうことなのっ!?

 こいつらの攻撃、全部が繋がってる!?

 天聖候補33位は伊達ではない。1人で複数名を相手にしたこともある。あるのだが、多くの場合、複数の敵はお互いが邪魔になって弱体化していた。


 しかし今、ケーコが戦っている3人はお互いが邪魔になるどころか、まるで全てが1つの大きな流れであるかのように動いていた。

 ちなみに、イーナ、ロイク、サルメの3人である。

 イーナが短剣を投げ、躱したらその先に水の玉が浮いていて、魔法だと分かったのでそれも躱す。


 そうすると、躱した足下から闇色の槍が飛び出してくる。

 ケーコはその素早さから迅雷と呼ばれていて、特に回避速度には絶対の自信を持っていた。

 にもかかわらず、少しずつ体に傷が増えていく。

 3人は手を変え品を変え、あらゆる連係攻撃を繰り出してくる。

 ケーコは以前、天聖・風神のムツィオに稽古を付けて貰ったことがあるのだが、その時よりも絶望的な気持ちになった。


「やっぱ俺の【水牢】、精度低いな」とロイク。

「副長と比べちゃダメですよ」とサルメ。

「……まぁ、でもギリギリ、使えてる……と思う」とイーナ。


 3人はまるで世間話をしているような気軽さで会話しながら、連係攻撃を続けていた。

 ケーコは悔しい気持ちで一杯だった。

 素早さを活かすため、ケーコの武器はショートソードなのだが、一度も敵に向けて振っていない。

 なんなら回避の邪魔まである。


「どうすんだ? あっち終わっちまったぞ?」

「本当ですね。あまり遊ばなかったみたいです」

「……えぇ? あたしらも、じゃあ……もう終わる?」


 3人の会話で、天聖候補50位のベイズキが敗北したとケーコは理解した。

 そしてつい、気になってベイズキが戦っていた方へと視線を向けてしまった。

 ちょうど、ベイズキの首をレコが蹴っ飛ばしたところだった。


「え? 今、よそ見すんのかよお前」

「それは死にますよ、さすがに」

「……本気出す前に終わっちゃったね」


 ロイクは普遍的な長剣でケーコを斜めに斬り、サルメは【闇突き】で下からケーコを貫き、イーナは短剣を投げてケーコの額に突き刺した。

 ケーコは自分のよそ見を後悔する暇もなく、あの世へと旅だった。


「もう少し……遊びたかったのに……」

「仕方ねぇよ。俺だってもっと水魔法を実戦で使いたかったし」

「動きだけは速かったので、良い訓練になっていたのですが……」


 イーナ、ロイク、サルメがそれぞれの感想を漏らした。



 フォルはデスサイズでシモンを刈り取った。


「ふん、さっきのチビの方が強かったわ」


 勝ち誇ってそう言ったのだが、シモンは痛がる様子も倒れる様子もなく「ぼいんぼいん」といい声で言った。

 あまりにもいい声だったから、フォルは少し興奮した。


「いやお前、それ影だからな?」


 やれやれ、という感じでシモンが言った。

 その声はフォルの背中側から聞こえたので、フォルが驚いて振り返る。

 そうすると、そこにシモンがいて曖昧に笑っていた。


「ちっ! 魔法か!」

「そう。ただの影だ、お前が斬ったのは」


 やれやれ、とシモンが肩を竦める。

 その態度に怒ったフォルが再びシモンを両断。


「ぼいんぼいんが好きなんだ俺は」


 また背中側からシモンの声。

 フォルが振り返ると、シモンがいい声で「やぁ」と言った。


「フォルの身体が貧相だって言いたいの!?」

「まぁ端的に言うと、そう」

「絶対殺す! 影だろうが魔法だろうが! 全部殺す!」


 フォルは視界に入ったシモンを片っ端から刈り取り、少し離れた場所のシモンには衝撃を使った。

 そうすると、本物のシモンに衝撃波が当たった。

 シモンは吹っ飛ばされてアスラの隣にベチャッと落ちた。


「どうだい? 天聖の鎌は」

「怖いからもういいや」


 衝撃波のダメージが割と大きく、シモンは起き上がることを拒んだ。

 ちょうどその時、チェリーが海から上がってきたのをアスラが確認。

 チェリーはかなり辛そうだった。やはり衝撃波のダメージが大きいのだ。

 フォルもチェリーに気付いたが、それより何より、ベイズキの首がレコに蹴っ飛ばされるシーンを目撃し、「はい?」と声を出してしまった。

 更にそのすぐあと、ケーコまで殺害された。


「嘘でしょ!? 天聖候補2人がこんなアッサリ……」


 まずい、とフォルは思った。

 囲まれてしまう。


「って! 天聖であるフォルが! どうしてこんな田舎の傭兵たちにビビらなきゃいけないの!? ふざけんな! 皆殺しにしてやる!」


 そう叫んだ時、海から大量の矢が飛んできた。上陸兵の第二陣が到着したのだ。

 フォルはヒラヒラと矢を躱す。別に兵たちはフォルを狙っているわけじゃない。砂浜に向けて射ているというだけ。

 アスラが周囲に無数の花びらを展開。その花びらに触れた矢が爆発していく。

 月花陸軍も海に向けて攻撃を続けている。


「ねぇ団長! その人はどうするの?」


 レコがアスラに駆けよりつつ、フォルを指さした。


「君、戦ってもいいよ」

「本当! じゃあオレ頑張る!」


 レコは短剣をフォルに投げた。

 フォルはその短剣をヒョイと躱す。


「フォルはガキでも容赦しないから! ぶっ殺す!」

「おばさん、怖い顔しても怖くないよ?」

「誰がおばさんじゃクソガキ!」


 フォルは衝撃波をレコの真下から発生させる。

 レコはその衝撃波をまともに喰らって天高く舞い上がった。

 ちなみに、近くにいたアスラはヒョイと衝撃波を回避している。


「死ねっ!」


 フォルは空中のレコに再び衝撃波を当てる。

 レコが遠くに飛んで行った。


「衝撃波って割と便利だね。君たちってその衝撃波に乗って船からここまで飛んで来たのかな?」


 アスラが楽しそうに言った。


「次はお前を殺す!」


 フォルがアスラを睨み付ける。


「その前に僕と遊ぼう」


 フォルの真横から、ラウノが斬撃。

 フォルは紙一重で躱したが、躱したそばからラウノの次の斬撃が飛んで来る。

 まるでフォルがどこに逃げるか分かっているかのように、躱しても躱してもラウノの剣が追ってくる。


「……俺、レコの様子見てくるわ」


 ロイクはレコが飛んで行った方向へと駆け足。


「はぁ、あの衝撃波、結構、痛いでござるよ」アスラの隣まで来たチェリーが言う。「正直、チェリーはもう今日は休憩でござる」


 そしてチェリーはバーベキュー肉を食べ始めた。



 ラウノはフォルに成った上で、本気で戦っていた。

 要所で自らに【加速】を施したり、【風刃】を織り交ぜつつ斬撃を行ったり、今の自分にできる最大の能力でフォルと戦った。

 しかしながら、フォルはラウノの攻撃を全部躱すか受け止める。

 そしてフォルが反撃に出て、形勢逆転。

 フォルがデスサイズで攻撃して、ラウノがそれをギリギリで防いでいるという状態。


(成ってなきゃ、もう殺されてるっ)

(ラウノ、無理はしないでね)


 想像上の彼女が、心配そうに言った。

 最近はもう、あまり彼女の幻を見なくなった。それは、ラウノの人生が前に進んでいるから。

 もちろん、彼女を忘れることはないけれど。


「交代ですわ」


 グレーテルが【火球】を放ちつつ言った。

 フォルがデスサイズで【火球】を両断。その隙に、ラウノはフォルから離れた。


「いやぁ、僕たち単体だとやっぱりそんなに強くないね」


 ラウノはニコニコと笑いながら、アスラの方へと歩いた。


「いいじゃないか」アスラが笑う。「私らは戦士じゃなくて魔法兵なんだから」


「そうだね。でもたまには、やっぱり個人の能力も試したいよ」

「だろうね。遊びだから好きにしていいよ。グレーテルも試してるけど……」


 ラウノがグレーテルとフォルの戦闘に視線を向ける。

 グレーテルは武器の扱いに関してはもう達人級だ。故に、個人の戦闘能力もかなり高い。

 けれど、グレーテルはフォルの衝撃波で遠くに飛ばされ、見えなくなった。

 グレートソードを盾にしていたので、大きなダメージは負っていないだろう、とラウノは思った。


「上陸戦もいい感じに泥沼ってるね! あの鎌女は私が倒しておくから、君たちは余裕があるなら上陸戦を楽しんできたまえ」


 肉を食べ終えたアスラが上機嫌で言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る