一章 神獣族の王女編
王女の懇願
リーシャ王国──それはグリーンオーシャンの中心部に浮かぶ大陸の名だ。世界中の冒険者からは旅の経由地として知られており、国内は常に多くの者で賑わいを見せていた。また国の至る所に衛兵が常駐しているため、治安面も非常に良い。
そんな国の中心部──王族が居住する宮殿の一室では、何やら騒ぎが起こっていた。
「リーシャ殿、それは本気ですか!?」
長髭の兵士が驚いたように声を上げた。眼前には、絢爛な赤いドレスに身を包んだ王女が椅子に腰を降ろしている。そんな王女の外見は見るからに若く、頭部には狐のような耳を生やしていた。
「だから本気だと言っているだろう。我は父上が不在の間、遠征に行く。ちょっとした探索と気分転換だ」
神獣族の血を引き継ぐリーシャは、頭部の狐耳をぴょんぴょんさせながら言った。まだ幼い外見とは裏腹に古風な喋り方だ。
「しかし、大事な一人娘が国外を旅するだなんて知ったら国王は心配するでしょう」
「だから父上が不在の間に行くのではないか」
「それだけじゃありません。リーシャ殿は世界中で狙われている神獣族の一人です」
「それは関係無いだろう」
「リーシャ殿はご自身の立場を分かっていないようですね。国王以外にも多くの方々があなたを大事に思っているのですよ?」
「我の知ったことではない。とにかく今の生活には飽き飽きしているのだ」
リーシャは駄々をこねる子供のように引き下がらない。国内での生活が大半を占める彼女にとって、国外にある未知の世界は魅力溢れるものだった。
リックは諦めたようにため息を吐く。
「ちなみに遠征先はどこなんです?」
「ゾロフト島だ」
「ゾロフト島!? それは流石に危険すぎます!」
ゾロフト島とは、グリーンリバーの西部に位置する島だ。島全体が霧に覆われている事から、別名『霧島』とも呼ばれている。
「ゾロフト島には、かの有名な『悪霊』が潜んでいるのですよ!? 神獣族であるリーシャ殿からすれば、なおさら危険な場所です!」
「危険なのは知っている! それを全て承知した上での話だ! ⋯⋯安心しろ、我にもしっかりとした策がある」
「策とは?」
「遠征先に護衛を引き連れて行くんだ。もちろん腕利きの護衛をな。そうすれば問題無いはずだ」
「護衛と言っても、あの場所では相当な人数を揃える必要があります。たとえ十人の護衛を揃えたとして、それでもまだ足りないでしょう」
「では百人の護衛を用意すれば、話は変わるな?」
「それは、どうですかね⋯⋯」
「お願いだ、リック」
リックと呼ばれた兵士は困ったような顔を浮かべる。王女は何を言っても遠征を諦めそうにない様子だった。
「腕利きの護衛を百人集めれば心配は要らない。この国に沢山いるだろう?」
「それは、まあ⋯⋯」
リーシャの言う通りだった。この国は安全性や利便性などあらゆる面で融通がきくため、世界各国の戦士が屯している。それに加え、リーシャを敬愛する戦士も多い。
リックはしばし考えた後、意を決したように口を開く。
「⋯⋯分かりました。それでは腕の良い護衛を百人ほど手配します。それと向かう際に必要な船の準備も」
「ああ頼んだぞ!」
リーシャは伝達に向かうリックの姿を満足気な表情で見届けた。
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