4.このパンツ泥棒に制裁を!
翌々日の今日。
夜の内に洗濯して部屋干ししていた私達の下着が盗まれた。
「あれ?私のパンツだけないわ!」
「私もだ!パンツだけ盗むとかどんな変態の巨匠なんだ!」
慌て始める二人を目に、ついに私達の屋敷もやられたか、とやれやれと項垂れる。
「私もカズマに買ってもらったパパパンツがないです!」
部屋でギャアギャアと騒いでいたことがうるさかったのか、カズマが起きてくる。洗濯部屋のドアが開く。
「なぁ、なんだよ皆して…」
「あの!カズマ!私達の下着も盗まれました!」
リビングにて会議が始まる。
「三人とも聞いてください。ゆんゆんが私がカズマを尾行した日に聞き込み調査を行なっていたようですが、何も手がかりがなかったそうです」
「手がかりがないって、報告する意味がないじゃない!」
「これだけ騒ぎを起こして手がかりがないとは余程の手練れなのか。決行は昨日の深夜。私達が寝静まった時にしかないよな?」
「そうですね。それに鍵もかかってましたし、アンロックの魔法を使う輩かもしれませんね」
「私の結界も通り抜けられる程の大物かしら。寧ろ普通の人だったら結界に反応しないし一般人かもしれないわねー。かじゅまさーん、いい加減協力してよー!」
と駄々をこねるアクア。私はじぃーと、ソファーに座るカズマをみる。つられてダクネスも見つめる。
「なぁカズマ、カズマも使える類だよな」
「昨日の今日のことですし、カズマはぐっすり寝てたんだと思います。ね?そうですよね?」
「ああそうだよ。それに昨日と一昨日はいい夢をみてたしな」
「いい夢とはなん…はっ!」
ぐへへと笑うカズマから、恥ずかしいのか真っ赤にした顔に変わる。お前の夢だよ、と言わんばかりに目線を私だけに移してきた!
「俺は協力しないけどなー、何せだらだらしてたいから!」
そう言う自室に戻ろうとするカズマを呼び止める。
「待ってください!カズマに買ってもらったパンツが盗まれたんですよ!?」
「ならもう一度新しいのを買えばいいじゃないか?」
「そういう問題じゃないです!事のなりゆきで、買ってもらった大事なパンツなのに!」
「あーはいはい!分かったからそれ以上大声でパンツ言うのはやめろ!」
もう一押しだ。私はカズマの側にくると、くいくいと袖を引っ張って、
「まだカズマにあげてないのに…」
と口パクで伝えた。死ぬ程恥ずかしい。
買ってもらった以外のならあげますよ、という意思が伝わったのか。
「しょおおおおがねぇなぁ!俺のめぐみんのパンツが盗まれたのならこうしちゃいられない!ぜ!」
この男!瞬間、私の乙女なところが崩壊し、カズマの男っぽさが台無しに終わる。
その夜、ダスティネス家だけがまだ狙われていないことを知り、ちょっと監視してくると私だけに言ってダクネスの実家に行った。
「まずは俺だけでなんとか犯人を見つけ出してみせる。俺だけが無理だったら、いい考えがある」
「カズマだけでなんとかって…!いい考えとはなんですか?」
「前みたいに神器の回収とはわけが違うけど、俺たちの怪盗団で犯人を捕まえるって魂胆だ」
「なるほど!流石は我がリーダーですね!」
私はふふっと笑うとグッジョブの手をするとカズマはアイルビーバックのポーズで去っていった。
カズマは朝に帰ってきた。
ことの経緯を私達に話した。
案の定犯人は現れたものの、後一歩のところで捕まえられなかったそうだ。
カズマは酷く動揺していたので、背中をさすってやる。
「大丈夫ですか?」
「お、おう」
私は背中をよしよししながら、カズマの何か考えてる思案顔を眺める。
「はい。ちょむすけを抱いてもいいですよ?」
「なーう」
カズマはちょむすけを抱き上げ撫でながら落ち着きを取り戻していた。
「そうと決まれば、怪盗団再結成ですね!集まってくださってありがとうございます!」
セシリーお姉さんは来れなかったものの、クリス、ゆんゆん、アイリスもといイリスがめぐみん怪盗団の秘密基地の前に集まった。
「チリメンドンヤのイリスです。再び宜しくお願いいたします」
「改めて宜しくね!」
「いいか皆!作戦はこうだ。昨日は犯人は部屋の窓から入ってきた。俺とめぐみんは天井か家具に隠れて、窓から入ってきた犯人を取り押さえる。取り押さえたところを、クリスがバインドを使って縛る。それでもかわされるなら、イリスとゆんゆんの魔法でなんとかする、いいな?」
威勢の良い返事が聞こえた後、昨日と同じくダクネスの実家に向かう道すがら。
「お頭さん、なんでまたダクネスの家なんですか?」
「何せ、犯人は昨日の時点で何も盗んでいないからだよ」
「それはどういう意味だい?」
クリスも疑問に思ったようで、本気で気になってしまった。
昨日とは違う、今度は二階のダクネスの部屋で待機していた。
「アンロック」
ガチャリと、窓から犯人が入ってきた瞬間、ベッドに隠れていた私が羽交い締めにする。
後からカズマも天井から降りてきたが、犯人は私が外されるくらいに激しい動きをするとかわされる。それでも尚、私は引っ付いた。
「ん!ちょ…触らないで!」
私が女性だと見破ったのか、体を
「お尻触らないでくだ…?」
おや?この体型は何処か見覚えのある気が。私は犯人の外れかけていた怪しい仮面を取った。
「なぁめぐみん、もうそこまでにしようぜ?」
「バインド」
一旦私から離れた犯人に素早くクリスにしかけてもらった。
「どういう意味か詳しく聞こうじゃないか?」
「ダストさん、なんでここに…?」
ゆんゆんの言う通り、縛られた犯人はダストだった。
アイリス視点で説明をば。
話はこうです。リーンさんとキースさんたちの洗濯物を洗うのが面倒くさくなり、アクアさんのところに行って「浄化をしてくれとまでは言わないがアクア様の出汁をくれ」とお願いしたそうですけど「簡単には出せないし、いざ出すってなった時覚えとらんわ」と断られたようです。そこに、とぼとぼ歩いていると怪しいおじさんに話しかけられ「アクア様の出汁を5万エリスで買ったんだ、女性の下着(それもパンツだけ)をめいっぱい集めてくれたら交換してやる」と言われまんまと引っかかってしまいました。
わらしべダストさん?ですかね。
かくかくしかじかで説明は終わります。
「最近ダストが約束してもブッチしてたのはこのことでいなかったからかー」
「それで、“昨日は下着を盗まないでいてくれたら俺も見逃してやる”とカズマは告げ口したんですか!」
私自身も確認したくないような物凄く怒ってる顔をしていることはカズマの表情を見てとれた。
「すっすいませんっした!!」
私はカズマにDOGEZAをさせた。
「カズマは本っ当にダメンズですね!!さて、この男は私にセクハラをした罪もあると罰金と懲役はどのくらいになるんですかね?」
「あのなダスト。もう悪い俺俺詐欺とかには引っかかるなよ。いい加減悪事もやめたらどうだ?」
「おう。悪事に染めるかどうかは分からないけどよ、しっかりお勤め果たしてくるよ…」
私も同様、ゆんゆんとイリスはゴミ屑を見るような目でダストを見ていた。
「見損ないました…」
「全くですよ」
パーティーメンバーでパンツを回収した。私も自分のを手に取る。
「なんだか煮え切らない気持ちになったので、爆裂魔法撃ちに行きましょうか!自分でも抑えられなさそうです」
「ったく。最近は借りてきた猫みたいに忙しくて撃てなかったしな。久々に行くか!」
こうして私とカズマは爆裂スポットへと向かう。
林に着くと、私はカズマの前に布切れを持った手をさしだして、持っててくださいと小声で言った。
「我が名はめぐみん!清く正しく真っ当に盗みを働く、時に悪を成敗する者!黒より黒く闇より暗き漆黒に我が深紅の混淆を望みたもう。覚醒のとき来たれり。無謬の境界に落ちし理。無行の歪みとなりて現出せよ!踊れ、踊れ、踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰塵に帰し、深淵より来たれ!これが世界最強の威力の攻撃手段、これこそが究極の攻撃魔法、エクスプロージョン!」
林の奥にある岩山に放つ。すっきりした。
カズマにドレインタッチして貰った後、パンツを返して貰った。
「カズマの手はいつもより温かいですね」
「なんか俺、色んなもの背負ってる気がするなー。めぐみんおぶってた時、めぐみんの体重の比じゃないものを背負っちまったなーって、考えてた」
「例えばなんですか?」
「…人生、とか?」
「だ、誰が上手いこと言えと言いました!?」
この人はどうしてたまにこういうことを言うんだろう。私はカズマに顔がみられないようにそっぽを向きながら歩いた。
次に魔道具店へと足を運んだ。
カラーン。
「あ、いらっしゃいませ」
「フハハハハ!告白されたもののあれから進展がなくて夜な夜なモヤモヤしている少年と、少年のシャツの匂いをくんくんしたことのある頭のおかしい娘よ、今日は聞きたいことがあってきたとみる」
ゼーレシルト伯爵とバニルが出迎えてくれた。
私は赤面して目を泳がして俯いてしまう。
「おま、そんなことしてたのか?」
「おやおや?この娘から羞恥の甘美な感情があるぞ。ひょっとして、日頃の私への気遣いにでもきてくれたのでしょうか?」
カズマはペンギン伯爵を宥めると、バニルに質問した。
「バニル、一応聞くがダストに話しかけたおじさんって、誰かと関わりがあるのか?」
「それはもちろんあるぞ。以前お主が倒したスカルドラゴンのお兄さんの知り合いだったようだ。弟と直接関わりはなかったようである」
「代々受け継がれていたんだな」
となるとあの変態おじいさんはリッチーである可能性もあるが、深く追求しないことにした。
「ちなみにあのお主の悪友には強力な魔法がかけられていたようだな」
「だから窓でもアンロックの魔法が使えたんですね」
気を取り繕うと、
「そういえばなんでダクネスの部屋に侵入したんでしょう?カズマはなんで次はダクネスの部屋だって分かったのですか?」
と疑問に思ったことを言ってみる。
「何でかってーと、だな。エロティックな下着を持ってると思ったからかな」
「ーーー!!この男!どーせ私はダクネスのような周りの女性の方には敵いませんよ。ちっちゃいし、細いし、なんというか貧しいですし!」
「おい、そこまで卑下しなくても…。てか、似合うと思ってんだ。どんだけ自意識過剰なんだよ」
拳を振り上げようと構えた。
「をおおおおおいちょっと待ってくれ!違うんだ!俺はめぐみんのパンツだから好きなんだ!すす好きな子なら頭の先の髪の毛から足の指先まで大好きだくんくんだってするぜ!」
「っカ、カズマ…!?!?」
「ちょっとお!お店の中で何を主張しているのよぉーーー!!」
カラカラと扉の音を立てて入ってきたゆんゆんはどこからだしてきたのかハリセンでカズマの頭を思いっきり叩いた。
全くこの男は何てことを言うんだ。“めぐみんのパンツ”のところだけ訂正してほしい。
「我々が置いてきぼりであるがゼーレシルト伯爵が喜んでるなら良しとするか」
バニルはそう言うとウィズでも呼びに行ったのか、店の奥へと消えていった。
「ああ…なんと素晴らしい甘美な感情!美味であります…!」
怒った私はカズマを置いてきぼりにして立ち去ろうとするとペンギン伯爵に呼び止められる。
「めぐみん殿!このような美味しい感情をありがとうございます!大変美味しゅうございました!」
「日頃アクアのおもちゃになられている感謝のちょっとした気持ちですよ」
そう言うと、お店を出て行きセシリーお姉さんのところへ向かった。
「めぐみん、カズマさんはー!?」
しかし、また覚えておかなければならない言葉が増えましたね。最初にやる気を出させた時の“俺のめぐみんのパンツ”って…カズマらしいですが、好きな言葉として受け取っておきましょう。
教会に向かう途中、誰にも見られないようにと思いながら頬を綻ばせた。
後日、洗濯したローブのポッケからあの日盗まれたカズマに買ってもらったパンツが出てきた。わ、忘れてた。
この欲深い論理の旋律に真実を! 灼凪 @hitujiusagi
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