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 手紙を読んだ。涙が出てきた。

 たった一人生き残ってしまったこと。幸福なのか不幸なのかもわからないまま生きていること。同じだ。おれと彼女は、同じだ。

 違うこともある。水も食料も豊富にある環境が羨ましいと同時に、だからこそ辛いだろうとも思った。おれのように食料を探し日々生きることで精一杯なら、余計なことを考える暇もなかったかもしれない。だが彼女は何もしなくても生きていける。時間があるのだ。使い切れないほどの時間が。その時間で彼女は何を考え、何度絶望したことだろう。

 励ましたかった。あなたは一人じゃない、と伝えたかった。


 また返事を書いて送った。

 あなたに会ってみたい、なんてことを書いた。俺が月へ行くか、向こうがこちらに来るか。現実的ではない。そんなことわかっているが、妄想するだけで楽しかった。


 ずっと手紙のことばかり考えていたのだが、その頃になると少し落ち着いてきた。手紙のやり取りがこれからも続くという確証が持てたからかもしれない。おれの興味は手紙から、その送り主のほうへ移っていった。

 自分のことを(自虐的にだが)小娘と書いていた。名前はイヴ。きっと若い女性なのだろう。どんな顔をしているのだろうか。どんな声をしているのだろうか。会ってみたい。話してみたい。思いは募る一方だった。


 久々に雨が降った。

 コンテナの中に大量のタンクが転がっているおかげで、雨水を貯める容器には事欠かない。この場所を選んで正解だった。いつも節約しているぶん、水がたくさん使えるというのはとても嬉しかった。

 おれは外に飛び出して、雨に打たれながら空を見上げた。煩わしくなって服を脱ぎ捨てた。ついでにタンクをいくつか外に引っ張り出し、布やシャツを入れてじゃぶじゃぶと踏みつけた。原始的な洗濯だ。ただ踏むのもつまらないので、ステップを踏んで踊った。

 他者の存在を意識して、おれはようやく身だしなみを整えることを思い出したのだ。何日も風呂に入っていない自分を、汚れきった服を、恥ずかしいと思ったのは久しぶりだった。


 雨は止まなかった。

 おれは雨に濡れながら街を歩き回った。あの恐慌によって、街はどうしようもないほど荒れ果てている。もうめぼしいものは残っていない。建物の中を隅々まで探せば何かあるのかもしれないが、あまり不用意には立ち入らないようにしている。たまに腐乱した死体が残っていることがあるからだ。

 探索を終えて寝床に戻ると、返事を載せたポッドが着陸していた。

 濡らさないように手紙を取り出し、封を開けた。

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