第5話 最後の別れ
この森から王都までは500キロ離れており、歩くと4日かかってしまう。村から森まで5キロ。
その距離をシャルネアとセルフィスはおそよ3分で着いてしまった。
時速に直すと約100キロ。
だが、そんなシャルネアたちでさえ500キロある王都に行くには約5時間はかかってしまう。
だが、それは手ぶらの場合。バラバラの遺体を運ぶとなると到底無理である。
シャルネアはそう考え夕日たちが花を摘みに行っている間、遺体を一箇所に集めていたのだった。
「遺体を王都まで運ぶのは無理だ。だからここで燃やして灰を王都に持っていってやろう」
そう言うとシャルネアは遺体のところまで行き、手をかざす。
目を瞑り、大きく息を吸い、ゆっくりと息を吐く。
目はしっかりと遺体を見据え、覚悟を決める。
シャルネアが遺体を燃やすため魔法を唱える。
その前にセルフィスが口を開いた。
「あの、その役目は私がしてもいいですか? ⋯⋯いえ、私にやらせてください」
「それはもちろんいいが⋯⋯」
シャルネアは「大丈夫か」とは聞かなかった。
セルフィスの表情は見るからに辛そうだ。
だが、セルフィスの目は真っすぐでシャルネアには反対する理由はなかった。
シャルネアはセルフィスに処理をさせるのは酷だから、と自身の感情を押し殺し遺体に火を点けようとした。
だが、それは要らぬお節介だったようだ。
「そうか⋯⋯わかった」
シャルネアから許可を取り、セルフィスは持っていた遺品と花をシャルネアに預け、仲間たちのところへ。
哀しそうな表情でバラバラになった仲間たちを見やる。
「ごめんね。みんなを助けることができなかった。私に力がないせいでみんなを死なせてしまった。私がみんなを死なせたも同然。⋯⋯みんなごめん・・ほんと⋯⋯ごめん」
途中、嗚咽が混じる。
今にも泣きそうなところをギリギリ我慢し、なんとか気持ちを切り替えるため両頬をパンっと叩いた。
「⋯⋯それじゃあね。みんな」
仲間と最後の別れを告げる。
セルフィスの目には涙がたまっていた。だが、涙は流れていない。
その時、セルフィスはシャルネアに言われたことを思い出していた。
(最後くらい笑わなきゃ)
そう思い笑顔を作ろうとするが、どうしたって笑顔は出てこない。
笑って送ろうとしても悲しい気持ちが胸を埋める。
なんとか気持ちを抑え、手を遺体に翳したその時、セルフィスが何かに驚いたような声を出した。
「えっ!?」
「どうしたセルフィス?」
セルフィスは目で何かを追うように自身の周りをキョロキョロし始めた。
やがて視線を徐々に上にあげていき、数秒空を見上げた後、遺体に視線を戻した。
「いえ、なにも」
そう言う彼女は静かに涙を流しながら、優しく笑っていた。
「みんな、じゃあね」
セルフィスが遺体に翳していた手が光り始め、口を開き魔法を唱える。
『聖焔(ホーリーフレイム)』
セルフィスの手から放たれたのは真っ赤な炎ではなく、光り輝くオレンジ色の炎。
炎は優しく遺体を包み込み灰に変えていった。
その光景を見て、セルフィスは持っていた遺品をギュッと握りしめる。
セルフィスはもう涙を流してはいなかった。
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