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 手紙を読んだ。何度も読んだ。穴があくほど読み返した。

 信じられなかった。たった一人だが、月にも生き残っている人がいたのだ。その人のもとにおれの手紙が届いた。手紙を読んで、返事を書いてくれた。その返事が無事におれのところへ届いた。その一つ一つが、いったいどれほどの確率なのだろうか。

 信じられなかった。まだ夢を見ているのかと思った。


 おれは一日かけて返事を書き、再びポッドに入れて打ち上げた。

 送ったばかりだというのに、もう返事が待ち遠しかった。

 二十過ぎた男がこんなことを言うのは恥ずかしいが、寂しかったのだ。誰かに会いたかった。それが無理ながら話し相手が欲しかった。いや、話せなくてもいい。とにかく人と接したかった。おれは全身で仲間を求めていた。


 おれだけを残して皆死んでいった。どうしておれも一緒に死ななかったのだろう。何が特異体質だ。何が奇跡だ。おれにそう告げた医者もあっさりと死んでいった。一人だけ生き残って、何の意味がある。

 一年以上他人と接していなかったおれにとって、生きた人間との文字のやり取りは麻薬的な愉悦となった。他のことなんて頭から吹っ飛んでしまった。もはやおれは、手紙のやり取りのことしか考えられなくなった。それから一週間、それとも二週間だろうか。何をして過ごしたのか一切覚えていない。おそらく、空を見上げつつ手紙の内容や相手について考えていたのだと思う。増えていく空の缶詰だけが時間の経過を教えてくれた。


 それから、待ちに待った返事が来た。やっとだ。

 おれは小躍りしてポッドに駆け寄り、手紙を取り出した。封を解く手ももどかしく、少し封筒を破ってしまった。何の変哲もない茶封筒と白い便箋が、そのときのおれには何よりも眩しく見えた。

 やはりおれの妄想ではなかったのだ。いや、ひょっとしたらすでにおれの気が狂ってしまっていたのかもしれないが、そんなことはどっちだってかまわなかった。

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