Letter 2

 こんにちは。

 あなたはアダムさんというのですね。

 さて、こちらの具体的な状況を知りたいということでしたね。できるだけ記憶を辿って書いてみました。


 毎年おこなわれる月面基地記念式典が、今年もつつがなく執り行われました。ですがそのとき、わたしは階段から落ちて頭を縫う大怪我をしており、出席できませんでした。それが幸運、あるいは不幸だったのです。

 それから数週間経った頃でしょうか。あっという間でした。わたしが病室で過ごしている間に、お母さんも、お父さんも、先生も、友達も、次々に倒れていきました。

 それは地球から来たウイルスの仕業でした。とても感染力の強いウイルス……式典のゲストとして地球から招かれた方にでも潜んでいたのでしょうか。人から人へ、それは驚くほどの速度で広がっていきました。

 地球のものとは少し異なる性質を持っていたらしいのですが、詳しいことはよくわかりません。お医者様は「宇宙空間を経由したことによりウイルスが変性した」「基地にあるワクチンが効くかもしれない」とおっしゃっていました。それから、震える腕でわたしにワクチンを打ってくれました。

 ようやく地球からの通信を受け取った頃には、もう手遅れでした。発症すれば必ず死に至る病……まだ発症していなかったのは、式典に出席していなかった人。わたし、そして寝たきりのおじいさんおばあさんたちだけでした。半数以上の方々はすでに息をひきとっていました。

 ワクチンを接種したわたしは、高熱を出すだけで済みました。三日ほど苦しみましたが、熱も引きました。わたしはなんとか生きていました。

 起き上がれるようになってから、他の病室を見にいきました。おじいさんもおばあさんも、皆ベッドの上で息絶えていました。ご高齢で、体が熱に耐えられなかったのでしょう。わたしはどうすればいいのかわからず、頭を下げてから部屋を去りました。

 がらんとした基地の中を歩き回りました。誰か生き残ってはいないかと必死で探しました。でも無駄でした。お掃除ロボットが、倒れた人々の身体を「掃除」し始めました。

 ようやく確信しました。もう、ここで生きているのはわたしだけです。

 こんな小娘が一人だけ生きていて、何の価値があるでしょうか。だってわたしは、何もしなくてもいいのです。ここでは地球からの補給船に何らかのトラブルが起きた場合に備え、必要最小限の水と食料が自動で生産される仕組みになっています。もちろんあくまでも緊急用で、基地の全員ぶんにはとても足りません。しかし皮肉なことに、こうやってわたし一人になってしまうと水も食料も消費が追いつかないのです。

 食堂に行けばごはんが出てきます。シャワーだって浴び放題ですし、お湯を溜めて浸かったりもできます。図書室に行けば本も漫画も読み放題です。掃除ロボットが勝手に掃除していくのでどこもピカピカです。

 とても贅沢で寂しい毎日でした。自分が生きているのか死んでいるのかわからなくなりそうでした。あなたからお手紙が来るまでは。


 今はなんだか、寂しさが薄らいでいる気がします。あなたからの手紙が待ち遠しいです。

 お返事、お待ちしています。

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