100年後に目覚めても
小高まあな
100年後に目覚めても
むかしむかし、とある王国に姫君が生まれました。女王に似て、とても美しい赤子でした。
国を挙げて祝いの宴を行いましたが、宴に呼ばれなかった悪い魔法使いが、腹いせに姫に呪いをかけました。
「姫は十六になる年、糸車の針に指を刺して死ぬだろう」
王は嘆き悲しみました。しかし、別の良い魔法使いが、
「いいえ、姫様は眠るだけです。百年死んだように眠りますが、やがて愛する者の口付けで目を覚まします」
呪いを上書きする祝福をかけました。
その後、姫はすくすくと育っていきました。その美しさは時が経つごとに磨きがかかり、国内外から賞賛の嵐でした。
呪いを恐れた王は、国中から糸車を撤去しました。しかし、苦労も虚しく、姫は十六になる年に悪い魔法使いの糸車の針に指を刺し、ぱたりと倒れました。
そうして姫は百年の眠りにつきました。
目覚めた姫が寂しくないように、城も城で働く人々も皆、百年の眠りにつきました。城は鋭い棘の茨に覆われ、ちょっとやそっとでは近づけないようになりました。
何人もの若者が、美しき呪われた姫を助けようと城に挑みました。しかし、鋭い茨に阻まれ先に進めません。運良く抜け道を見つけても、悪い魔女の仕掛けた罠にはまるだけでした。
いつの日か、城に挑戦する者もいなくなり、茨に包まれた城は昔話の対象と化していきました。
こうして百年の月日が経とうとした時、また新たにひとりの青年が現れました。彼は鋭い茨をものともせず、がんがんと城の中に突き進んでいきます。罠に引っかかることもなく、あっという間に姫の眠る部屋にやってきました。
青年は姫の前に立つと微笑みました。
「お待たせしました。失礼します」
それだけつぶやくと、姫の頬に口付けしました。
ずっと、百年もの間閉じられていた姫の目蓋が震え、ゆっくりと開きました。
「……ユリウス?」
目の前で微笑む青年を見て、姫は一度呟き、しかし眩しさに耐えかねるかのようにまた目蓋を閉じました。
次に姫が目蓋を開いた時には、
「ユリウス?」
青年の姿はそこにはありませんでした。
姫は慌てて起き上がり、部屋の中を探し始めました。愛しい人の姿を。
「……ユリウス」
どこにもその姿が見えず、姫がうなだれてしゃがみこんだとき、
「姫様!」
同じように眠りにつき、目覚めたお付きのひとが飛び込んできました。
「姫様?! どうかなさいましたか?」
しゃがみこむ姫にお付きのひとは慌て、姫は、
「なんでもないの。おはよう」
顔を上げると微笑みました。
城の人々は百年の眠りから覚め、大騒ぎです。王は姫を抱きしめ大喜び。今夜は宴を催すと言います。
誰も、目覚めさせてくれた青年に気を使う人はいません。
少し疲れたからと一人になった部屋で、姫はそっと枕の下に入れていた手紙を取り出しました。姫と同じく、百年の眠りについていたその手紙は、劣化することなく綺麗なままでした。
「ユリウス……」
お世辞にも上手とは言えない文字に微笑みかけます。
手紙は姫がこっそり城を抜け出したとき、よく遊んでいた羊飼いの少年からのものでした。決して叶うことはないとお互いに理解していた、淡い初恋でした。
「仮に姫様が眠りにつくのなら、僕が助けに行きます」
ひょんなことから呪いを知り、恐れる姫に彼は言ってくれました。約束すると、この手紙までくれて。
「たとえ百年経って、僕が死んでも。僕の魂が助けに行きます」
目覚めた瞬間、目の前にいたのは間違いなく彼でした。
「ああ、ユリウス。あなたは、約束を守ってくれたのね」
調べるまでもなくわかります。あの時生きていた人々はきっともういないでしょう。もちろんユリウスも。百年経ってしまったのだから。
城の中にいない彼は、姫と一緒に眠りにつかない。だから百年待って幽霊にでもなって助けに来ると言っていたのです。
幽霊なら茨も罠もものともしないから。
「百年も、待っていてくれてありがとう……。死してもなお、この場所にとどまらせてごめんなさい」
湧き上がる感情は感謝と罪悪感、そして、
「でもやっぱり、ここにあなたがいないなら、目覚めても意味が無いわ……」
それを凌駕する喪失感でした。
姫はさめざめと泣きました。
100年後に目覚めても 小高まあな @kmaana
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