EX43 レコの女装大作戦 目指せアスラのケツの穴


 傭兵団《月花》拠点の古城。

 アスラとサルメがトピアディスから戻った日の夜。


「団長! オレ、デザートが欲しい!」


 食堂で夕食を終えたレコが言った。

 声が大きかったので、みんながレコに注目する。


「ふむ。イーナが採取した野生のリンゴがあるだろう? なんならウサギさんの形に切ってあげようか?」


 アスラは長机を挟んでレコの対面に座っている。

 でもアスラはレコじゃなくてメルヴィの方を見て言った。

 メルヴィはレコの隣に座っていて、まだ食事中だった。アスラの視線にも気付かない。


「違う違う!」レコが言う。「オレの欲しいデザートは! 団長のほっぺ!」


 アスラはレコの発言の意味が理解できず、キョトンとした。


「前に指、舐めさせてくれたでしょ? すごく美味しかったから、次はほっぺ舐めたい!」

「ああ、なるほど。いつもの私フェチ発言か」


 アスラは小さく首を振った。


「1ペロでいいから!」

「何か新しい単位が生まれたぁぁ!」


 アイリスが驚いて言った。


「アイリスうるさい」レコが言う。「嫉妬しないで。あとでおっぱい1ペロしてあげるから」


「あたしが望んでるみたく言うなぁぁぁ!」

「……いちいち、レコに反応するから……」


 イーナがやれやれと溜め息を吐いた。


「指を舐めさせた時の私はね」アスラが言う。「腹痛で何もかもがどうでも良かったんだよ。だから今は当然、拒否する」


「じゃあもう一回腹痛になって!」とレコ。


「嫌だよ」アスラが言う。「前にも言ったはずだけど、私は中身がオッサンだからね? よって、男に興味はない」


「女の子だったらいいの!?」とレコ。


「ああ。なんならアイリス、私の頬を1ペロするかね?」


 アスラはケタケタと笑いながら言った。レコとアイリスの両方をからかったのだ。


「だからあたしは別に1ペロとかしたくないし、されたくもないんだけど!?」


「分かった団長」レコが決意を秘めた瞳で言う。「オレ、女の子になるよ!」


 その発言にはみんなが目を丸くした。


「……ここはバカの巣窟なのですぅ……」とブリットがボソッと言った。


「ははっ! 可愛かったら1ペロさせてあげるよ! 頑張りたまえ!」

「絶対だよ!? 約束だから!」

「もちろんだとも。その代わり、可愛くなかったら1日アイリスの椅子だよ」


「望んでない!」アイリスが言う。「レコが椅子になるとか、全然あたし望んでないからね!」


「……じゃあ、あたしの椅子で」とイーナ。


「絶対可愛い女の子になるし」レコが言う。「アイリス手伝って」


「へ? なんであたしが?」


「認めたくないけど、この団の中じゃ一番女の子っぽいから」とレコ。


「失敬な」サルメが言う。「私も手伝いましょう。ええ。手伝いますとも」


「失敬って何よ!?」アイリスが言う。「ごめんサルメ、失敬って何!?」


「ぼくを差し置いて、というのは理解できませんわ」ティナが言う。「どう見てもぼくの方が女の子ですわ。よって手伝いますわ」


「あたしと比べたの!? ねぇあたしと比べての話なの!?」


「……最近は、あたしもイケてる……気がするし……手伝う」イーナが言う。「アイリスは恋も、知らない……子供。……比べて……あたしは、恋する乙女……だし」


「相手ゴジラッシュでしょうが!」とアイリス。


 イーナが最近、ゴジラッシュにメロメロなのはみんな知っている。


「あたしが、その、髪の毛とか……梳かします!」


 メルヴィまで乗ってきた。


「お姉ちゃんと一緒に梳かそうね」アイリスがデレデレと言う。「お姉ちゃんのお膝の上に座って。ね?」


「ありがとうみんな」


 レコは少し微笑みを浮かべ、心から感謝している風を装った。


(ふふっ、アイリスを持ち上げたら絶対にみんなそう言うと思ったよ。残念だけどオレの計画通りだよ。さぁ、みんなで精々、オレを可愛くすればいい!)


 ソシオパスであるレコは、嘘を吐くことに罪悪感はない。


「いつも賑やかねぇ」


 ずっと黙って食事していたエルナが言った。


「君、いつもうちで飯食ってるけど、家に帰りたまえよ」アスラが苦笑いしながら言う。「もう話し合いは終わったのだし」


「嫌よ。どうせここで会議なのだし。それにわたしもレコちゃんの変身が見たいわー」


 貴族王への対処について、大英雄会議を開くことになった。

 この古城で、アスラも交えて。


       ◇


 翌日、レコはオフをもらってティナとリヨルールで買い物をしていた。


「やっぱりお腹は見えている方がいいですわ」


 女の子の服を選びながらティナが言った。

 もちろんレコ用の服だ。

 ちなみに、ティナは黒のローブ姿だ。しかし、ローブの下はお腹の見えている服に短いスカートという出で立ち。


「オレ、ビッチっぽいのはちょっと」

「誰がビッチですの!?」

「もっとこう、胸がキュンってする系がいい」

「ぼくが【招雷】してキュンってさせますわよ!?」

「それキュンって言うか、ビリビリだし。オレが言ってるのは、メルヴィみたいなの」

「ああ、なるほど。ではこっちのフリフリですわね」


 ティナが指さした場所には、フリルの装飾が多い可愛い服があった。

 色の種類も多い。


「ドレスっぽいものよりは、ブラウスの上からエプロンワンピースの方が素朴な感じでいいですわ」ティナが言う。「メルヴィのはドレスですけど、きっとレコには似合いませんわ」


「まぁオレ元々、普通の村人だしね」

「そうですわ。素材を活かす方がいいですわってゆーか、そういう方向に決めたじゃありませんの」


 昨夜、夕食後にサルメの部屋に集合してレコ女子化計画を立てたのだ。

 簡単に説明すると、素材の味を活かした女装である。

 ティナが先にお腹見えてる服がいいって言ったんだけどなぁ、とレコは思った。

 なんだかんだ、良さそうな服と下着を購入し、次はウィッグを探しに別の店へ。


「やっぱり白色がいいですわ」

「それティナの姉様だし」


「姉様こそ至高」ティナが嬉しそうに言う。「あぁ、また姉様の顔の上に座りたいですわ」


「……オレはジャンヌはちょっと……」


 ジャンヌは年齢が上過ぎて、レコにはお母さんだ。よって、好きな女の子や理想の女の子にはなり得ない。


「じゃあ、ぼくとお揃いの赤毛は?」

「団長とお揃いがいいけど、団長って金髪が好きなのかなぁ?」


 レコにとっては、やはり同年代のアスラが一番だ。まぁ、ティナも見た目だけなら同年代に近い。


「なんでそう思いますの? アイリス基準なら、アスラは別にアイリスの髪が好きなわけじゃありませんわよ」

「まぁそうなんだけどね」


 なんだかんだ、素材の味を活かすなら茶髪のウィッグでいいという結論に至った。

 最後に靴を買って、レコとティナは古城に戻った。


       ◇


 アスラは食堂で食後のコーヒーを楽しんでいた。


「レコちゃん、どうなったのか楽しみね」


 アスラの隣で、アスラと同じようにコーヒーを飲んでいるエルナが言った。

 当然だが、今日エルナが食った飯も今飲んでいるコーヒーも、《月花》の物だ。

 まぁエルナは今日、団員たちに弓の訓練を施してくれた。だからどれだけ飲み食いしようが、しばらくは許す。


「所詮は女装っしょ?」ユルキが言う。「俺はやっぱ本物の女じゃねーと無理っすよ」


「別に誰も聞いてないが?」


 マルクスが淡々と言った。

 ちなみに、マルクスはお茶を飲んでいる。

 ユルキはビールだ。

 と、メルヴィが子供用のバイオリンを持って食堂に入ってきた。

 メルヴィは元大貴族なので、バイオリンを嗜んでいる。

 メルヴィはみんなに礼をして、バイオリンを構えた。


「演出が念入りだね」とアスラ。


 メルヴィがバイオリンを弾き始める。

 曲はアスラが教えた『アルルの女』のファランドール。

 この世界にも楽曲はあるけれど、割と微妙なものが多い。理由としては、やはり戦士優遇の世界だからだ。

 音楽家になる者がそもそも少ないのだ。まぁ、魔法使いよりはマシだけれど。


「いい曲だね」ラウノが言う。「僕も音楽を何かやってみようかな? お金も余りそうだし」


 楽器職人が少ないので、楽器は高価な物が多い。それも、音楽家が増えない理由の1つだ。


「もうちょい遊び歩けよラウノ」


 ユルキがニヤニヤと言った。


「……ラウノ様は、お前みたいな……ボンクラとは違うのですぅ……」


 ブリットがボソッと言って、ラウノは肩を竦めた。


「ははっ、ボンクラだってよ」とユルキは楽しそうだ。


 酔っているから何でもいいのだ。

 メルヴィの演奏が終わると、今度はアイリスとサルメが食堂に入ってきた。

 アイリスとサルメの2人は、キャリングホルダーで小太鼓を身体に装着している。

 アイリスも元小貴族なので、楽器を嗜んでいた。ただし、バイオリンでもピアノでもなく小太鼓だった。

 サルメは今日、初めて小太鼓を演奏する。


 そして2人はクローズドロールを開始。

 ふむ、アイリスはさすがに上手いな、とアスラは思った。

 音がきちんと繋がっていて、綺麗なロールになっている。

 反面、サルメの方は音が繋がっていないので、音と音の間に空白があって、微妙なロールになっていた。

 そしてクローズドロールが終わり、どこからともなく角笛が聞こえる。

 イーナが角笛を吹きながら、歩いて食堂に入った。

 そのあとを、ティナとレコがゆっくりついて歩いた。

 ティナがレコの手を引いている。


「あらあら?」エルナが最初に反応。「レコちゃんなの?」


「わぁお」とユルキ。

「どこからどう見ても、女の子だ」とマルクス。


 ティナはアスラの隣までレコを誘導した。

 イーナは角笛を吹くのをやめて、アイリスとサルメの近くへ移動。


「団長、オレどう?」とレコ。


 レコは茶色の長い髪の毛に、うっすら化粧をしている。

 服装は白のフリフリのブラウスに、赤色のエプロンワンピース。エプロンの部分は白色で、腰紐の結び目がリボンになっていて可愛らしい。

 足には白のハイソックス。靴はペッタンコのシンプルな物。


「可愛いじゃないか」


 アスラが一切表情を変えずにそう言ったのは、レコが「どう?」と聞いてから約1秒後。


       ◇


 アスラの1秒間。

 バカな!? 普通に女の子じゃないか! ビックリするほど可愛いじゃないか!

 しかもこの可愛い子、私フェチなんだ。私大好きの可愛い子とか、悪い気はしないよね?

 レコが望むなら、ぶっちゃけ前世の私ならケツの穴にぶち込んであげてるよ。


 って、ちょっと待てアスラ・リョナ。

 いいか? 私は前世も合わせると50歳を超えている。つまり、11歳のレコに欲情しそうになるとか、ロリコンか!!

 いや待て。落ち着け私。落ち着くんだ。

 この場合、ショタコンなのでは?

 どっちだ?

 いや違う、そういう話じゃない。いや、そういう話でもあるけれど。


 くそう。このアスラ・リョナの肉体は正常な少女で、脳にも異常はない。肉体的にはサイコパスではないのだ。

 よって、ごく稀にこんな風に混乱することがある。そう、私は混乱しているのだ。

 ああ、そういえば母の島国に今のレコを表す言葉があったはず。何だっけ?

 ああ、そうだ、思い出した。


 男の娘だ。そう、男の娘。

 ちなみに父の国ステイツで最も多く検索された変態ワードはフタナリである。

 まぁ、レコは男の娘の方だが。混同してはいけない。2つは別の性癖だ。

 って、そんなことはどうでもいい。

 とにかく、ほっぺを舐めるぐらいは許してあげようじゃないか。

 なぜなら君は――。


       ◇


「可愛いじゃないか」


 アスラの感想に、レコは飛び跳ねて喜んだ。

 アスラは表情を変えていないけど、本当に可愛いと思ったから口にしたのだ。

 なぜなら、嘘を吐く理由がないから。


「やったぁ! 1ペロだ! 1ペロゲットだぁ!」


 レコがクルクルと舞う。

 そうすると、まだ手を繋いでいたティナもクルクル舞う。


「1ペロおめでとうですわ!」


 ティナって割と乗ってくれるなぁ、とレコは思った。

 みんなもノリノリでおめでとうと言った。


「……これは一体、何を祝っているのですぅ……?」


 ブリットは奇妙な生命体を見るように、《月花》の団員たちを見回した。


「じゃあ早速!」


 レコは軽く舞い終わり、ティナの手を解く。


「よろしい。右の頬をくれてやろう」


 アスラが立ち上がり、右頬をレコに向ける。

 アイリスがドラムロール。

 それに合わせて、レコがアスラの頬に舌を当てる。

 レコはゆっくり舐めてアスラの頬の感触を楽しみ、味を楽しんだ。

 やがて舐め終わり、


「団長、次はケツの穴をペロりたい」

「いや調子に乗るな。色々とすっ飛ばしてラスボスに向かうな」


 アスラが軽く、レコの頭をチョップ。


「1チョップもらった!」


 レコが嬉しそうにはしゃぐ。


「……意味が理解できないのですぅ……」ブリットが言う。「実に、くだらないのですぅ……」


「だからこそ、楽しい」ラウノが言う。「君にもいつか、分かるといいね。こういうクソみたいにくだらない時間が、とっても楽しいんだ」


「ちょっとラウノ!?」アイリスが言う。「一生懸命盛り上げたのに、クソって言った!?」


 そしてなぜかサルメがロール。

 イーナが無駄に角笛を吹いた。

 オレたちは傭兵だから、とレコは思った。

 明日死ぬかもしれない。下手したら今夜かも。

 だからみんな、楽しい時は思いっきりはしゃぐのだ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る