EX53 アスラ嬢の合コン大作戦 ちょっと人肉食ホラー入ってるから注意ね


「ナヨリでぇぇっす! 職業は情報屋だよぉ! 今のチャームポイントは太ももにあるかな!」


 アスラは媚び媚びの笑顔で自己紹介をした。

 ここは東フルセンのとある国。その酒場。時刻は19時。

 すでに外は暗闇に包まれている。1年の中で、もっとも寒さが厳しい時期でもある。

 まぁ、酒場の中は暖炉があるので暖かいのだが。


「あたしは商家の娘で、アリスよ」


 アイリスがツンツンして言った。

 アスラとアイリスは似たようなフリフリの服を着ている。

 普段からアイリスが着ているような、白と黒の可愛い服だ。

 ちなみに、アスラは銀髪をクルクルに巻いている。

 アイリスはポニーテイルだった。


「……クーナです……」イーナが照れて言う。「職業は……畜産業、です」


 イーナも今日はフリフリの服を着ている。

 頭には赤いリボンまで乗せている。まぁ、乗せているのではなく乗せられたのだけれど。


「オレはレーコだよ! ナヨリの妹でぇす!」


 女装したレコが元気よく言った。

 レコも今日はフリフリを着ている。

 アスラたちは大きなテーブル席に並んで座っている。

 アスラたちの対面には、若い男たちが4人座っていた。

 4人の男たちがそれぞれ自己紹介をする。

 憲兵見習い、元中貴族、靴磨き、農家の4人だった。


 アスラの前に座っているが元中貴族。

 年齢は17歳とのこと。儚げな男で、微笑むと崩れてしまいそうな雰囲気。

 合コンの滑り出しは上々。

 8人は雑談しながら食事したり、酒を楽しんだ。

 最初はアスラとアイリスの美しさに目を光らせた男たちだが、すぐに照れるイーナや、ボーイッシュなレコも男たちの攻略対象になった。

 まぁ、レコがボーイッシュなのは男だからなのだが。


「ナヨリはねぇ、人肉とか食べてみたいなぁ!」


 アスラがニッコニコの笑顔で言った。

 当然ながら、6人がドン引きした。

 引かなかったのはアスラ本人と、アスラを狙っている元中貴族。


「ステーキ? それともシチュー?」


 儚げな元中貴族は、少し微笑みながら言った。


「んー! どっちでも! あ、でもステーキならロースがいいかなぁ? シチューなら割とどこでも」


 アスラは相変わらず笑顔だった。

 しかしながら、アスラにそっちの趣味はない。話を振っているだけだ。


「尻肉も悪くないと思わないかい、ナヨリちゃん」

「うん。いいね尻肉。特に若い女の子のは美味しそうだね」


 元中貴族とアスラはニコニコと会話している。

 しかし他の6人の顔は引きつっていた。レコの場合は引きつった演技だが。

 それより、ティナが聞いたらブチ切れそうだなぁ、とアスラは思った。

 尻肉は食べるものじゃありませんわ!! と。

 アスラと元中貴族はその後もカニバリズム的な会話を楽しみ、他のメンバーはもっと普通の会話で盛り上がった。

 そして1時間が過ぎた頃。


「ナヨリちゃん、良かったら僕の屋敷に来ないかい?」

「えー? いいのぉ?」

「もちろんだとも。君に見せたいものがあるんだよ」

「ナヨリ、元貴族のお屋敷とか超興味あるぅ!」


 アスラが媚び媚びで言った。

 アイリスは爆笑しそうになるのを必死に堪えていた。

 イーナは自分の太ももを抓ることで冷静さを保ち、爆笑を回避。

 レコは媚び媚びの団長も可愛いなぁ、と思っていた。


「それじゃあみんな、お先に」


 元中貴族は、みんなに笑顔を見せた。

 それから店員がアスラと元中貴族のコートを持って来た。

 2人はそれぞれコートを着てから店を出た。

 アスラが最後に「まぁ楽しめ」と言った。


       ◇


「気安く触んないでよ」


 アスラの席に移動した靴磨きが、アイリスの髪に触った。


「あたし本当は英雄のアイリス・クレイヴンで、これ任務だから」


 アイリスは靴磨きの手をパシンと叩いた。

 男たち3人が爆笑した。


「面白い冗談だ!」

「英雄様と合コンできるとか最高!」

「アリスちゃん可愛いよ可愛いよ、髪の毛クンクンしてもいい?」


 誰もアイリスの言葉を信じなかった。


「それよりレーコちゃん、俺たちも抜け出さない? 君12歳だっけ? 可愛いね」


 憲兵見習いが言った。年齢は15歳ぐらいか。


「いいけど、オレ男だぞ?」


 レコが淡々と言った。

 そして再び爆笑。


「オイラはクーナちゃんが好みだなぁ」農家が言う。「いじらしい感じが可愛い。うちの野菜を突っ込んで……じゃなくて、食べさせてあげたい」


 ガンッ、と大きな音を立ててイーナが短剣をテーブルに突き刺した。


「傭兵団《月花》の、イーナ・クーセラ」イーナが言う。「それが……本当のあたし。これ、任務だから……。次に、あたしに野菜を突っ込む想像したら……殺すから」


 イーナのただならぬ雰囲気に、男たちは少しビビった。

 だが猛者というのはいるものだ。


「今の興奮した!」アイリスの横に座っていた靴磨きが言う。「クーナちゃんに乗り換え決定! むしろ殺してくれぇぇ!」


 靴磨きが席を立って、背後からイーナを抱き締めた。


「レーコちゃんが男でもいい!!」憲兵見習いも席を立つ。「一緒に天国に行こうレーコちゃん」


「あ、オレまだ11歳で、12歳になるのは来月だよ?」


 レコは淡々と食事をしていた。


「キモい……」


 イーナはスルリと靴磨きの腕から脱出して立ち上がる。

 そして反転して靴磨きの顔に掌底を入れた。

 靴磨きが床に倒れて気絶。


「……ふっ、あたしも、強くなったもんだ……」


 ユルキが死んでからすでに100日以上が経過している。

 今のイーナなら、部隊を率いることも可能だ。

 ちなみにだが、イーナ、マルクスはすでに固有属性を得ている。

 アイリスもあと一歩のところだ。


「クーナちゃんすげぇ! いじらしいと思いきや、実は強いなんて! 一緒に野菜育ててください!」


 農家が立ち上がってお辞儀した。


「いや、クーナちゃんは憲兵になるべきだ! お付き合いしてください!」


 憲兵見習いもレコからイーナに乗り換えた。


「ふっ……モテる女は辛い……」


 イーナはチラッとアイリスを見た。


「なんでよ!?」


 アイリスは納得がいかない。


「あたしのファンは!? あたし推しの人は!?」


 憲兵見習いと農家はイーナを見ていた。


「アイリス、オレがあとでおっぱい揉んであげるね?」


 レコが哀れみを込めた声で言った。


       ◇


 外は雪が降っていた。

 ハラハラと降り積もる雪を眺めながら歩いていると、元中貴族の男がアスラの肩を抱いた。


「こうした方が、暖かいよ」

「うん。ありがとう」


 アスラは笑顔を浮かべながら、心の中で溜息を吐いた。

 ナヨリちゃん、ちょっとチョロすぎたかな?

 そんなことを考えながら、スノーブーツで雪を踏みしめながら歩いた。


「ところでナヨリちゃんは、いつから人のお肉に興味が?」

「んー、私は10歳ぐらいの時に自覚したかなぁ。どうして人間のお肉は食べちゃダメなんだろうって思ったのが最初の自覚」


「へぇ。正直でいいね」元中貴族が言う。「それで、食べたことはあるの?」


「さすがにないよ」とアスラ。


「まぁ、そうだよね。食べるためには、殺さなきゃいけないし」


「そう。だから私の望みは叶わない。だけど、誰か食べさせてくれないかなぁ、って思いながら合コンで話を振るのね」アスラが言う。「まぁ、みんな引くからすぐに終わるんだけどね、その会話は。今日が初めてだよ、続いたの」


 アスラはコロコロと可愛らしく言った。

 もしも前世の記憶が戻らなかったら、こんな感じの可愛い女の子に育ったのかなぁ、なんてことを思った。

 ああ、でも、前世を思い出さなければあの3歳の時に死んでいた。

 元中貴族の男は、それからも色々な話をしたけれど、アスラはあまり聞いていなかった。

 ただ適切なタイミングで相槌を打った。


「さぁ、ここが僕の屋敷だよ」


 元中貴族の屋敷は、まぁ平均的な中貴族の屋敷だ。

 特筆すべきことは何もない。

 少々、薄暗い気がするぐらいか。屋敷の明かりがほとんど点いていないのだ。

 メイドが数名、ってところかな、とアスラは思った。

 たぶん、家族は誰も生きていない。

 玄関を抜けると、コート掛けがあった。元中貴族とアスラはそこにコートをかけた。


 メイドが1人寄ってきたが、元中貴族は「大丈夫。僕がおもてなしするから」とメイドを下がらせる。


「こっちだよナヨリちゃん」


 案内されるままに、アスラは付いて歩いた。

 そして元中貴族は隠された地下への扉を開いた。本棚の裏に隠されていて、普通に見分してもバレないよう細工されていた。

 元中貴族は手燭を用意していて、アスラにも渡した。

 地下室への階段は冷気が籠もっていた。

 元中貴族が燭台に火を入れながら階段を下る。

 そして地下室へ。


「寒いね」とアスラ。

「冷蔵庫だからね」と元中貴族。


 元中貴族は部屋の燭台に火を入れて回った。

 アスラは手燭を床に置く。


「さぁナヨリちゃん、どのお肉が食べたい? ロースにする? 尻肉がいい? 胸肉もあるし、ハラミもある」


 元中貴族は恍惚とした表情で言った。

 揺らめく燭台の火と相まって、酷く不気味だった。

 そこは言葉の通り、冷蔵庫だった。

 だけれど、普通の冷蔵庫ではない。全てが人間の肉だ。解体されたもの、解体されている途中のもの、氷漬けにされたもの、冷水に浸っているもの、様々だ。

 男の肉、女の肉、子供の肉、本当に様々だ。

 吐き気がする、とアスラは思った。

 元中貴族はその財力の全てをこの冷蔵庫に費やした。

 人の肉を楽しむために。


「どうしたのナヨリちゃん、好きな肉を言って! シチューにする!? ステーキにする!? それとも串焼き!? どんな風に食べたい? 性別は!? 年齢は!?」

「初めての仲間に興奮しているね。嬉しいのは分かったから黙れ」


 アスラは服の中から短剣を2本出して投げた。

 その短剣はそれぞれ、元中貴族の左右の太ももに突き刺さる。

 元中貴族が膝を突いて、それから悲鳴を上げた。


「やれやれ、見つからないはずだよ、こんな場所に隠しているなんてね」


 アスラは小さく首を振った。


「な、何者なんだお前は!?」


 元中貴族が半狂乱で言った。


「傭兵団《月花》団長アスラ・リョナ。今は憲兵の仕事を請け負っている。連続失踪事件だったはずが、捜査を進めると君に辿り着いた」


 アスラは淡々と言う。


「クソヤローめ。何人殺して、何人食べたんだい? ああ、クソ、本当なら君みたいな奴は殺すんだが、憲兵は犯人の逮捕を望んでいるから、まぁ仕方ないよね」

「な、何が悪いんだ! 僕は人を食べたい! それの何が悪い!? 人間は自分より弱い動物を食べるじゃないか! なら、人間同士でも、弱い方を食べていいじゃないか! そうだ! 自然の摂理だ!」

「バカかお前」


 アスラが指を弾くと、元中貴族の右腕が消し飛んだ。

 元中貴族は悲鳴を上げながらのたうち回る。


「だったら私はお前を殺してもいいし、どう扱ってもいいってことになるよ? 人間同士の関係ってのはそんなに単純なもんじゃないんだよ。利害だって加わるし、愛憎も混じる。社会は弱肉強食だけで成り立ってるわけじゃない。ってゆーか」


 アスラは次に【花麻酔】を使用して、元中貴族の出血を止めた。

 死んでもいい奴だが、死なれては困る。


「1番ムカつくのは、お前に覚悟がないことだよ。人を殺すなら、人を食うなら、人に殺される覚悟も、人に食われる覚悟もしておけ。下手な言い訳並べてないで、好きで殺して好きで食った、文句あるか? あるなら殺して止めてみろ、とか言えないのかい? ふふっ、私は私に文句があるなら、いつでも殺してくれて構わんよ? もちろん、抵抗するがね」


 と、アスラのスカートの中からレコ人形がもそもそと出てきた。


「憲兵すぐ突入するってさ」とレコ人形。


「うむ。ご苦労ブリット。スカートの中はどうだい? 居心地いいかね?」

「スカートじゃなくて太ももだし俺様がいたの」


 アスラは太ももに革のベルトを巻いている。そのベルトに、レコ人形専用スペースを作ってあるのだ。

 銃のホルスターみたいなものだ。

 今のチャームポイント。まぁ、外からは見えないけれど。


「あ、うん、太ももはスカートの中なわけだけど……まぁいいか」


 ブリットは太もも好きなので、まぁ居心地が悪いということはないはずだ、とアスラは思った。


「でも俺様、もっとムチムチした太ももが好きだぞ。アスラのはちょっと微妙だ。8点ぐらいだな」

「10点満点ならいい方じゃないか」

「100点満点だ」


 アスラはレコ人形を蹴っ飛ばした。

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