004 告白
「入学式の時にひと目見たときからずっとあなたのことが好きでした。ぼ、僕とお付き合いしていただけませんか!?」
え、このタイミング?高3の冬休み前なんですけど。ていうかこの人誰?見るからにヤバそうな感じの人なんですけど。とりあえず適当に断って逃げよう。
「ご、ごめん。受験控えてるから恋愛とかそんな事考えてる余裕ないし、そもそも全然知らない人から告白されても困るの。ダメとかオッケーとかそれ以前の問題だから。じゃあ。」
そう答えてこの男子生徒の脇をスタスタと通り過ぎていく。緊張で振り返ることはできなかった。廊下の曲がり角を曲がってしばらくしてから後ろを振り返ったが追いかけてくる様子はなかった。
あーびっくりした。
* * *
3学期の始業式が終わった。もう授業もテストも終わってるから塾や予備校に通ってて登校してない子もそれなりにいる。かくいう私も午後から塾に行く。なんか学校が始まったって感じしないなあ。
「あ、あの!」
一度しか聞いたことのない声なのにすぐに分かった。全身がこわばる。あいつだ。無視して行けばいいのに足を止めてしまった。
「また、会えましたね。」
「何?アンタに用事なんかないんだけど。」
「この前、僕のことを全然知らない人って言いましたよね?僕はあなたのことよく知ってますよ。田中舞。誕生日は2000年6月17日。血液型はB型。趣味はジャニーズタレントの画像収集。埼玉県越谷市に生まれ6歳のときに東京都立川市に引っ越す。11歳のときに市の書道コンクールで佳作に入賞。中学では陸上部に入り走り幅跳びを専門に選ぶも目立った成績は残せず。高校では帰宅部。最近の悩みは左目の目尻にあるホクロから長くて太い毛が生えてくること。どう?すごいでしょ!頑張って調べたんですよ!」
血の気が引いていくのが分かった。こいつ、イッちゃってるタイプの人間だ。
「マジで気持ち悪いから!二度と話しかけてこないで!!」
全速力で走り出し、この場から逃げ出す。上履きのまま学校を飛び出した。走り出してすぐに後ろを確認するとあの男のやけに悲しそうな表情が目に入った。反射的にかわいそうと思ってしまったがその感情は捻り潰した。イヤイヤイヤイヤありえないから。ストーカー野郎に同情の余地は1ミリもない。
* * *
長いようで短い高校生活が終わった。最後の最後でとんでもない奴に出会ってしまった。幸いにもあの始業式の一件以来あの男に話しかけらることも姿を見ることもなかった。意外と根性のないストーカーで助かった。そんなことを思いながらリビングで大学から届いた資料に目を通す。
キッチンにいる母がやけに楽しそうだ。
「お母さんどうしたの?なんかいいことでもあったの?」
「最近ねえ、スーパーでよく会う子にね、今日も目利きをしてもらったのよ。野菜も魚もその子に選んでもらったら本当にいいのが手に入るから。」
「ふうん。」
「舞と同じ学校に通ってた子みたいよ?」
イヤな予感がする。
「その子って女子?男子?」
「これがねえ、びっくりすることに男の子なのよ。なんでも大学に通うまでの間の家事は全部その子がやってるみたいでね。今どき感心するわねえ。」
「その子ってさ、どんな感じの子なの?」
母に特徴を聞く。イヤな予感は的中してしまった。アイツだった。まだ私のことを諦めてなかったのか。その可能性はあるとは思っていたけどまさか母に取り入ろうとしていたとは。でも私の母だと知らずに接してる可能性も十分にあるか?いやいやあのストーカーのことだ、知っているに違いない。頭の中がグチャグチャになっていく。
「どうしたの?急に黙っちゃって。」
「ちょっと、ね。」
* * *
「っていうのが今の彼氏との出会いなんだよねー。」
「舞の彼氏、相当ヤバいけどそれと付き合ってる舞もなかなかのもんだわ。」
「えー、ヒドーい。」
「大学にはいろんな人がいるとは思ってたけど舞がぶっちぎりのナンバーワンだね。」
ゴウ オサムの100本ノック ゴウ オサム @go_osamu
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