第103話 時機の悪い雪は聖夜に降り注ぐ

 朝目が覚めて、いよいよ本格的な寒さになってきた冬に文句も言う気力もなく、俺は布団に顔までうずめて唸り声を上げた。

 顔がキンキンだ。頬を動かすたびに突っ張るような抵抗感を感じる。


 一週間の保護者懇談会も終わり、終業式を目前に控えた今日は、天皇誕生日の振替で月曜日だが学校は休みだ。

 保護者懇談会ではテストの話題について触れられ、最近は上向きだからこの調子でと褒められたのだ。母さんも驚いたようで俺を二度見していた。そこまで驚くようなことかねぇ。



 そんなこともあったが、明日明後日と学校に行けば約二週間の正月休み、つまりは冬休みだ。


 ここ一帯では雪が降ると豪雪になることが多いから、もうちょっと冬休みが長くてもいいと思うのだが、どうやらそうはいかないらしい。

 電車もバスも、20cmくらいの雪ならなんてことない顔をして動いているし、それこそ膝まで埋まるような雪の日でもなければ学校は休みにならない。

 夏休みが他の県と比べて短いのだから、冬休みが余所より長くても罰は当たらないと思うんだけど……。


 もともと夏休みが短いのは秋休みという休みがあったからだと聞いたことがある。

 昔、この辺では実家が農家ということが一般的だったらしく、秋の収穫の時期には稲刈りなどで実家の手伝いをしなくてはいけない子供が多くいたため、そういった休みがあったらしい。

 しかし、現代になりそういった事情を持つ子供も減り、秋休みはなくなった。そして短い夏休みだけが取り残されたというわけだ。


 確かに夏は涼しいからそれでもいいけどさ、その分冬休みを長くしてくれって話だよなぁ。まったく、長時間働くことを良しとする日本の悪い風潮だよ。



 そんなことを考えられるくらいには意識が覚醒してきたところで、俺は今日の予定を思い出した。

 そう、今日は12月24日。クリスマスイヴだ。


 クリスマスといえば日本ではすっかり恋人たちの祭典になっているが、以前の俺には縁のない行事だった。

 それこそ子供のころはプレゼントがもらえる年に一回の行事だったし、楽しみにしていたものだが、ゲームソフトをお願いしたら親にそれはだめだと言われたときに悟って以来、俺にとってはそれほど重要なイベントではなくなっていた。


 それがこの冬、俺にとってもついに意味のあるイベントとなったわけだ! これでもう街で浮かれている若者を見て惨めな気持ちになる必要はないというわけだ!


「そう、なぜなら俺には彼女がいるからなっ!」


 俺は布団の中でにやけた顔を晒し、さらには意味も分からず沸き起こる笑いを抑えることもせず、くすくすと笑う。

 こんなところを晴奈に見つかったら変態だのなんだのって言われかねないけど、しょうがないだろ。


 晴奈も俺が由美ちゃんと付き合いだしたばかりの時はなんだか冷たかったけど、すぐに元の晴奈に戻っていた。

 由美ちゃんを大切にしろとか、泣かせたらただじゃ置かないとかいろいろ言っていたし、俺と由美ちゃんの仲を認めてくれてるってことでいいんだよな。



 俺はベッドから体を起こすと、体から急速に失われていく体温を逃さぬようにスリッパを履き、部屋のカーテンを開ける。

 その先に広がるのは、相変わらずのっぺりとした鈍色の空。今にも雪が降りだしそうな空だった。


 当然俺も今年のクリスマスは彼女と過ごすことになるので、今日はお昼から由美ちゃんとデートの約束がある。本当は晴れているのが望ましかったが、雪が降るならそれはそれでロマンチックじゃないか。



「うぅ……、寒っ」


 俺は足元から上がってくる寒気に身震いして、自室を後にする。早くファンヒーターにあたりたい。


 ……うん、楽しみだ。クリスマスを楽しみだと感じるのはいつぶりだろう。

 いや、ゲームのイベントで割と楽しみだったクリスマスもあるな……。いつぶりって程の時間は経ってないかもしれない。


 そんなくだらない思考で俺は何かをごまかす。

 何をごまかしたのか、それは考えないようにした。





 ――――





「やっぱりこうしてみると、あたり一面カップルだらけだな」

「そりゃそうですよ。クリスマスは恋人のためのイベント! さらに祝日となればみんなあたしたちみたいにデートしますって!」

「そんなもんか」


 俺は由美ちゃんと街に繰り出し、ファミレスで昼食を済ませるとぶらぶらと街を歩いていた。

 結局お金が厳しくなって、さっそくファミレスにお世話になっているわけだが、由美ちゃんは場所なんて気にしないと言った風にとても楽しそうにしていた。やっぱり晴奈の言う通りだったのかもな。



 駅前の繁華街はこの天気だと言うのに、笑顔で腕を組み歩く男女が多く見受けられる。

 由美ちゃんの言う通り祝日というのが原因なのか、俺たちのような学生以外にも大人のカップルの姿も多く見える。

 そこかしこが甘ったるい空気で満ちているが、やっぱり以前ほど気にはならない。


「ね、陽介さん。次はどこ行きましょうか?」


 チラリと横を見ると、目が合った由美ちゃんはにっこりと笑ってそんなことを言う。


 やっぱり由美ちゃんが俺の隣にいるからだろうな。隣でこんなに楽しそうにしてくれている由美ちゃんを見ていると、周りの他人がどうこうなんてことは気にならなくなる。


「うーん、そうだなぁ。由美ちゃんの行きたいところに行こう」

「それじゃああたしの行きたいところばっかになっちゃうじゃないですかぁ。陽介さんの行きたいところにも行きたいです!」

「俺の行きたいところかぁ」


 そう言われてもピンとくる場所がない。こんな田舎じゃ街といっても代り映えしないし、新しいゲームを物色しに行くのに由美ちゃんを付き合わせてもなぁ……。


「あっ、じゃあゲーセンでも行こうか? 何か一つくらいなら取ってあげられるだろうし」

「それいいですね! ついでにプリも取りましょう!」



 それから俺たちは近場のゲームセンターに向かった。

 そのゲームセンターは地元の学生には有名な取りやすいゲームセンターで、アームの強度やゲームの種類など、比較的取りやすい設定になっていた。


 よくあるゴムボールに引っかかった景品を片側のアームのみで落とすものや、たこ焼き器にピンポン玉を落とし込んだりするもの。空いた穴に棒を通すものなどは比較的少なく、単純に二つのアームで景品をつかみ、落とすゲームが多くを占める。



「由美ちゃん、なんかほしいものある?」

「うーんと……、あっ! あれ可愛いです!」


 由美ちゃんが指さしたのは、どこかで見たことのある猫のキャラクターのぬいぐるみだった。五体投地したうえで顔だけ上げたようなポーズをしている。

 ゲームの種類は普通のUFOキャッチャー。これなら何とかなるかもしれないな。


「商品はこれでいいの? こっちの黒いのとかもあるけど」

「いえ、この三毛のやつがいいです! 家のミーちゃんにそっくりなので!」


 由美ちゃんがそう言うので、俺は試しに100円を入れてみる。

 すると軽快な音が流れ、ボタンが光りだす。


 俺はひとまず筐体の中をいろいろな角度からあちこち覗き込み、取れそうな角度を探す。

 うーん、このぬいぐるみは二つの棒の上に乗せられていて、おそらくだがこの棒には滑り止めのゴムチューブが通されているはずだ。ちょっと引きずるくらいじゃ簡単には落ちないだろう。

 落とすなら片側を大きく持ち上げて、景品が落ちた時の衝撃で棒にバウンド。そのまま勢いで落ちるのを狙ってみるか。

 まぁ、100円で獲れるとは思ってないし、ひとまずアームの癖を読むくらいの気持ちでやってみよう。


 俺は意を決してボタンを押す。そしてここだという場所でさっと離す。

 ……うん、横のラインは大体予想通りのところだな。あとは前後っと……。


 俺はボタンに手を伸ばしたまま体を筐体の右に回り込ませ、横からアームと景品を見る。

 そうしてアームを動かし、ちょうど猫のぬいぐるみの首のあたりに掛かるようにアームを止めた。


 アームが猫の首を正確に捕らえ、がっしりとホールドする。

 普通のゲームセンターだとこの時点ですでにアームの弱さが見え隠れするものだが、ここはやっぱり大丈夫だ。


 アームは猫の首を掴んだままゆっくりと持ち上がっていき、ついにはぬいぐるみを完全に宙に浮かせた。


「す、すごい! 陽介さん、これ獲れるんじゃないですか!?」

「いや、どうかな……」


 ここまで来ても落ちた時の角度が悪いとうまくいかないものだ。油断はできない。


 アームが天井にたどり着くとき、がたんと衝撃が走る。そのせいでぬいぐるみはあっけなく落ちていった。

 しかし、ぬいぐるみは二本の内、手前の一本の棒に体をぶつけると、重たい頭の方からこちらに向かって落下してくる。

 そうしてぬいぐるみは筐体の下。つまりは景品取り出し口へと向かってすんなりと落ちていく。


 ガタン。と音がして、景品取り出し口の窓から先ほどのぬいぐるみが顔を出した。


「すごいすごい! 陽介さんすごいですよぉ! ホントに獲れちゃいました!!」

「う、うん。まさか一発で獲れるとは思ってなかった……」


 俺は自分でも驚きながら景品取り出し口からぬいぐるみを取り出す。

 そして目をこれでもかと輝かせた由美ちゃんに手渡すと、由美ちゃんは本当に嬉しそうに顔をほころばせた。


「わぁ……! 陽介さん、ありがとうございます! この子を陽介さんだと思って大切にしますね!」

「うん。精々かわいがってやってくれ」


 ここまで喜ばれると、なんだか安く上げたみたいで後ろめたいけど、でもまぁいいか。

 本当に大事そうに猫のぬいぐるみを抱える由美ちゃんを見ていると、なんだかこっちまで嬉しくなってくる。


 それから、由美ちゃんに取り方のコツを教えたりしながら、初めての彼女とのクリスマスイブは過ぎていくのだった。





 ――――





「あっという間でしたね~。もう少し一日が長ければいいのに……」

「そうだね。なんかゲーセンで盛り上がりすぎたかな?」

「でもとっても楽しかったです! 陽介さんって本当にゲーム得意なんですね。かっこよかったです!」

「ははっ! ゲームしててかっこいいなんて言われたの初めてだよ」


 あれからゲーセンでなんだかんだと楽しんでしまい、もう外は暗くなりかけていた。

 景品もあの猫のぬいぐるみ以外にも3つほど増えたし、プリクラというのも人生で初めて撮った。いろいろと修正ができるようで、まるで俺が女の子になったかのような写真が出来上がり、二人して笑ったものだ。


 その後お茶でもしようかと隠れ家的なカフェでコーヒーを飲み、今は駅へと向かっている道中だ。あたりに人は見えず、俺たち二人きりだ。



 二人並んで歩いていると、由美ちゃんは突然立ち止まる。

 唐突だったので、俺は一二歩前に進んだのち、慌てて立ち止まって振り返った。


「あの、陽介さん。お願いしてもいいですか?」

「うん、なに?」

「手、繋いでもいいですか?」


 申し訳なさそうに上目遣いで問う由美ちゃんの目は、不安げに揺れていた。

 俺はそっとポケットに入れていた手を出すと、由美ちゃんに向かって伸ばす。


「ああ、そうしよっか」

「やった! ありがとうございますっ」


 由美ちゃんは嬉しそうに俺の方に駆け寄って来て、俺の腕に抱きついた。


「おっとっと……! 手を繋ぐんじゃなかったの?」

「こっちの方がもっとあったかいかなって」

「……ま、いっか」


 腕に抱きつきながらも、器用に俺の手に自分の手を絡ませる由美ちゃん。その手はとても暖かかった。

 夏のときにもこんな風に抱きつかれたことがあったが、今はお互い厚着をしているので、俺は全神経を肘に集める必要もない。非常に精神的にも楽だった。



 それから、俺たちはこれといった会話もなく道を歩く。

 随分と暗くなった街は、ポツリポツリと明かりが灯りだし、幻想的な風景を演出していた。

 ここに雪でも降ればより一層幻想的になるのだろうが、まだ降る気配はない。


 何を話そうか。そんなことは今日一日考える暇もなく会話が続いていたのに、なぜだか今は何を話せばいいのか分からなかった。

 それでも気まずくはない。不思議とその無言を受け入れられている自分がいた。



「あの、陽介さん。もう一つだけわがまま言ってもいいですか?」


 もう少しで人気の多い通りに出るといったところで、由美ちゃんがそんなことを言った。

 隣の由美ちゃんに視線を落とすと、彼女は寒さで頬を赤らめながらこちらを見上げている。


「ああ、いいよ」

「じゃあ、少しかがんでください。……そう、じゃあちょっとだけ動かないでくださいね」


 俺がかがむと、由美ちゃんはそっと俺の腕から手を放し、俺の横に立った。


「そのまま、動かないでくださいね……」


 視界の端で由美ちゃんが動く。俺の肩にその小さな手が置かれる。そして、由美ちゃんはそっと近づいてきて――




「チュッ」




 少し湿った音がして、俺の頬に柔らかな感触が残る。

 小さくて柔らかい感触。温かなその感触が遠ざかると同時に、外の冷たさが俺の頬を襲う。


「え……?」


 驚いて振り向けば、そこには由美ちゃんが立っている。今日一日ずっと一緒にいた俺の彼女。

 でも、そこにいたのは俺の知っている由美ちゃんではなかった。俺の知らない、俺が見たこともない表情をした由美ちゃんが、そこには立っていたのだ。


 街を彩る明かりも、向こうの通りを歩く人々も、遠くに聞こえる歩行者信号機の音も。俺たちには見えない。聞こえない。

 この世界に俺と由美ちゃんの二人だけになってしまったかのような、そんな不思議な静寂がこの場所を支配していた。


「陽介さんが、いけないんですよ。あたし、ずっと待ってたのに何もしてくれないんですもん」


 由美ちゃんは恥ずかしそうに伏せていた目を遠慮がちにこちらに向けると、そんなことを言った。


「デートの約束もいつもあたしから誘って、手もあたしが言うまで繋いでくれませんでしたし。あたしはずっと待ってたんですよ? もうあたしは陽介さんの彼女なんですから、陽介さんがしたいようにすればいいのに、全然、何もしてくれないから……」


「由美ちゃん……」

「あたしはもう心の準備はできてます。手を繋いだり、キスをしたり。その先だって。陽介さんが望むなら、あたしは何だってできます。だからっ……!」


 俺は由美ちゃんの言葉に首を振る。

 その意味が分からないようで、由美ちゃんは言葉を止め、じっと俺の瞳の奥を覗き込む。



「ありがとう、由美ちゃん。その気持ちは嬉しいよ。でもだめだ。だめなんだよ由美ちゃん。手を繋ぐ、腕を組む。そのくらいだったら全然いいさ。俺だってそうしたいって思う。でもね、キスやその先はだめなんだ。由美ちゃんはまだ中学生で、俺は君よりずっと年上だから」


「どう、して……?」

「せめて由美ちゃんが高校生になるまでは、まだ健全な関係でいたい。これは俺のエゴかもしれないけど、最低限守りたいことなんだ」

「そんなっ……! 高校生になったからって今と何が変わるっていうんですか!? ウチは心も体ももうとっくに――」

「ごめん。これは俺のわがままみたいなものなんだ。もう少しだけ、俺が自分を許せるようになるまでの間、どうか待っていてほしい」

「陽介さん……。分かりました……」


 由美ちゃんはがっかりしたように項垂れると、弱々しく頷いた。


 ……ごめんね、由美ちゃん。でも俺はまだ君を汚せない。その先に進む勇気が、度胸がないんだ。

 そうするにはあまりにも、君は幼い。いつまでも妹の友達という認識が抜けきらない。

 でもきっと、きっと時がたてば。そうすれば変わるはずなんだ。だからその時まで待っていてほしい。


「じゃあ、せめてくっついていてもいいですか? あたし、それで我慢できますから」

「うん……。ごめんね」


「いえ! 確かに考えてみれば当然です! あたしはまだ義務教育。そう考えるのは自然だと思います! むしろあたし、あんなこと言って恥ずかしいです……。あ、あたしそんなに破廉恥な女の子じゃないですからね!?」


「うん、分かってるよ」

「ホントですか!? ホントに分かってますか!?」

「ああ、分かってるって」


 再び元気な姿に戻った由美ちゃんは、俺の腕にぴったりとくっついてくる。

 その力は先ほどよりも強く、俺は少しだけ申し訳ない気持ちになる。



 そして俺は歩き出そうと顔を上げた。目の前には人気の多い通りが見える。


「ん……?」


 一瞬、視界の端に見覚えのある人の顔が見えた気がした。

 きっと以前の俺なら見逃していただろう。だってその顔は俺とそこまで関わりのないものだったからだ。

 でも気付けた。ここ最近は嫌というほど見た顔だから。




「……広瀬?」




「陽介さん、どうかしましたか? 友達でもいましたか?」

「あ、ああ、いや。見知った顔が見えた気がしたんだけど、気のせいだったみたい」


 ……いや、気のせいだ。確かにここにいてもおかしくはないけど、いたからなんだっていうんだ。別に見られて困るようなこともないし、あちらが俺たちに気が付いていたとも思えない。

 はぁ……。最近気を張り詰めすぎていたせいか、被害妄想っぽくなってるな。いかんいかん。


「なんでもないよ、いこっか」

「はい!」


 俺はきっと気のせいだと一蹴に伏し、駅に向かって歩き出すのだった。





 ――――





「ふぅ……。今日はいろいろあったな」


 由美ちゃんと彼女の家の前で別れた後、俺は独りですっかり日の落ちた道を歩いていた。

 さすがに冬は日の落ちる速度が速い。まだ7時前だと言うのにもう真っ暗だ。


 まだ頬に残る由美ちゃんの唇の感触に、思わず手が伸びる。

 ……ええい、やめやめ! あんなこと言っておいてさっそく決心が揺らぎそうじゃないか! ……でも柔らかかったなぁ。


 その時、ぽつりと俺の鼻の頭に冷たいものが当たる。


「ん? ははっ、今頃降ってきやがった」


 見上げてみると、真っ黒だった空の向こうから白い雪がゆらゆらと落ちて来る。

 手をかざして落ちて来る雪を受け止めると、それは微かな冷たさだけを残して儚く消えていく。


「どうせならもうちょっと早く降ってくれればいいのにさ」


 そんなことを愚痴りながら外に出した手をポケットにつっこみ、俺は歩き出す。



 まるでタイミングをずらしたように降ってくる雪に、俺は少しだけ胸騒ぎを感じた。

 ここのところ思う様に物事が進んだためしがない。なにも起きなければいいんだが……。


 このとき、俺はすっかり忘れていたんだ。今の俺を取り巻く状況が、限りなく悪いということに。

 雪芽とほぼ絶交状態に陥り、俺は由美ちゃんのことばかり考えていて。

 雪芽のことは広瀬が何とかしてくれるって、そう思い込んでいた。


 そして後で思い知ることになる。今日見たあの人影が、気のせいではなかったということに。

 それをきっかけとして、運命はまた俺に牙を剥くということに……。

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