閑話クリぼっちの一日後編

 クリスマスイベントはイブとクリスマスの二日間で行われる。クリスマス前の週にイベント自体がないわけではないが、クエストなどのイベントはイブとクリスマスにある。


「あ、モチモチさーん。よろしくー」


 協力狩りの時はモチモチさんとVCを繋ぐ。


「よろしくカケル。今日はクリスマスイベント絶対に勝ちます」


「そんな気張る必要ないんじゃないのー?俺はそんな強くないんだから足引っ張ると思うし」


 モチモチさんは俺と同じ高ランカーであるのにも関わらず、レベルもモン狩りの熟練者に引けを取らないキチガイプレイヤー(褒め言葉)なのだ。


「いいんですよ!私は、その、カケルさんと共闘するのも楽しいんですから。マルチする友達も、あまりいませんし」


「あーなるほど、モチモチさんはクリぼっちなんだ!」


 クリスマスイブであるにも関わらずS&Fをやっているんだ、ほとんどぼっち以外であるはずがないか。


「い、いやそんなことないですけど。カケルさんだっていないからゲームしてるでしょ?」


「いやいや甘いよモチモチさん。俺は確かに普段はボッチだけど、家には妹がいるんで大丈夫でーす」


「え、妹いるんだ。あれかな、妹で欲情する系兄?」


「間違ってもそれはない」


 確かに美少女だが、家族に欲情するほど俺はキチガイではない。


「どーだかー」


 ジト目でスマホを見ているのが俺にはわかるよモチモチさん。


「ほら行こーぜー。今回のモンスターはどんな感じなんだ?」


 モチモチさんは事前に詳細を調べているタイプの人間である。まあ負けないための下準備だな、俺は案外適当に行ってしまうタイプなのだが。


「相手はサンタクロースとトナカイだよ」


「えぇ、サンタクロース倒すの?」


 ちょっとどうかしてるだろ運営。いくらクリスマスイベントだからって、サンタクロースとトナカイをそのまま出すか普通。


「うん、サンタクロース強いらしい。接近戦タイプだって。トナカイはバフデバフをかけるタイプらしい」


 えぇ、気持ち悪いんだけど。なんか戦いたくないなぁ。


「戦法はいつも通りでいいか?」


 いつも通りの戦法とは、俺が前に出て剣士特化の攻撃と魔法を使って押し進め、モチモチさんが後ろから支援魔法や攻撃魔法をぶっぱしていく戦法である。


「私達には、それしかできないでしょ?」


 彼女は普段ゲーム外で強気な発言をあまりしないが、ことゲームキャラに入り込むと人が変わったような自信家になる。


 それが彼女の魅力でもあり強みでもある。


「そうだな。じゃあやっていきますか!」



 サンタクロース戦は初っ端から始まる。


 ロングソードでサンタクロースに突っ込む。トナカイは無視していいというモチモチさんのお言葉をいただいたからだ。


 その間にモチモチさんがデバフを相手にかけて、俺にはバフをかける。主にかけたバフは攻撃力、防御力、魔法攻撃力。デバフで防御力、魔法防御力のダウンをかけた。


 ソードスキルを発動してとにかくぶっぱぶっぱ。ただし、クールタイムを理解して放つ。まずはクールタイムが一番長いもっとも攻撃力が高いスキル、ではなく相手の物理の防御力無視を確定で発動させるガードブレイク、効果は二秒でクールタイムは二十秒。当てた後に相手の攻撃が繰り出されるが、後ろに回り込んで二秒に間に合うように大技のソードスキル、カンナギを発動。


 加えた一撃の後、バックステップで一度下がる。モチモチさんの超級魔法が発動する準備が整ったからだ。


「獄楽」


 炎属性が付与された範囲攻撃。状態異常で炎が加算される。冬イベントで出てくるモンスターなどの大半は炎が弱点なので超級魔法の獄楽を当てればかなりのダメージになる。


「ゴォオオオオオ!」


 トナカイが死んだ。もう弱すぎるというか普通にモチモチさん強すぎぃ!


「トナカイはサンタクロースに防御力のバフかけるから、先に倒す必要あるんだよ」


「ほ、ほーん」


 サンタクロースの方を見てみると、もうボロボロになって強そうな雰囲気が欠片もない。


 大体モチモチさん強すぎる。俺いらないやん、ソロで充分だろ。なんだよふざけんな泣くぞ。


 俺は人生においてぼっちの扱いをされている。別にそれは嫌じゃない、むしろ自分から周りと関わりを持たないようにしている。だけども、せめてゲームでは活躍したいという気持ちはあるのだ。


 もう俺の存在意義なんてないよ・・・・・・。


「カケル!」


「え、えぇ?」


 俺、やる必要ある?


「あ、痛い」


 サンタクロースにワンパンを顔面にもらった。


 なんかゲームのキャラがダメージをくらうと、自分がくらったよーな感覚を持って口から痛いと出てしまうことはよくあるよね。


「カケル!どうして動かないの!?」


「ああ、悪い集中してなかった」


「お兄ちゃーん!ご飯できたよー。そろそろ降りられる?」


 ゆ、雪羽!?こんなゲームで劣っている所を見られたら、お兄ちゃんとしての存在意義がなくなっちゃう!?


 俺は瞬時にゲームに戻り、ソードスキルカンナギを再発動、加えてクールタイムを考慮して合計六つのソードスキルを間髪入れずに叩き込んだ。


 サンタクロースの体力が風前の灯だということもあって、すぐに倒れた。


 倒した後に出てくる喜びは何故か出てこなかった。


「カケル、始めからそれやればよかったのにどうしたの?」


「なんでもねぇよ」


 モチモチさんの強さに嫉妬して妹が来たからガチでやったとか絶対に言えない。


「お兄ちゃんゲームやってますね!僕にも見せてください!」


「あ、おいあんま近づくなって」


「いいじゃないですかー!」


 おいコラ!グイグイ来んなよ珍しく!モチモチさんとVC繋いでいるのになんでこんな時に限って!


「・・・・・・いいドロップした。私もうログアウトするね」


「え!?あ、ごめんモチモチさん!」


「うるさい。他称妹さんと仲良くすれば?」


 なんだよ他称って!?他称だけどもその言い方だと妹って信じてもらえてないのか!?いや、別に画面越しの人だからいいけどなんか誤解を解いておきたい!


「待ってモチモチさん!・・・・・・あー」


 見事にログアウトされてしまった。せめてお礼は言わせて欲しかった。


「なんかやらかしちゃいました?」


「いや、大丈夫だ。さぁ、ご飯でも食べようか」




 お昼ご飯を食べた後は一度昼寝をし、夕方まで寝てしまった。


 ランク戦の前に一度ログインをしてモチモチさんにお礼と非礼を詫びる言葉を一応送っておいた。モチモチさんからは次のイベントを周回することで手を打ってもらった。俺なんかと周回したところで足を引っ張るだけだと思うが、なんとか技術で補える部分は補っていこう。


 ランク戦をいつも通り勝ち越しつつ、妹に呼ばれて階段を下りると、リビングにはフライドチキンとケーキが置いてあった。


「本当はお兄ちゃんにケーキを取ってきてもらおうと思ったけど、寝てたから仕方なく僕が行ったんだからね!」


「そういう気を使える雪羽が俺は好きだ」


「もー!そういうこと言うお兄ちゃんにはイチゴは上げません!」


 なんでだ!ショートケーキのイチゴがないなんてただのスポンジと一緒じゃないか!


「大丈夫だ翔。俺のイチゴをやろう」


 父親が俺に優しい!こいつ、何が狙いだ?


 俺のスマホにサークルからメッセージが来た。相手は父親からだ。


『頼む、モン〇ンのマルチ手伝ってくれ。勝てないんだ_|\○_』


 なんだこの父親、ちょっと可愛いじゃねぇか。


「こら!翔はニートなんだからイチゴなんてダメだよ!」


 おい母親ァ!お前俺に厳しすぎだろ!俺だって勉強してんだから中学生としてはそこそこいいだろう!


「ふふっ、お兄ちゃん人気者だね」


「まあ息子だからな。俺が人気なのはしょうがない」


「何言ってんだよ息子、お前は俺のフレンドでしかないぞ?あとはアニメ紹介してくれるサイトと同じ」


「こんな役に立たない息子を私は持ってないわ。きっとちんこも小さいわ」


「おいお前ら親だからって調子のんなよ!?もう息子としてはきつい言葉ばっかりだわ!」


 そんなこんなで、彩川家のクリスマスは家族で楽しいものになりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る