第6話 頭の中の住人

 夕日はセルフィスを見て、心が妙にポカポカと温かくなるのを感じた。

(なんでこんなに心が温かいんだ?)

 夕日は心が温かくなった理由がわからなかった。



 《光属性魔法の使用権限を与えます》



 訳のわからぬ感情に戸惑っていると、突如頭の中に声が響いた。

(なんだ!?)

 夕日が驚いているのを無視して声は告げる。



 《なお、回復系統に限ります》



 声は魔法の使用ができることを伝えるものだった。

(俺が魔法を使えるようになったときに知らせる為の機能か?)

 夕日はこの声は神が作った魔法が使用できるときのアナウンス機能だと思った。



 《回復魔法使用レベルは6です》

 〈レベル6?なんだそれは?〉



 夕日は使用できる魔法のことを淡々と説明する機能に問いかける。



 《チッ⋯。レベルとはいわば強さの基準です。最高でレベル10まであります。このレベルはあなたの気持ちや感情の強さで決まります。レベル6となりますと、失った体のパーツを治すことができます》



(ん? なんか舌打ちが聞こえたような。⋯いや気のせいだろう)

 舌打ちは確かにしていた。

 だが、アナウンス機能が舌打ちなんてするはずがない。

 そう考え、話しの続きをすることにした。



 〈レベル6それって、本当なのか?〉



 回復魔法の凄さに驚く夕日だったが、すぐに言葉は付け足された。



 《ただし、パーツの一部が近くにないと治すことはできません。それと、私の名はアンス》

 〈ただの機能に名前なんてあるんだな〉



 このアナウンス機能を作ったのは神。

 ということは名前という概念を作ったのもまた神だ。

 夕日は神に対しかなり引いていた。



 《アンス様と呼んでもいいですよ》

 〈へ?〉

 《てか呼べ》



 ただ、夕日はアナウンス機能、アンスから発せられたサディスティック満載の言葉に腑抜けた声を出す。



 《私はお前のアシストする為にこの体に埋め込まれた。本当は手助けなんかやりたくないんですけど、約束なんで仕方ないですね》



 約束という単語に引っかかった夕日だったが、急に口調と態度を変えたアンスから夕日は先程の考えが気のせいではないことに気づいた。



 〈やっぱりさっき舌打ちしただろ!!〉

 《舌打ち?しましたけど舌打ち。それがなにか?》

 〈ぐぬぬ〉



 堂々と答えたアンスに夕日はそれ以上何も言えなかった。



 《急に黙り込んでしまって。何かありましたか?》

 〈いえ、なんでも御座いません。アンス様〉

 《わかればよろしい。それじゃあ、なにかあったら聞いてくださいね》



 アンスは冷たいながらも可愛い口調でそう言うと、視界が戻った。

 長く話していたはずなのに話す前と全く光景が変わっていなかった。

 いや、そもそも時間が経過していなかった。

(ということは、いまさっきのあれは意識内での会話ということになるのか)

 あれだけ話しても時間がたたない場所。

 それは以前、体験したことがあった。

(神と喋ったあの場所と似ていた。てことは意識の中での会話か)

 自分の体験をもとに先程の会話は意識の中でのものだと理解した。

 現実世界に戻ってきた夕日。

 アンス曰く魔法が使えるということだったので試してみようと思った。



「えっと」



(何かないか?)

 夕日は周りを見渡し回復魔法が使えるものがないか探す。

 だが、特に何もなかった。

(回復魔法だとやれることは決まってるしなぁ)

 魔法使用を断念し、シャルネア達を見る。

 その時、セルフィスが目に入る。

 彼女は強く遺品を握っていた手を緩めていた。

 夕日はその光景をみて違和感に気づく。

(そういえばセルフィスの腕って)

 セルフィスは片腕を失っている。

 失っているのは左腕。

 今の今までセルフィスは左腕がないことなど感じさせない動きをしていた。

 だから自然と記憶の片隅に押し込まれていた。



「あのセルフィスさん」

「ん? どうしたの?」

「セルフィスさんはどこで腕を失ったんですか?」

「みんなと同じよ。この湖で魔物に腕を切られたの」



 腕をやられた時のことを思い出したのか失った左腕の付け根を抑え、苦痛に顔を歪める。

 恐らくセルフィスの腕は仲間と一緒に灰になっている。

 だが、幸い魔物に食われてはいなかった。

 それを聞き、自身の頭の中に語りかける。



 〈アンス様〉

 《ん?》

 〈魔法を使うにはどうすればいいんだ?〉

 《回復魔法だったら魔法をかけたい箇所に手を添えて魔法名を唱えればいい。魔力の心配はしなくていいぞ。お前が持っている特殊スキルのおかげで魔法を使う時、魔力を消費せず魔法を使うことができる。まあ、私のおかげでもあるのだがな。それと、魔力を気にせずに魔法が使えるのはお前だけと言っていい。本来、魔法を使うには努力が必要だし、素質もなければいけない》

 〈そうなのか。だからシャルネアは魔法が使えないのか〉

 《あいつの場合は素質がないからな。魔力はあるほうなんだが。惜しいな》



 アンスは本当に惜しいと思っている残念そうな声をしていた。



 〈⋯それで俺はなんて唱えればいいんだ〉

 《それじゃあ、魔法名を言うぞ。魔法名は⋯》



 再び現実世界に意識が戻る。

 魔法を使うには魔法名を唱えればいい。

 夕日は先程アンスに教えてもらった魔法名を思い出していた。



「セルフィスさんこっちに来てくれますか?」

「え?はい。いいですけど」



 セルフィスは頭上に疑問符を浮かべ、ゆっくりとこっちに歩いてくる。

 そして、夕日の前で止まった。

 夕日は目の前にいるセルフィスの左腕の付け根にそっと手を翳した。

 途端、セルフィスは夕日に何かされると思ったのか体を反らす。

 恐らく腕を失った時の記憶がフラッシュバックしたのだろう。



「な、何をするんですか!?」

「す、すいません。その魔法で腕を治そうかと思いまして」

「腕を⋯治す?」



 セルフィスは冗談でしょ、とばかりに苦笑いをする。

 逆に夕日の特殊スキルを知っているシャルネアは驚いていた。



「それではやってみてもいいですか?」

「腕が治るとは思わないけど。⋯いいわ、そこまで言うのならやってみてください」



 セルフィスの言葉にはやるだけ無駄、と呆れが含まれていた。

 セルフィスから許可が降りたことにより魔法を使用する準備に取り掛かる。

 と言ってもやることはそんなにない。

 対象に手をかざし、魔法名を唱えるだけだ。

 夕日はセルフィスの左腕の付け根にてのひらを向けた。

 ゆっくりと深呼吸をし、そして、魔法名を唱える。



『逆行回復(リバースリカバリー)』



 魔法名を唱えると夕日の手が光り、対象であるセルフィスの左腕の付け根も光った。

 そして仲間たちを燃やした後の灰の一部が光る。

 その灰は魔物にちぎられたセルフィスの左腕であった。

 その光を帯びた灰はセルフィスの左腕の付け根に集まっていく。

 見る見るうちに灰が左腕の付け根から元通りになっていく。

 さながら時間は巻き戻っているように。

 そして数秒後、セルフィスの左腕は完全に治っていた。

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三秒転生 サカキ @sakakisama

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