EX16 そろそろガチで仲間を増やそう 能力があれば犯罪者でもオッケーさ


「私がパーティに行っている間、情報収集を任せたい」


 アスラはドレスやその他、必要な物を鞄に詰め込みながら言った。

 アスラたちの拠点、アスラの部屋。

 ちなみに、この部屋は元ジャンヌの部屋で、その前は王の寝室だった。

 部屋は広く、ベッドも大きい。

 だがジャンヌが余計な物を片付けたのか、やや殺風景だ。


「了解です。何の情報を集めればいいでしょう?」


 マルクスは珍しく椅子に座り、ベッドの上で出発の準備をしているアスラを見ていた。

 部屋には現在、アスラとマルクスの2人だけ。

 アスラがマルクスを呼んだのだ。


「そろそろ即戦力の仲間が欲しい。そう思わないかね?」


 準備を終えたアスラが小さく息を吐いた。


「そうですね。本格的にルミアの代わりが欲しいですね」


 ルミアは2日前に旅立った。


「アイリスが光属性だったとはいえ、彼女は本当の仲間じゃないしね」

「ええ。光属性の魔法使いを探せばいいんですか?」

「いや、そういう意味じゃない。魔法は使えるに越したことはないけど、魔法使いの数は少ない。だから私らが教えるとして、別の能力を重視しよう」

「別の能力?」

「戦闘能力や知能。あるいは何か特別な才能。もしくは熟練した技術」


「熟練した技術……」マルクスが思案する。「釣りの天才とかですかね?」


「わぁお! 毎日、魚料理が食べられるね! ってそんなわけあるか!」


 アスラの突っ込みに、マルクスが肩を竦める。


「ま、実はすでに調べてもらいたい場所は決まってるんだよね」

「場所? 人ではなく?」

「そう。正確には、その場所にいる人間の情報が欲しい」

「分かりました。どこです?」

「監獄島」


 アスラの言葉に、マルクスが目を丸くした。


「おいおい、そんなに驚くなよマルクス。選り取り見取りだろう?」

「ええ、まぁ……しかし、重犯罪人しかいませんよ?」

「ユルキ、イーナ」


 アスラは楽しそうに言った。

 ユルキとイーナは元盗賊。特にユルキの方は手配書リストのトップ10入り。捕まったら死刑確定。

 または、ヘルハティ王国なら監獄島送り。

 監獄島があるのは、東フルセンで唯一死刑を廃止している国であるヘルハティ王国だ。


「そうでしたね。うちにはすでに犯罪者がいましたね」


 やれやれ、という風にマルクスが肩を竦めた。


「正直、私らも犯罪者と大差ないだろう? 法を守らないという点ではね」


「確かに」マルクスが頷く。「むしろ法を重視しない人間の方が我々とは合いますね。しかしヘルハティ王国ですか……」


「何か問題かね?」

「いえ。東フルセンの玄関であり最大の貿易国。経済大国とも呼ばれていますね。海路を用いて西や中央と取引をしているので、珍しい物も割とあるらしいですね」

「なるほど。楽しみなんだね」


 アスラが小さく笑った。


「そうですね。海を見るのも自分は2回目なので、楽しみです」

「うん。ヘルハティは海に面しているから、海軍もあるよね」

「海軍というのは、自分には縁がなさすぎてよく分からないですね」

「海賊退治など、シーレーンの安全を守るための軍だよ。船上での戦闘や、臨検に特化しているから、軍隊同士の衝突は想定してないかもね。沿岸警備隊の方が性質は近いかもしれない。知る限りね」


 アスラがこの世界の軍隊について調べた時の情報だから、少し古い。

 現在はまた少し形が変わっている可能性がある。

 当時、各国の海軍は遠洋に出て探検をしようという機運が高まっていた。


「海軍についても少し探っておきましょう」マルクスが言う。「いずれ我々と戦う可能性もありますからね」


「そうだね。この世界に存在するあらゆる軍は私らの敵になりうる」


 情報は大切だ。特に技術系には目を光らせる必要がある。

 例えば、大砲の発明。大砲が生まれれば、戦争が一気に変わってしまう。


「それで誰を連れて行っていいですか?」

「ユルキ、サルメ、それから望むならティナを連れて行ってやれ」

「ティナ?」

「観光だよ。ここに1人残すと寂しがるかもしれない。一応誘ってやれ。行くかどうかは本人次第だがね」

「ふむ。了解しました。では団長はイーナとレコを連れて行くんですね?」

「その予定だよ」


「……我が団の問題児ですね……」マルクスが苦笑い。「大丈夫ですか? 戦勝記念パーティには各国の偉い人や英雄も数名集まるという話では?」


「喧嘩しないようによく言って聞かせるよ」アスラが肩を竦める。「ちなみに、今回のパーティは《魔王》討伐記念も兼ねるそうだよ」


「ほう。では《魔王》は無事討伐したんですね。アイリスの生死は? というか、団長はどこでその情報を?」

「今朝、手紙が届いた」

「まったく気付きませんでした。しかし誰からの手紙です? アイリス……はこの場所を知りませんよね?」


「君は部屋に籠もって筋トレしてたからね」アスラが笑う。「まぁオフの日に何をしていても構わないけど」


 オフは今日の正午まで。そこからはアスラチームとマルクスチームに分かれて仕事だ。

 アスラチームはパーティに参加し、自分たちを売り込む。

 マルクスチームは監獄島の情報収集。


「ちなみに手紙はサンジェストの王子から。文通することにしたんだよ」

「団長が……文通?」

「そう。アーニア王とも文通しているよ」

「いつからです?」

「アイリスに手紙のシステムを聞いた時だから、ノエミを倒したあとだね」

「なるほど。アーニア王にはまだ報酬を貰っていませんしね」


 マルクスは少し声を落とした。

 アイリスがいないのでその必要はないのだが、癖みたいなものだ。


「食糧支援と武具の支援を頼んでおいたから、いずれここに届く」

「無料で?」

「もちろんだとも」


 量はさほど多くない。アーニア王のポケットマネーでまかなえる分量だ。

 量が多くなって国庫を開く必要が出れば、議会の承認がいるからだ。


「さて。では自分はユルキとサルメに任務を伝え、ティナを誘ってみます」

「私もイーナとレコに伝えよう。昼食を摂ったらお互い出発しよう。まぁ、パーティ自体は5日後だから、焦る必要はないがね」

「ふむ。しかし早めに動いて損はないでしょう。不測の事態に対応する時間は必要です。それに、ここからですと、到着は早くて明日の夜ぐらいになるでしょうし」

「もう少しゆっくり行く。城下町到着は明後日の昼。その次の日には、イーナとレコのパーティ用の服を見繕う」


       ◇


 2日後。

 サンジェスト王国、城下町の宿。

 アスラたちはすでに待機していたアイリスとロビーで合流した。


「……生きてたんだ」イーナが言う。「……残念。死んでたら、お墓作ってあげたのに……」


 アイリスが《魔王》退治に向かった時、「死なないで」と本音を零したことを、イーナはもう忘れていた。


「ぶっちゃけ、《魔王》そんなに怖くなかったわよ?」


 アイリスは気分良さそうに言った。


「やったねアイリス! ご褒美に胸を揉んであげる!」


 レコがアイリスに手を伸ばしたが、アイリスはヒラリと身を躱す。

 そして舌を出して「べぇ」と言った。


「詳しく聞かせておくれ。今回の《魔王》のこと」

「いいわよ。たぶん《月花》でも倒せるわね。被害は甚大だと思うけど、それでも倒せる程度の強さだったわ。攻撃力と防御力は高いけど、動きが遅いのと知性が低いのが弱点」


 アイリスは《魔王》戦のことを詳細に話した。

 話し方に自信が漲っている、とアスラは気付いた。

 どうやら、《魔王》を倒したことで自信を深めたようだ。


「なるほど。ほぼ君が倒したようなものだね。さすが私らの弟子」


 アスラは機嫌良く言った。


「……【閃光弾】……効くんだね……」

「アイリスの話だと、確かにオレらでも勝てそう。オレは死ぬけど」

「正直、私しか残らないだろう。だからやはり、《魔王》退治はまだ無理だね。《月花》のレベルを引き上げる必要がある」

「オレ、MPの認識もうすぐ1秒!」

「1秒になったら言いたまえ。次は取り出す方法を教える」


「ま、あたしも今回の《魔王》退治で一目置かれちゃった的な?」アイリスがニコニコと言う。「西の大英雄様に引き抜かれそうになっちゃった的な? あたし実はすごかった感じ?」


「……アイリスがウザい……」イーナが苦笑い。「元から……ウザいけど……更に」


「縛り上げて悪戯して泣かそう」とレコ。

「なんでよ!?」とアイリス。


「まぁまぁ」アスラが宥める。「それより君ら、明日は服を買いに行くよ。アイリスもパーティ用の服は持ってないだろう?」


「うん。家に帰ったらあるけど……」


「君の家は東フルセンだろうに……」アスラが肩を竦めた。「取りに帰ったら間に合わない」

「それが、その……」


 アイリスが言いにくそうにアスラをチラチラと見る。


「ああ、金がないんだね?」


 アイリスは魔法兵になるため、《月花》に借金をした。

 だからアイリスは金が入る度に、生活費を除いてアスラに渡している。


「……貸そうか?」イーナが言う。「利息は……1日1割……」


「イーナ優しい」とレコ。


「全然優しくないわよ!? 1日1割って、どんな悪徳金融業者よ!? ってゆーか悪徳金融業者も目玉が飛び出る利息じゃないの!!」


「いいよ、私が買ってあげるよ」アスラが言う。「《魔王》を倒した記念だと思えばいい」


「本当!?」

「本当さ。ほら、ハグしてもいいよ?」


 アスラが面白半分で両手を広げると、アイリスが本気でアスラを抱き締めた。


「ぐぬっ」


 レコが羨ましそうにアイリスを見た。

 アスラはせっかくなので、しばらくアイリスの胸の感触を楽しんだ。

 やっぱり、胸はそこそこある方がいい、とアスラは思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る