第37話 エピローグ

 私が帰還場所に地下迷宮の入り口を選んだのは、徒歩での帰還を演じるため。

 『大特異点』の存在が知られれば、また探査隊を送るだろうし、その結果犠牲者も増える。

 地上では、探査隊全滅の責任問題がお偉いお役人様の間で取沙汰されていて、色々なお役人様が、これを派閥抗争に利用しようとしていたところだった。

 責められていた、現在最大派閥のお偉いお役人様にとって『少女の奇跡の生還』は、格好の話題逸らしになり、私は一躍有名人に祭り上げられたのだった。


 アンちゃんを守るため、これを私は利用した。

 龍と私の出合いを美談に仕立て上げ、偉いお役人の阿諛追従しかしないマスコミをフル活用して、国にアンちゃんを没収されるのを防いだのだ。

 最初は、話題逸らしのため、積極的に私の事を取り上げるよう、お偉いお役人さんから指示が出ていたのだろう。

 気が付けば、『眠れるアンちゃん』は、キャラクターグッズまで販売されるアイドルになり、今更、私から奪い去る事が出来ない状況になっていたのだった。

 講演などの依頼も相次ぎ、最初の『話題逸らし』以上に私が有名人になると、適当に持ち上げ、忘れ去られた頃にデータもアンちゃんも奪う気だった、お偉いお役人様たちに、私は制御できなくなってしまっていた。

 私は、足枷を外すため公務員を辞め、公益財団法人を立ち上げた。

 名目は、地下迷宮遭難者を救助する半官半民の組織で、『奇跡の生還者』という私の印象が薄れないうちに、組織を立ち上げるのが肝要だった。

 勿論、お偉いお役人様に天下りのポストを用意してやり、無下に反対できない体制を作っておく。利権さがしが、コイツらの主たる業務だ。すぐに喰いつく。

 これで、国家独占だった地下迷宮探査に、半官半民とはいえ、第三者が介入できることとなり、「救助活動の合間に偶然発見した資源」を、合法的に流通に乗せることで、魔導結晶などの寡占状態に、私は楔を打ち込むことに成功した。

 寄付という形で資金が集まり始め、組織は巨大化してゆく。危険な地下迷宮探索を担う魔導師の後援団体なのだ。魔導師からの支持は大きい。

 魔導結晶を融通しない形で、私たちを警戒したお偉いお役人様が牽制を仕掛けてきたけど、「救助活動の合間に偶然発見した資源」が出回ることで、すでに魔導結晶は決定的なカードではなくなってしまっていた。そんな手は、想定内じゃボケ。

 火薬という代替品が注目されたのも大きい。

 不遇をかこっていた科学者たちが再雇用され、私は念願の『アンちゃんの解毒剤』を手に入れる事に成功する。


 気が付いたら、私は独身のまま、アラサーになっていた。


 『公益財団法人 地下迷宮安全管理協議会 理事長』


 これが、現在の私の肩書だ。




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 どこかで、特異点が出現したのか、小鬼の群れがどっと押し寄せてきた。

 僕は訓練を終えたばかり。

 実戦での救助活動は初めて。

 僕の母は、地下迷宮で死んだ。

 優秀な探査隊の指揮官だったと、理事長が僕に教えてくれた。

 盾を構えた最前列が、小鬼と激突する。

 バンと盾に仕込んだ火薬が爆発して、小鬼が後方に吹き飛ぶ。

 装甲被膜の影響で傷をつける事すら出来ないけど、圧力だけは受ける。

「怯むな! 訓練通りに動け! 第二列、前進!」

 今日は、理事長が前線で指揮を執っている。

 すらりとした長身。

 大胆な、深いスリットから覗く脚は、白くてすんなりと長い。

 生唾ものの脚線美だ。

 胸が小さいのが玉に疵だけど、僕は理事長のグラビアを持っている。

 熱心なファンなのだ。そういう隊員は多い。

 アラサーとは思えないプロポーションだけど、誰に見られても良いように、常に鍛えているという話だった。

 そして、これは彼女が下っ端探査隊員だった時に、僕の母に教わった指揮官の心得だという。

「エイブラムス君。ぼさっとするな。敵の第二波くるぞ。母親譲りの『魔法矢』期待しているからな」

 おお、僕の名前を知っているのか! うれしい!

「ぎう」

 まるで、「しっかりしろ」とでもいう様に『生還者』エリ・エリの象徴ともいうべき灰色の小さな龍アンギャリギャが一声鳴いた。


「遭難した探査隊発見! 状況を開始する」


 僕たちは、英雄エリ・エリとともに、魔導生物の群れに突っ込んでいった。


   ====『一撃必殺! 鉄槌男』 (了) ====

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一撃必殺! 鉄槌男 鷹樹烏介 @takagi_asuke-4649

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