7月1日

「おおい、ハジメ早く来いよ~」

 リューが呼んでいる。

 7月1日午前10時ごろ、音宮駅の駅ビル。オレは試験後の長期休暇の初日、リューとここへ遊びに来ていた。

 

「お~う。」

と適当に返事を返し、オレは彼のほうへと歩き出した。月が変わったから、という訳では全く無いはずだが、昨日にも増して暑くなっている。東京の中心では、30度を上回ったらしい。

 暑い、暑い、・・・暑い!

 昨日はこの暑さにやられそうになりながら試験を受けるという地獄だったが、今日は今日で灼熱の中駅まで歩くという地獄を味わう羽目に遭った。ああクソ暑い、まあでもいいや、どうせ建物の中に入れば冷房クーラーが効いているハズ。一日遊ぶか・・・


 不意に周りの空気が冷たく、硬くなってしまったような感覚に襲われ、身を硬くした。直後、背後から現われた何者かの顔を見たあと・・・記憶がとんだ。

              * * *

「・・・お前ら動くな。一つでも怪しい動きをしたら、俺はこの人質の命をとる。」

 ぐったりとしたハジメを脇に抱えた黒尽くめの男は淡々とした声でそう告げた。

 それから群集の前でタブレットを起動し、駅員以外は出入りのできない暗号鍵扉キーロックドアの暗号を解読、そのまま中へと消えていった。

              * * *

 ・・・どのくらい意識がとんでいただろうか。全面真っ白で、なんだかよく分からん箱が山積みにされている部屋で目が覚めた。

「・・・頭目ボス。標的A、目を覚ましました。」

「・・・そうか。逃げられないよう●●せよ。」

「・・・了解。」

 無線で、誰かと話す男の姿があった。

 通信を切り、オレを見下ろす。

「・・・すまぬな、ハジメ。こうする他この世界を平和に保つ方法が無かった。」

 何のことだ?

「俺は近衛公人。お前とは随分前に会ったことがある。本当はお前を殺すことなどしたくない。・・・だが、お前は持ってはいけないものを手にしてしまった。

 それに卜部の坊からも、忠告を受けたはずだ。それにしたがっておけば・・・」

 そこまで言って、彼は何を思ったのか外へと出て行ってしまった。

 どうやらオレは、縛られているだけのようだ。これならすぐに脱出できる。

 そう考えたとき、リューから通信が入った。

「・・・おい、ハジメ。聞こえるか?!今こっちもそちら側の部屋へアクセスする暗号を解読し終えた!今からそっちに突入する。」

「こっちもオレを縛っている縄を解くことができそうだ。くれぐれも気をつけて突入してほしい。今オレが監禁されている部屋には、普通駅には置かないようなものもある。罠にも気をつけてな。」

「・・・ああ、分かった。そっちも気をつけろよ。じゃあ。」 

 通信が切れた。

「よし、じゃああとはこの縄を千切るだけだ!」

 手持ちのペンナイフで縄を切り、解いて立ち上がろうとした瞬間、肌に冷たい感触が走り、続いて腹部をえぐられるような激痛が来た。見る間でもなく、腹部に刃物が刺さっていることが分かった。

「クソ・・・」

 痛みというよりかは、自分の身体に人間には無い感触を持ったものが入り込んでいる、その感覚が苦しかった。

 声が出ない。少しずつではあるが、オレの体からオレの血液が抜かれていくのが分かる。

 ・・・どのくらい血を失ったのだろう。意識がもうろうとし始めた。

「・・・哀れだな。何もしなければ殺さない方法も考えてはいた。しかし、私の仕掛けた罠、お前を縛っている縄の反対側に凶器を仕掛け縄を切ったら重みで落下するの仕組みにはまってしまったようだな。

ふむ・・・仕方が無い、矢張りここで死んでもらおう。」

 近衛と名乗るその男は、部屋に乱雑に積まれていた箱に火をつけた。

 一瞬で煙が部屋に充満する。

 オレはむせた。むせる分だけ更に血が抜ける。


「・・・おい、ハジメ!大丈夫か?!どうなってるんだ、この状況・・・」

 しまった。あいつ入ってきてしまった!

「やめろ・・・げほっげほっ 今入ったら巻き込まれ・・・る・・・」

「待ってろ、今助けるから!」

 ドアの取っ手が動いた。ダメだ、間に合わない!オレは最後の力を振り絞って叫んだ。

「入るな、お前も死ぬことになるぞ、ドアから離れ・・・」

 言い終わるか終わらないかのところで大爆発が起こった。腹に響くような爆音を聞いた後、オレの意識はかき消された。

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