裏切りの神と十二の使徒

鈴鹿

プロローグ

 天界にある宮殿──ヴァルハラにて。


「ヴァルキリー、最後の一人が決まったそうだな」

「はい」

 神々が住まう天界で、ヴァルキリーは姿の見えない主神と対話していた。

「其方はなぜ、彼奴を十二人目に任命した?」

 主神からの問いかけに対し、ヴァルキリーはその男を任命した理由について淡々と述べる。

「私は彼の観察力や洞察力、精神力、人間力、弓術を高く評価しました」

「それだけか?」

「いえ、そんな事は⋯⋯」

 威圧を含む主神の言葉に、ヴァルキリーは少しだけ怯んだ。

 主神の言いたいことはヴァルキリーも分かっている。『使徒』として、それ位の能力を持ち合わせている事は大前提であると。

 ヴァルキリーは咳払いをした後、再び言葉を紡ぐ。

「それだけではありません。彼の特筆すべき点は、何よりも潜在性です」

「潜在性?」

「ええ。彼は他の者に無い可能性を秘めている、そう私は感じました。そしてそれは、彼だけが保有できる特権でもあります」

「それは世界終焉の危機を救うに相応しい力なのか? 神に等しい『使徒』としての役割がアールヴのエルフ族に務まるのか?」

「もちろんです。エルフ族だからこそ皆を束ねる団結力と勇敢な志を持っています。きっと二十四の『悪霊』を全て滅ぼし、世界の破滅を救ってくれるはずです。性格は少し歪んでいますが」

 ヴァルキリーは力強く断言した後、苦笑混じりにそう付け足した。

「そうか。其方がそこまで言うのであれば期待しよう。どうやら我はエルフだからと言って甘く見ていたようだ。撤回する」

「いえ、お気になさらず」

 ヴァルキリーは答えた後、主神の存在感が徐々に薄まっていくのを感じた。どうやら宮殿の最奥部に戻り、長期間の眠りにつくようだ。

「ではヴァルキリー、我は信じているぞ。お前と、お前が選んだ十二人の英雄を──」

 主神は最後にそう告げて、その場から完全に消え去った。

膨大な気配が無くなると、それを察知したヴァルキリーは雄大な両翼を広げる。

「時代は必ず守られます。私が見込んだ者達ですから」

 願うようにそう言った後、自身もまた何処かへ羽ばいて行った。


 ──それから五年後。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る