7.休日の過ごし方(4)

 目抜き通りを、アリエル・アッシュフィールドを加えて、三人で歩く。


「そう言えば、アリエルは見習いシスターでもあったんだったな」

「ええ」


 明るく元気よく答えるアリエル。


 休日は教会で奉仕活動をしていると言っていたのを思い出した。だからなのだろう。学院では制服姿の彼女も、休日の今日は白地に青い糸でアクセントのついた僧衣カソックを着ている。


「リ・ブリタニアでシスターを目指すのは珍しいんじゃないか?」

「そうですね。リ・ブリタニア王国は騎士と魔術の国ですから。でも、一定数はいますので、そこまで珍しいわけじゃないですよ」




 千年近く前、世界に突如として悪魔が現れ、侵攻してきた。


 人間は瞬く間に混乱に陥った。当然だ。今まで聖書バイブルや創作物の中だけの存在だと思われていたものが姿を現したのだから。


 そんな中で秩序だって対抗できたのは教会だけだった。


 人間は教会の指揮のもと一致団結し、必死になって抵抗。百年あまりの時間をかけて悪魔どもを東の半島に追いやった。人間は辛くも勝利をおさめたのだ。


 これが世に言う終末戦争アーマゲドンである。


 この戦いにおいて地上はほぼ壊滅寸前まで追い込まれたが、悪魔撃退の立役者たる教会を中心に再編された。暦も改められ、神聖暦と名づけられた。


 そのような経緯で一時は世界全土に影響力を及ぼしていた教会だが、終末戦争アーマゲドンが過去のものになるにつれて、教会の力に地域差が出てくるようになる。


 神聖暦820年の現在――例えば、リ・ブリタニア王国は西方の島国であるため、そもそも悪魔の侵攻をあまり受けなかった。故に、終末戦争アーマゲドン直後こそ教会は世界を救った英雄として持ち上げられていたが、今では政治的影響力は皆無だ。


 ゲルマニア帝国も同様に、教会の力は弱まった。ゲルマニアは先史文明時代から魔術に傾倒した魔術大国だったので、魔術協会が盛り返してきたのだ。


 逆に、国土内に教皇庁バチカンを抱えるミラノ公国は、教会の力が非常に強く、その統治を教皇庁バチカンにほぼ委ねている。


 異色なのは北の大国、ツバロフ帝国だ。

 ツバロフは、教会や魔術、騎士、どの力にも頼らず、通常兵器の開発に心血を注ぐことで軍事大国と呼ばれるまでになった。


 さて、我がファーンハイト王国はというと、未だ騎士団が教会軍として組み込まれてはいるものの、三大勢力がバランスよく共存している。たぶん国としては、このまま平和が続くと見て、教育と芸術の中心地としての地位を確立したいと考えているのだろう。




「アリエル、戻らなくていいのか?」


 確かさっき、ナンパ貴族連中にそんなことを言っていたはずだ。


「もちろん、戻りますよ。でも、すぐに戻らないいけないわけじゃないし、お使いを頼んだ神父様もゆっくりしてきたらいいと言ってくださったので」


 その言葉に甘えようということらしい。


 アリエルのことだ、教会でもよく働いているのだろうな。神父もそんな彼女に羽を伸ばさせるために使いを頼んだのかもしれない。


「というわけで、少しご一緒していいですか?」

「僕はかまわないよ」


 アラシャとふたりだけでいるよりは、そのほうがいくぶんか灯子のことを思い出さずにすみそうだ。


「僕は、だけど」


 と、付け加えてから、僕はアラシャに目をやった。


 つられてアリエルも彼女を見る。


「え? わたし?」


 視線が集まり、戸惑いの声を上げるアラシャ。


「もしかしてお邪魔でした?」

「バカなことを言わないで」


 しかし、それもわずかな間のことで、アリエルの問いに対してはつんと澄まし顔で答えた。


「いいわ。少し一緒に回りましょ」

「ありがとうございます」


 アリエルは嬉しそうに礼を言う。


「それにしてもララミス先輩とアラシャ先輩が……意外でした。休みの日に一緒に出かけるような仲だったなんて」

「むりやりつれ出されたのさ。僕がこもって研究ばかりしてるものだから、たまには気晴らししろってね」


 あはは、と力なく笑うアリエル。

 どうやら彼女の中にある僕のイメージも似たり寄ったりのようだ。


「何度か口論してるところを見ていたので、てっきり仲が悪いのかと思っていました」

「親同士、古くからつき合いがあるの」


 今度はアラシャが答えた。


「これでもララが学院に入学してきたころは仲がよかったのよ。ところが、ある日突然誰かさんがわたしを避けるようになったものだから」


 そう言って隣から睨んでくる。

 そこで名前を伏せる意味はあるのだろうか。


「何ですか、それ?」


 そして、アラシャとは反対側の隣からはアリエルが鋭い視線を投げてくる。

 こんな居心地の悪い両手に華も珍しいな。


「僕にも事情があってね」

「だからなんで――」


 アリエルがさらに追及しようとしたそのときだった。その言葉を遮るようにして声が聞こえてきた。




「おお、そこを往くはララミスではないか」




 見ればオープンカフェでふたりの少女が優雅にティーブレイクをしていた。


 常冬の国の公女エカテリーナ・ラフマニノフと、その従者マーリャ・マスカエヴァだった。

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