Ⅰーstory R'sー

                 リュー

 それは、10時頃のことだった。俺たち二人は家から近い駅に遊びに来ていた。そこで俺たちは人質事件に遭遇してしまったのだ。いや、見ただけだったらある意味よかったかもしれない。

 だが・・・その人質はたった一人、そしてそれがハジメだったのだ。見てるだけの人間ではいられなくなった。


 どうするべきだ。俺は迷った、いや、誰だって迷うか。だって友達が人質に取られているんだ、助け出したいけれど躊躇ってしまう心も勿論ある。

 だが、俺の答えは一つ。助ける、だ。ハジメとは、それこそオムツをはいていた頃からの長い付き合いだ。そいつを見捨てることなんて、まずできない。

 まあ、俺の電網さえあれば可能だ。すぐに作業に取り掛かる。警察が来る前に済ませちゃおう。


 数十分液晶画面ディスプレイとにらめっこして、なんとか駅員意外立ち入り不可能なドアのキーを破ることには成功した。あとは・・・

「通信手段だな。」

 俺はあいつと一緒に同じ機種のスマフォを買っている。じゃあ、多分いけるはずだ・・・


 ・・・ふう、通信も完了。あとは、突入のみ、か。待ってろよ、ハジメ。今そこから出してやるからな・・・

 キーロックを解除し、ハジメのいると思われる部屋に向かう。多分アレだ、よしもう少しだ。

「リュー、だめだ。入ってくるな。」

?!

「・・・おい、ハジメ!大丈夫か?!どうなってるんだ、この状況・・・」

「やめろ・・・げほっげほっ 今入ったら巻き込まれ・・・る・・・」

「待ってろ、今助けるから!」

 ドアの取っ手を握る。そして空けようとした瞬間・・・

「入るな!お前も死ぬことになるぞ、ドアから離れ・・・」

 ハジメの叫びが聞こえたと思った途端、

 大爆発が起こり、俺は後方に吹き飛ばされる。

 クソ・・・

 そのまま、突入してきた警官隊に発見された。

「おい、君!そこで何をしている!」

「ここには駅員意外立ち入ってはいけないはずだ!戻れ!」

嫌だ、嫌だ、嫌だ、まだハジメが中に・・・

「戻れ!」

嫌だああああああ

俺は警官に部屋から放り出された。

俺にできたことは・・・ここまでだった。


                 ハツキ

 それは午前11時頃のこと、場所は駅の一角。

 そこには友人の変わり果てた姿があった。

「ハジメくん・・・どうしてこんな・・・」

 目も向けられない状態になってしまった彼に、なんと声をかければよいのか分からない。私ことハツキは立ちすくんでいた。

 昨日まで一緒に学校に通って、一緒にくだらない話をしながら笑っていた彼が・・・死んでしまった。


 私の脳内のたがは緩んでしまったようだった。

「あ、あはははは・・・ハジメくんが・・・ハジメくんがあああああああ」

 笑ったように泣き出した。何で何で・・・なんでなんだよ!もうどうでもいい。人目も何も気にしない。・・・こうなる前にホントは伝えたかったんだ。

「ハジメくんのことが・・・す・・・」

 言葉にならなかった。


「・・・あの、大丈夫?」

 誰だよあんた。もう誰に何言われようと私は・・・

「・・・え?」

 振り返ると、心配そうな顔の男性がこちらを見下ろしていた。

 ・・・いや、この顔は・・・ハジメくん??

「・・・生きてたんだ。」

 思わずそんな言葉が漏れる。途端、その人は心底困惑したような顔をした。

「あの・・・ええと・・・

ボクはハジメじゃないよ。でもハジメの知り合いだ。」

「でも・・・すごいそっくり・・・」

「出会ってすぐ忠告、ってのも変だけど・・・

君はここにいちゃいけない。ここにいたらもうすぐ危険な目に遭う。今すぐ離れるんだ・・・ここから・・・」

 突然深刻なことを言い始めたハジメ似の男は、その途中何かがおかしくなった。

「え?どういうこと?」

「とにかく!すぐにここから離れて・・・でないと・・・殺され・・・」

 状況が飲み込めないうちに彼は次第に薄くなっていく。幽霊の類い・・・だろうか。

「逃げろ!!」

 彼の言葉にはじかれたように、私は走り出す。しかし、何かによって地面に叩きつけられる。

 振り向くと、今まで彼が立っていた場所には・・・ある日突然居なくなった友達が立っていた。

「あなたは・・・コトネちゃん!?生きていたんだ・・・ でも、どうしてここに?そして・・・どうしてそんな姿に?」

 彼女は、どう見てもあの時の人間の身体ではない。AIのようだ。

「・・・忘れてしまったんだ。あの時のこと・・・」

「・・・え?」

 何のことだろうか。

「ホノカを助けることも・・・出来なかったくせに。」

「でもあれは!」

 そこまで勢いよく言って、

「その・・・事故だって・・・」

「ああ、知らないんだ。いや、ハジメは何も言わなかったのね。あれは事故じゃない。ハジメが生きていることで発生した・・・事件なの。そんな人間をここから消すのが私達の仕事。でも・・・キミも同罪。あなたの信じている偽善者の元には・・・もう戻れないんだから。」

 何で、何で・・・どうしてこうなるのだろう。

 ハジメくん、この先で待ってて。もうすぐ私も行く・・・から・・・


 何かが千切れるような音がして、目から入る映像が途切れた。

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季節はずれの白狐 116 @sazarashi

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