003 対峙
「さあ、主導権はこっちが握らせてもらったぜ。」
全身黒ずくめの細身の男が拳銃を構える。
「そいつはどうかな?」
白いタンクトップを着た筋肉質の男がナイフを構え、言葉を返す。この二人はお互いに敵対する組織の刺客同士で、それぞれ指令を受けて標的を追っていた。しかし偶然にもこの薄暗い地下駐車場で鉢合わせてしまったのだ。
遭遇から数分の間、牽制を繰り返していたが遂に黒ずくめの男が有利な状況を作り出したかに思えた。
「何!?」
「お前シロウトか?この距離だとナイフの方が拳銃より速い。ノロノロと引き金を引いてる間にお前はあの世行きだ。」
「フン、シロウトは貴様の方だ!」
黒ずくめが勝ち誇ったように言う。
「確かにこの距離では拳銃はナイフに負ける場合もある。だがそれはホルスターにしまっていたときの話だ!」
「なぜそう言い切れる!」
「youtubeで検証動画を見たからだ!」
「ユーチューブ……。」
「ナイフの持ち方だって上下逆になってるじゃないか!緊張のあまり間違えたのか?お粗末だぜ!」
「フフフ、今度こそ本当に馬脚を現したな。ナイフを使って格闘するときは力を込めて突き刺せるようにこうやって逆手に持つんだよ!」
そう反駁するタンクトップのナイフは片刃でしかも内側を向いていた。
「だ、だが!こっちが有利なことには変わりないぜ!」
「果たしてそうかな?安全装置も外していないのに。」
「クッ…!」
黒ずくめは必死で安全装置を探す。トカレフの。
この辺りでお互いに何かを察した。
「「こいつ、俺と同じでハッタリだけでのし上がったタイプだ!!」」
そして互いの微妙な表情の変化を察知する。考えていることは同じらしい。
「こ、ここは一時休戦とするのはどうだ?」
黒ずくめが切り出す。
「不本意ながら、その話に乗ってやろう。」
タンクトップが答える。
緊張の糸が切れ、双方共に踵を返す。奇妙な信頼感を二人とも感じていたのだろう。やがて地下駐車場は静寂を取り戻した。
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