第9話迅速な対応

 ✖✖✖


 とっさに距離を取り、黒い男からの攻撃を避けて、まるで予定調和かのような振る舞いを見せた翔であったが、内心はかなりドキドキしていた。


「こんばんはー!どうしたんですか?あ、俺の頭上に小さいモンスターでもいましたー?」


 あまりの動揺に、本来コミュ障であるはずの翔から話しかけてしまった。


「ああ、君の頭の上に虫系のモンスターがいましてねぇ。ほらほらそこにいるぅ!」


 黒い男の片腕がタコのような触手になり、翔の方に伸びてくる。


 翔はマジックアーツを発動し、伸びてきた触手に拳を合わせる。


 触手を一度弾いたが、触手はしなって再び翔に攻撃してくる。


 翔は両腕で触手をガードしたが、あまりの威力に両足が離れ、吹っ飛ばされる。


「軽いねぇ!もっと手応えが欲しいよぉ!」


「が、あっ」


 吹っ飛ばされた翔だがなんとか着地し、攻撃に転じようとした。


 だが、翔の両腕は痺れていた。腕が上がらず、魔力を流すことで精一杯であった。


 初の対人戦闘ですでに翔の心は恐怖でいっぱいになっていた。両腕が痺れているのとは別に、足がブルブルと震えている。


 触手が両腕になり、さらに手数が増える。


 翔は相手の攻撃を受けてから、恐怖を少しずつ打ち消しながら遅れながらも相手の分析を始めていた。


 両腕が痺れるほどの攻撃、しなりがあり壊れることのなさそうな触手の耐久性に骨が折れる。だがスピードは翔の方が上、魔法に関してはまだ未知数。


 それらを考えると、まだ戦えないこともないと翔は結論づけた。


 だが、すでにダメージを翔は受けている。加えて恐怖で足がすくんでいる翔には、逃げるという選択肢が大きく心を占めていた。


「ふー」


「よく立ってるねぇ。でも死んでもらうよぉ!」


「最後に質問させてくれ。なんで俺を殺そうとしているんだ?」


 時間稼ぎもこめて翔は無理と思いながらも質問を投げかける。


 プレイヤーキラーはそもそもなんで存在するのか、翔は少し考えていた。殺人をする人間というのは必ず存在する。だが、プレイヤーキラーとしてエマが紹介したことを考えると、一定の人数、それもかなりの人数存在していると翔は推測した。


 ということは、プレイヤーキラーで快楽とは別に、利益を得ることができるんじゃないかと考えた。


「もしかして、プレイヤーキラーについて知らないのか?」


「ああ」


「そっかぁ、なら教えなーい!」


 黒い男は翔の話を受けいれず、触手からさらに触手を分岐させて襲いかかる。


「クソが!」


 翔の両腕は軽く動かせるまでは回復したが、まだ強く拳を握ることまではできない。


 なので翔は、今までより身体に流す魔力量を増やし、両足に魔力をより集めて避けることに徹する。


 触手が縦横無尽に動き回るのを目で確認して避け続ける。


 ギリギリで触手達を避け、その度に正面に立たれないように攻撃してきた方の腕の方に避ける。


 死なないように集中した翔の目には、触手が大きく振りかぶる初心者の剣道の構えのように見えた。


「遅い遅い」


 翔はわざと聞こえやすい通る声で挑発した。


「うるさいなぁ!少しは口を閉じれないの!?」


 触手の動きが雑に大きくなってきた。


「それはテレフォンパンチだな」


 さっき触手と拳がぶつかって負けた時、触手の先にぶつかっていることに翔は気づいた。これは、相手の攻撃の重さが最大限乗る場所とぶつかったということ。


 だから今度は少し踏み込み触手の根元、つまり脇のところを思いっきり蹴りあげた。


「ぐぁああ!」


 触手の腕が持ち上げられ、体が仰け反った。その間脇腹に同じ足で蹴りをめりこませる。


 メキメキと骨が折れる音が翔の足まで響く。黒い男の口から血が出てくる。


「ごはぁ!」


「死ね」


 魔弾を手で生成し、顔面に当てる。


 クリーンヒットした黒い男はそのまま倒れこんだ。


「はぁ、はぁ」


 ✖✖✖


 多分、こいつは死んでないはず。そこそこのタフネスがこいつにはある。


「ったく、プレイヤーキラーと早速会うなんてついてなさすぎる」


 一応こいつの安否を確認したいところだが、触って何か魔法発動とかしたらとても怖い。


 触手なんて魔法やスキルはS&Fでは見たことがない。これはこの世界がS&Fとは関係ないのか?


 いや、俺の異能もS&Fでは見たことがないが、俺自身の使える魔弾とかマジックアーツはS&Fで見たことがある。一概にこの世界が無関係なんて言えない。


 俺はマックスカンガルーを見たことがない。だからこの世界が関係ない可能性もあるが、俺はPVPのランク戦を重視してやっているので、もしかしたらS&Fにいるモンスターなのかもしれない。後で調べてみよう。


 だからこいつに容易く触れるのはとても危険な気がして怖い。


 別にこいつが死んでようが生きてようがどうでもいい。いや、死んでいたら困るがその際はもう諦めるしかない。生きてて欲しい、でもそれを確認して死にたいとは思わない。得体の知れない敵と戦ってそれを調べる夜は怖い。


 だからここは撤退が正しい。


「すぐ帰るぞ」


 スマホの電話で000と打ち込みすぐに表世界に帰った。


「時間は裏世界と表世界で進み方が同じかな?」


「はい、全く同じです」


 裏世界で修行パートなんてもんは存在しないか。


「それにしても、まさかプレイヤーキラーが出るなんて驚きでしたね!」


「ああ。しかもかなり強かった。冷静で長い勝負を続けていたら確実に俺は負けていたな」


 火力の足りなさ、リーチの短さを俺は感じた。武器がないがゆえに火力もでず距離を取りつつ魔法で戦うこともできない。


 修行がまだまだ足りないことはもちろんわかったが、一つ不思議に思ったことがある。


 あのプレイヤーキラーはあそこを縄張りにしてやっていたのか?俺がそこに足を踏み入れたせいで戦いが起きてしまったのか?それとも。


 俺はスマホの中で笑顔のエマちゃんを見て目が細くなる。


「プレイヤーキラーを倒しても何もないんだよな?」


「ないですね。別にクエストの延長戦ではないので」


「そうだ、プレイヤーキラーってなんでいるんだ?」


 さっきの戦いで黒い男に聞いても何も教えてくれなかったからな。ほんと、最近の日本人は寂しい人間ばかりだな。


「人間を殺すと、その人間が持つ経験値が丸々貰うことができます。だからレベルが上がりにくい人達の一種の救済システムと言ってもいいですね。まあでも人殺しを容認する組織なんて基本存在しませんから、そういう人間はその他大勢の組織に逆に殺されるケースが多いです」


「なるほどなぁ」


 経験値が貰えるか。経験値があれば強くなる、それに飢えた人間が人を殺し、快感と達成感によりさらに殺す、悪循環だな。


 目の前しか考えず半端なことをする人間には後々辛い現実が待ち受けているということ。その半端なことでも、周りから悪いと思われる程度のことをすれば、だ。


 だが、もしそれが周りにとって当たり前になったら。そうなれば怖いことしかない。そんな未来を見たくない。


 ・・・・・・そんなことを考えていてもきりがないな。とりあえず、レベルアップしたし帰ってステータス振りでもするか。

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ログイン1000日になったらステータスと異能を貰いました〜天才ぼっちに俺はなる テイカー @reika-marutia

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