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輝焼

第1話 地上の星

「2番線に停車中の列車は、ひかり号 上東京ゆきです。途中の停車駅は...」

ホームの喧騒を凌ぐ音量で流れてくる自動放送...。


ここは、東京駅。日本各地への高速列車が発着する巨大ターミナルである。

私は目の前に停まっている、純白の車体に青のラインが特徴的な列車に乗車した。

ドア横には『SINKANSEN』とかかれた大きなロゴが描かれている。


切符の座席番号を確認して、自分の席に座る。

身の回りの荷物を整理して、席についた。車内を少し見回してみると、さすが上東京がリゾートというだけあって、平日にも関わらず多くの家族連れやカップルが会話を楽しんでいる。



「本日は、国鉄をご利用くださいましてありがとうございます。この列車は...」


車内放送が始まった。どうやら私が気づかないうちに列車は発車していたようだ。

始発駅特有のとても長い車内放送が終わると、車内はたちまち静かになった。どうやら、出発前まで楽しそうに喋っていた人達も会話のネタが尽き、眠りについたようである。唯一居たサラリーマンは、ホームのキオスクに売っているスポーツ新聞を読んでいた。

車内には、トンネルの風切り音が響いている。単調な音。それにより私も眠りに誘われた。



3時間ほど寝ていただろうか。ふと目を覚ますと、窓からはこれまでに感じたことが無いほどの光が見えた。見渡す限りの茶色い場所。

私は、旅行へ行く前に調べていたことを思い出した。これが大地というのだろうか。

そのまま、しばらく外を眺めていると、車内放送が聞こえてきた。


「本日は、国鉄をご利用くださいましてありがとうございます。列車は先ほど、地上へ出てまいりました。地上区間では、太陽光への順応のためにトンネル出口からおよそ10キロほどは、減光シールドを設置しております。しかし、太陽光への順応速度にはそれぞれ個人差がございます。時間にするとおよそ5分ほどで減光シールド区間は終了しますが、シールド区間終了後に眩しいと感じましたら、窓下に設置しておりますボタンを操作して、電子ブラインドをご利用ください。 Ladies and gentlemen...」


どうやら、この明るさでも直接の太陽光ではないようだ。私は心配性なので、電子ブラインドを暗くしておくことにする。どうやら、まわりの客もほとんどはブラインドを使用しているようだった。

その後もしばらく車窓を眺めていると、突然窓から差し込む光が強くなった。どうやらこれでシールド区間終了ということらしい。



「お客様...」


車内放送が流れて...。いや違う。

私は、車内確認に来た車掌に起こされた。どうやら私は寝ていたようである。


「あ。すいません。」


私は、そう言うと大急ぎで降りる支度をする。


「あ。折返しまではまだもう少し時間がありますから、お忘れ物なさらないように、ゆっくりで大丈夫ですよ。」

「あ。はい。すいません...。」


私が返事をすると同時に、車掌は隣の車両へ移動していった...。


降りる支度と言っても、スマホの充電をしていた程度なので、特にやることもない。忘れ物がないか、念のために確認をし、私は席をあとにする。

外へ出ると、まだ多くの人が記念撮影をしていた。私もその中に混じり、ドア横のロゴぐらいは撮っておくことにした。


私は、長いホームでスーツケースをゴロゴロと引き、改札まで歩いてきた。

スーツケースの上に載せてあるカバンの外ポケットから切符を取り出し、その切符を自動改札機に通す。

何気ない動作でも、旅行に来たという実感が湧いてくる。

ズボンの右ポケットからスマホを取り出し、ホーム画面に作っておいたショートカットから行程表を開く。

ここから先は、どうやらレンタカーを借りるようだ。


その後、長いコンコースを歩き、駅の外に出てきた。


「眩しい...。」


これが太陽光というものなのだろうか。目の前が一瞬真っ白になった。

私は後ろを振り向き、大きな駅舎を眺めた。また、それをスマホのカメラで撮影した。

今まで見たこともないような大きな建物である。中国とか、ドバイとかでは、とてつもなく大きな吹き抜けをつくって、これよりも大きな建物をつくっている所もあるようだが、私はそんなのを当然見たことが無かったので、圧倒された。


ふと時計を見ると、2時10分を指していた。レンタカーを借りる予定の時刻を過ぎている。私は急いでレンタカー屋へ向かう。



駅から5分ほど歩いて、レンタカー屋に到着した。早速、中へ入る。


「こんにちは。お車のレンタルでよろしかったですか?」

「あ。はい。」

「お名前を教えていただけますでしょうか。」

「タケモトです。」

「タケモト様ですね?今、ご確認しますので少々お待ち下さい。」


レンタカー屋のスタッフは、なれた様子で私に質問をしてきた。


「タケモト...マチコ様でよろしかったでしょうか?」

「はい。」

「本日は、Cクラスのご予約ですね。既にお車はご用意されておりますので、係の者がご案内します。」


私は、裏から出てきた別のスタッフに案内され、車に乗った。

これからの旅が楽しみである。


地上...それはどれだけ美しいのだろう。

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