第四話 『罪には罰を』
地下室には二人の他にもう一人居るのだが、この二人で十分に情報を引き出せるだろう。別に、拷問が好きだという訳じゃない。
ただこのくらいやっておかないと、殺された連中が死にきれないだろう。善人を気取るつもりはないが、今も嬲られているだろう女子供の分も……。
「結構な大人数だが、食料はどうしてる?」
「適当な場所から奪って来るか、リーダーが物品を売った金で買ってくるんだ」
ジケットを見てみるが、首を縦に振るばかり。
「お前らは、なんで捕まってるんだ?」
「切れてたのさ、後ろ盾からの支援がよ。……出てく前に綺麗な女を一人、頂こうと思って来たところ……ドスンだ」
――ッ。
「お前らの後ろ盾は、何処だ?」
「ラプーンなんとかっつったか? リーダーが多額の寄付をしてたらしいんだが、村を襲った段階で切られてたみてぇだ」
ジケットを見るが、首を縦にも横にも振っていない。俺はナイフを取り出し、反対の足にも突き刺してやる。
「ム゛――――ッッ!! ムぐッ! ム゛――ッ!!」
「おいっ! ふざけんなよ!? 全部正直に話してるじゃねぇか!! ジケット! ジケットォ!!」
俺は煙草を吐き捨て、足で踏み消した。恐らくこいつらの後ろ盾をしていたのは、盗賊ギルド支部『ラプーンクロス』の連中だ。
金の為なら汚い事もやる連中だが、エボニーナイトが契約している村に手を出したという事で、切ったのだろう。……運の悪い連中だ。
俺が溜め息を吐いたのを見て勘違いさせてしまったのか、ダルメスがシエンを蹴りつけた。
「げぶぅっ! ……このアマ……下手にでてりゃいい気になりやがって……。ここで俺らを殺しても、テメェはボロ雑巾みたいに使われて死ぬんだよ。でっけー乳をぐちゃぐちゃにされてなッ! はっ! いい気味だぜ!!」
……この状況でこの強気な態度。もしかしたら、余程強い用心棒が居るのかもしれない。
ラプーンクロスからの護衛が出ていて、そいつの契約がまだ残っているのだとしたら……どいつが来る?
残ってる可能性がある奴から考えるに、ヤバイのは……『指狩り』、『無欲』、『影星』。この辺りだろうか。
――仕方が無い。
俺はジケットの右耳を掴み、ナイフで剥ぎ取った。それをシエンの方に投げてやる。
「ム゛――――ッッ!! ム゛ゥ――――ッッ!?!?」
「クソッ! クソッ! クソッタレ!! 殺す、絶対にぶち殺してやる!! ジケット! 大丈夫だ、耳ならちゃんと、くっつけれるからな!!」
「……一応言っておくが、ダメルスは俺より怖いヤツだぞ」
ダルメスはシエンの傍に落ちているジケットの耳を拾うと――食べた。
「うん、おいしい!」
「あ? テメェ……食人鬼だったのか……! ゆるさねぇ……絶対に、ゆるさねェッ!」
「もう一つ食うか?」
「食べまーす」
「やめろ! やめてくれ!! やめろっつってンだろうがッッ!!」
俺は反対の耳も切り落とし、ダメルスに投げてやる。器用にそれをキャッチしたダルメスは、そのまま口へと運んでいく。
ダメルスは、人肉を好んで食う。盗賊ギルドが根回しをしていないから討伐対象にも、賞金首にもなっていないが……ダルメスは食人鬼だ。
幾つかある中の欠点で、これが二番目に酷い。とはいえ……人間シーフの中にも、殺した相手の一部を食う奴は居る。
仲間を襲わなければ問題は無いだろう。とは言え俺を食いにきたら……殺すか殺されるしかない。
「ム゛――――ッッ!! ……ム゛ッ……ム゛ッ…………」
「クソッ! 盗賊ギルドはもう絡んじゃいねぇ!! 俺達は村に火を放って、逃げやすいように騒ぎを起こしてこいと指示されただけだ!! ジケットは知らねェんだ! 俺が手伝えっつって連れてきただけだからな!!」
「足りんな。脱出計画はどうなってる? ……ダルメス、ジケット君の手から食べてやれ」
「待ってました! 完全に血抜きが終わるまで、お預けかと思ってましたよ!」
「合流は明日! 北西の村に居る連中が南西の村に移動して、早朝に出発する予定になってやがる!! ジゲットを食わないでくれ!! ジゲット! 意識を保て! おい! 聞こえてるんだろ!?」
「他に知ってることは?」
「もう全部話した! あとは俺達個人の好き嫌いだとかしか残ってねェよ!! ジケットを止血してくれ! はやくしないと、死んじまう!!」
俺は黙って、ダルメスに合図を送る。『楽にしてやれ』と。
「ん、了解」
ジケットの頭を持ったダルメスは、一息に頭部をねじ切った。ジケットは苦しむ余裕を感じる事なく、静かに床へと倒れていく。
「約束がちげえ! なんで……なんでだよ……なんで、こんなひでぇ事を……」
「ならお前は、犯した娘や奥さん。殺した老婆や男達から……『助けてください』『許して下さい』『やめてください』……そう言われて、その通りにしたのか?」
「……お前ら……最初から……」
俺はナイフをシエンの首筋に添え、耳元で囁いてやる。
「反省したのなら、あの世で詫びな」
ナイフを引き、首筋を掻き切った。
「ジケット……おれが……ばかだった……よ…………」
ゴロツキの二人は、完全に息を引き取った。残った一人は……村人のために残しておいてやろう。
恐らく今殺した二人よりも、酷い目に遭う筈だ。感じているであろう憎しみの量が、俺たちとは全然違う。
俺は二人の目を閉じさせ、ナイフを綺麗にしてから、懐にしまった。悪いがこれも……安全に仕事をするのに必要な事なんだ。
「ダルメス、時間が無いからここのやつは食うな」
「えっ、でも……」
「食うなら、これから行くとこの奴を食え。対して苦しみもせず、お楽しみを満喫してる奴等だからな。さぞや美味いに決まってる」
「うーっ……」
ジケットの耳が、そんなに美味かったのか……かなり後ろ髪を引かれているようだ。肉の味が美味くとも、本人は嬉しくないだろう……。
ダルメスは確かに腕のいいパートナーだが、こいつが食いたいというのなら、俺に止める権利は無い。こいつはある意味、これを楽しみにして盗賊ギルドで働いている節がある。
手配され討伐対象にされない為には、この世界で仕事をするのが一番だ。野盗を食ったところを一般人に見られても、ギルドの後ろ盾があれば手配される事はない。
暗殺対象の令嬢を食ったとしても、それは同様に。この仕事をしていれば、こいつは綺麗な人肉を腹いっぱい食える。
俺は……俺の身内に手を出されなければ、ダルメスを嫌いになる事はないだろう。他人は、所詮他人。
最低な考え方なのだろうが、それが俺という悪人だ。……最も身内は……エボニーさん以外、誰も残っちゃいないけどな。
「勝手にしろ、俺は仕事をして帰るだけだ。じゃあなダルメス、お前は良いパートナーだったよ」
「えあっ!!? えちょっ!? まって! 行くからっ!! ちゃんと付いていくから、置いていかないでってば!! センパイ! ゼルセンパーイ!!」
そんなやり取りをしながら、俺たちは地下室を後にした。……ここで付いてきてくれる辺り、やはり嫌いにはなれない。
集会場にまでやってくると、村長が一人、椅子に座って待っていた。
「終わったぞ。一人は残してある、恨みが爆発しそうな村人たちで世話をしてやれ」
「……ご配慮、感謝します」
「明日の朝飯時には戻ってくる予定だ、適当な食事を用意しておいてくれ。……ああ、ワインは無くていいぞ。トマトケチャップもな」
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