第5話 情けも容赦も期待すんな! テメェらは地獄の業火で死ぬんだよ!


 レコは古城の外で双剣を模した木剣を両手に握っていた。


「双剣を教えてもらえるとは、助かる」


 マルクスもレコと同じように2本の木剣を握っている。

 レコの右隣にマルクス。更にその右でサルメも同じように木剣を握っていた。


「はい。みなさん仕事に出ているので、わたくしめの仕事が少ないのでございます」


 3人の前に立ったヘルムートが言った。

 ヘルムートも木製の双剣を握っている。


「助かりました」サルメが言う。「ずっと騎馬戦闘訓練で、お尻と太ももがズタズタだったので」


「サルメに同意する」とレコ。


「明日からまた騎馬戦闘だ。槍、剣、短剣、まではやったが」マルクスが言う。「まだ魔法、弓、魔法と各種武器の複合戦闘訓練が残っている」


「ずいぶんと厳しい訓練を積むのですね」ヘルムートが言う。「さすが傭兵。我々英雄は、もっと特化しているのですが、傭兵は広く満遍なく多くを覚える、ということでございましょうか」


「そうだ」マルクスが頷く。「あらゆる状況に対応できなくてはいけない。自分たちの仕事は多岐に渡る」


 護衛から暗殺、戦争への参加まで。


「そのようでございますなぁ」ヘルムートが双剣を構える。「わたくしめの双剣術は、西フルセンでもっとも流行しているものでございます。スタンダード、と申しましょうか」


 ヘルムートは左半身で構える。自然な構えだ。剣を両手に持って半身で構えただけ。

 中央のクレイモアのように額の前で構えたり、東のロングソードのように正眼に構えたりはしない。


「これが構えでございます。右半身、左半身はどちらも使えるようにする必要がございます。左右、同じように攻撃できることが大切ですな」


 ヘルムートが構えを右半身に変更した。


「本来、双剣では利き手とそうでない方で差が出てしまいますが」ヘルムートが言う。「その差をなるべく小さくすることが大切ですので、そこは強く意識して頂きたい」


 ふむふむ、とレコはヘルムートの真似をして構えた。

 サルメとマルクスも同じように構える。


「双剣の攻撃は主に連続攻撃となります」


 ヘルムートが近くの木人を連続で斬りつける。

 それは舞いのように軽やかで、美しく、凄まじい速度だった。


「このような感じですね。中央のクレイモアに比べて、一撃は軽いのですが、絶え間ない連続攻撃で削っていくイメージでしょうか」


 ヘルムートが構えを解いて楽な姿勢に。


「か、カッコいいです!」サルメが言った。「双剣カッコいいです!」


「すごいね!」レコも楽しそうに言う。「連撃すっごい!」


 サルメとレコが構えを解いて楽な姿勢へ。


「ありがとうございます、サルメお嬢様にレコお坊ちゃま」ヘルムートが言う。「しかし、わたくしめの双剣は、師匠に比べたらまだまだでしょうね」


「ほう。師匠はまだご健在であるか?」


 マルクスも構えを解く。


「いえいえ、わたくしめがまだ少年の頃に《魔王》討伐で亡くなっております」


「ということは、英雄ですね」とサルメ。


「いえいえ、大英雄にございます」ヘルムートが過去を懐かしむように目を細めた。「エッカルト・アーレルスマイアー。流水の双剣と呼ばれるほど、美しい動きでしたねぇ」


「大英雄が師匠なんだね」レコが言う。「死んじゃったのは残念だね」


「英雄の定めでございますな」ヘルムートが微笑む。「しかし、亡くなって良かったのかもしれません。師匠は実力は確かでしたが、性格がねじ曲がっておりましたので」


「そうか。西では英雄選抜で面接を行わないんだったな」マルクスが言う。「そのせいで、西側には頭のおかしい英雄も割といたという話だったか」


「師匠はその典型ですな。わたくしめは別に嫌いではありませんでしたがね。師匠は誰彼構わず性行為をしようと誘うのでございます。男も、女も、子供も、老人も、まさに性欲の権化。わたくしめも危うく掘られるところでした」

「それは……ちょっと」


 サルメが引きつった笑みを浮かべた。

 サルメは男たちの性的な欲望を嫌というほど見てきたのだ。

 乗り越えて進んでいるが、やはりまだ少し嫌悪感があった。


「しかし師匠は悪人ではなかったので、断ればそれで大丈夫でございましたなぁ。和姦しかしない、がモットーでしたので」


「オレも団長と和姦したい!」とレコが言う。

「私は団長さんをリョナしたいですね」とサルメ。


「それはオレもしたいよ?」

「強くなったら、2人で団長さんをリョナしましょう」


「それは団長も嬉しくて泣くだろうな」マルクスが溜息を吐いた。「お前たちが2人がかりとはいえ、団長に勝てるようになったら自分も嬉しい」


「本当に面白い団ですな」ヘルムートが笑う。「さて、それでは皆様、基本的な動きを教えますので、わたくしめと同じように剣を振ってみましょう。大丈夫、速度は落として行います故」


       ◇


 夜。


「ぎゃははは! やっぱ殴るなら女に限るぜ!!」


 ラヘーニ王国、地方都市の民家。その広いリビング。

 マッチョな男が20代の女を半殺しにしていた。


「ちょっとー! うちらは殴らないでよねー!」

「おう、仲間は殴らねーよ! おらおら!」


 20代の女に蹴りを入れながら、マッチョが楽しそうに笑う。

 この民家は地元ギャング団の根城で、今は10人の人間がいる。

 3人は2階で眠っていて、6人がこの1階で好きに過ごしていた。

 残り1人は、泣きながら助けを求めている20代の女だ。


「そいつ商品ちゃうんけ?」とギャングのメンバーが言った。


「ちゃうちゃう、こいつアレや」マッチョが言う。「俺様がこいつの店の商品、貰ってやるって言ってんのにガタガタ言うからよぉ、ウッカリ拉致っちまったんだ」


「きゃはは! 強盗じゃん!!」


 ギャング団の女が笑った。

 1階にいるギャング団のメンバーは、男が3人に女が3人だ。


「てゆーかー、灰皿ちゃんは? 最近見かけないけどぉ、誰か殺しちゃった?」


 金髪の女がマリファナを吸いながら言った。


「知らなーい。死んだのか逃げたのか、まぁどうでもいいけどさー」青い髪の女が言う。「てかー、その女、新しい灰皿ちゃんにしよ?」


「おいおい、もうちょい暴行させろや? フル勃起してんだぜ? 俺様」


「ほどほどにしとけよ?」茶髪の男が言う。「殺したら死体の処理面倒だろうが」


「そんなん、奴隷たちにやらせればいいじゃーん!」


 金髪の女が楽しそうに言った。

 奴隷というのは、本当の奴隷ではない。彼らギャング団が飼っている者たちのこと。売春をさせたり、危ない仕事をやらせたりしているのだ。

 ライリもその1人だった。


「ういー、元気してっかー?」


 ユルキがリビングに入りながら、右手を挙げた。

 あまりにもフレンドリーだったので、ギャング団のメンバーたちはユルキを仲間だと誤認した。


「おう! お前もやるか!? 殴るなら女に限るぜ!! ふははは!」

「やだー! イケメンじゃーん!? あたしとしよ!?」

「てか誰だっけ? 新人だっけ?」

「お前、名前は? 新人の話なんざ聞いてねーぞ」


 全員の視線がユルキに集中した。


「俺だよ、思い出せ」ユルキが急に真剣な表情で言う。「てめぇに言ってんだよヤルッコ。久しぶりじゃねーか? なぁおい?」


 ヤルッコと呼ばれた茶髪の男は、ユルキの顔をジッと見詰める。

 そして、青ざめた表情に。

 そんなヤルッコの様子を見た残りの5人が、怪訝そうに顔を見合わせた。


「思い出してくれたか?」とユルキ。


「か、カシラ……なんで……こんなとこに……」ヤルッコは咥えていたマリファナを落とした。「た、確か……銀髪のガキと茶髪の女に連れて行かれたんじゃ……」


「おうおう、カシラってのは何の話だ?」とマッチョ。

「『自由の札束』、4代目カシラ……」とヤルッコ。


 札束の名前が出たことで、5人が本気で驚いた。この国において、特に裏の世界に身を置く者にとって、『自由の札束』は不可侵の神域。

 誰もが恐れる盗賊団。盗めないものは何もない。貧乏人に金をばら撒き、孤児をいじめる者の財産を徹底的に奪い尽くした。


「よしよし、思い出してくれて良かったぜ」


 ユルキが再び微笑んだ。


「ど、どうしたんっすかカシラ」ヤルッコが言う。「う、うちに入りたいんっすか? カシラなら全然、何の問題もねーです、はい」


「えー!? すごーい!」青い髪の女が言う。「札束のカシラとか、伝説じゃん! しかもこんなイケメンとか!! 即仲間でしょ!」


 この青い髪の女は、『自由の札束』の最後を知らない。

 正確には、その場にいたヤルッコ以外はみんな知らない。

 たった2人で、正確にはアスラ1人で壊滅させたのだが、その話は表に出ていない。出せるはずがない。

 あの『自由の札束』が、小さな女の子1人に破壊されたなんて。


「あんたの伝説は聞いてるぜ」マッチョが20代の女の髪を掴んで、顔を上げさせる。「お近づきの印に、この女、殴っていいぜ?」


 20代の女は涙を流しながら、小刻みに震えている。


「てかカシラ、あの銀髪のやべぇガキは、結局どうなったんっすか?」とヤルッコ。


「団長のことなら、俺の上司に収まってる。つーか、俺今、傭兵やってんだ」ユルキが言う。「それでなー? お前ら今から殺すけど、抵抗しねーなら優しく殺してやるぜ?」


 ユルキの言葉に、ギャング団のメンバーたちはキョトンとした。


「きゃはは! それジョーク!?」金髪の女が言う。「2階で寝てるやつ、超強いんだよ!? 寝起きは機嫌悪いし、騒いだら起きてきちゃうよ!?」


「もう死んでんじゃねーかな。ちなみにお前も」


 ユルキがそう言うと、金髪の女が炎に包まれた。

 金髪の女は悲鳴を上げながら、大暴れして、そのまま消し炭になった。

 ユルキは上手に火を操作して、家に燃え移らないようにした。初陣の頃に比べて、魔法の精度が上がっているのだ。

 人間が焼ける酷い臭いと、そのあまりにも凄惨な様子に、残り5人のギャングたちは硬直した。

 マッチョは掴んでいた女の髪を無意識に手放していた。


「あれ? ユルキまだやってたの?」2階から下りてきたラウノが言う。「上はもう終わったよ?」


「その人、病院に連れて行ってやってくれ」


 ユルキが指したのは、マッチョが暴行していた女。


「うん。そうだね」


 ラウノがゆっくりと歩いて、女に近寄る。


「ふ、ふざけんじゃね……あれ?」


 マッチョが叫んだけれど、同時にラウノがマッチョの首を短剣で斬った。

 マッチョの首から血が噴き出し、マッチョはそのまま崩れ落ちた。


「さぁ、もう大丈夫だよ。助けに来たんだよ。行こう」


 ラウノは女をお姫様抱っこしてリビングを出た。


「さぁ、地獄の開幕だぜ?」


 ユルキがパチンと指を弾くと、ヤルッコが燃える。


「そんなぁぁぁ!! カシラぁぁぁぁ!! 助けてくださいぃぃぃぃ!!」


 ヤルッコが燃えながら暴れる。

 だが炎はどこにも燃え広がらない。

 確実にヤルッコだけを焼いた。


「お前らは、そう言った人たちを助けたことあるか?」


 ユルキは淡々と言った。


「う、うわぁぁぁぁ!」


 もう1人の男が走って部屋を出ようとしたけれど、ユルキが足をかけて転がした。

 そしてそのまま焼き殺す。

 ちょうど、ヤルッコも消し炭になったところだ。


「逃がすわけねーだろ? お前らみんな焼けて死ぬんだよ。焼け死ぬのは苦しいぞ? ああ、でもお前らにはお似合いだぜ」

「や、やめて……」


 青い髪の女が泣き出した。もう1人の女も泣いている。


「慈悲なんか期待すんなよ? 俺は傭兵だぜ? テメェらは、死ぬんだよ。天地がひっくり返ろうが、悔い改めようが、死ぬんだよ! テメェらは! 苦しめてきた連中に!! 業火の中で詫びろ!!」

 

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