第三話 『地下室』
正面にはダルメスを向かわせ、俺は森の中へと移動する。万が一繋がりがあったのだとしたら、エボニーさんが向かわせる訳がない。
あったとしても、俺たちを向かわせた時点で切れているのだろう。盗賊ギルドは、無法に村々を襲う行為を良しとしていない。
万が一それを行えば、結局のところ制裁対象になる。
「おぉぉぉ!! えらい可愛い用心棒ちゃんが出てきたな!! おまけに乳がでけぇ!!」
「じょー!! えろいじょー! 可愛いじょー! 全部の穴を犯したいじょー!!」
「へへっ、そのでっけー乳でご奉仕してくれよ!」
「油断はしない方がいいんじゃあないか? あの角、鬼人族だ」
様子を見るに、一人は何か薬物をキめている可能性が高い。最初のターゲットは決まりだ。二番目は最後に話したやつでいいだろう。
ゴロツキたちは息を荒くして、ダルメスに下品な言葉を投げかけている。一人だけ周囲を警戒しているが、あれだけ煩くしていては索敵どころじゃないだろう。
月明かりは蔭になっていない位置を薄く照らしいてる程度で、森中に潜んでいる俺に気づける要素が無い。……っと、ダルメスがウインクを飛ばしてきた。
――馬鹿野郎!!
もう少しチャンスを窺いたかったが、そうも言っていられない。相手が同じクラスの盗賊だったら、位置が一発でばれてしまう。
あからさま過ぎてフェイクだと思われる可能性も低くはないが、それは希望的観測だ。森から飛び出し、ゴロツキたちの背後を取った俺は――ゴロツキの頭部目がけてロングソードを振り抜く。
パァーンと弾け飛んだ、薬漬けゴロツキの頭部。
「な!?」
「へいへいお兄さん、アタシもいるよ――【薙ぎ払い!】」
瞬く間に距離を詰め、クレイモアで二人を薙ぎ払ったダメルス。それはダルメスの腕力が成せる破壊力か、二名の胴体を刈り取った。
「ダルメスてめッ! わざとやったな!!」
「センパイなら大丈夫かなーってさー」
「――ッ!? クソッ!!」
踵を返して逃げて行こうとするゴロツキの一人。俺はその背中目がけて三本のナイフを投擲。
「ガ――ッ!?」
二本はその背中へと突き刺さり、一本は男の後頭部を貫いた。ゴロツキの一人は意図が切れた人形のように前方へと転がっていく。
「やー、相変わらずすごいテクですねー。あでも、殺しちゃいました?」
「お前が言うな、この馬鹿力め」
俺はダルメスの側頭部を軽く小突き、顔を顰めた。
「次に無断で俺を囮にしたら殴る」
「ゼルセンパイ、もう殴ってますよー」
ダルメスはわざとらしく小突かれた場所を押さえて、撫でている。
……そんなやり取りをしていると、ゴロツキたち惨状を見ながら、村長がゆっくりと近づいてきた。
「すごいですね……想像以上でしたよ……。上手い事引き分けにでもなってくれればと思っていたのですが、これほど腕がいいとは……」
村長は青い顔でそう言うと、手に持った松明を差し出してきた。俺とダルメスはそれを見て、血を払ってから武器をしまう。
「ダルメス、持っててくれ」
「あいあーい」
ダルメスが持っている松明の明かりを頼りに、ゴロツキたちの死体を漁っていく。……が、全員の所持金を合わせても、200カタンにもならない。
――が、封の開いた煙草を、三箱も見つけた。一つ箱は妙に変わったデザインの箱をして、匂いもかなり妙な煙草だ。
頭がゴキゲンな感じになっていた男の所有物なので、念のために他の煙草とは別にして、懐にいれておく。襲撃者の得物は放置していき、ナイフを三つ回収しておいた。
「火をくれ」
「ほいー」
煙草を口に咥えると、ダルメスが松明を近づけてきてくれた。俺は煙草をゆっくりと吸いながら、口を開く。
「村長、二つ三つ聞きたい事が出来た。応えてくれるか?」
「勿論。なんでも聞いてください」
「それじゃあ一つ目。こいつらの後ろ盾はどうなってる? あんたらの元々の戦力がどれくらいなのかは判らんが、こんな連中程度なら守り切れた筈だ。それを自由に暴れさせてたって事は……」
「それは誤解です。この村以外の二つの村には戦力が少なく、どうしても守りきる事が出来ませんでした。村から逃げ延びてきた者に話を聞いたところ、桁違いに強いやつが一人居たと聞いています」
「……そうか。それじゃあ二つ目、捉えたゴロツキは何処だ? 背後関係含めて、そいつらから色々と聞きたい」
「村の集会場に地下室があります。多少痛めつけてしまいましたが……まだ元気な筈……」
「殺してないだけ上出来だ。場合によってはそいつらを殺すが、いいか?」
「はい」
「そうか……ふぅー……最後の一つだが、死体の処理はこっちでやっておいた方がいいか? 獣連中に、人間の味を覚えさせるのは良くない」
「そうですね……終わってから位置だけ教えて貰えれば、こちらでやっておきます」
「了解だ」
短くなった煙草を地面に落とし、足で踏み消す。
「それじゃあそろそろ、捕まえた二人の場所に案内させて頂きますね」
そう言って歩き出した村長の後に続いて歩いていくと、集会場の地下へと続く梯子にまで案内された。それ梯子を降りていくと、なんらかの樹脂でコーティングされてた、床に設置されている扉が開かれる。
その下から出てきたのは、更に下へと続く階段。ぱっと見ただけでも、この地下室には防音処理が施されている事が判る。
「この下です。床扉を閉めれば、いくら騒いでも外には聞こえてこない」
「……普通の村じゃ考えられん地下室だな。まぁ、こちらとしても有難い」
「いえ、エボニーさんが以前来た時にですね、少し高い買い物として作っていったものです。まさかこうして使う機会がやってくるとは、思ってもいませんでしたけどね」
「随分とボられたみたいだな……」
「ええ、それはもうどっさりと持っていかれました。まぁ……今回の時のように対処してくれるのなら、安いものです」
「あんた、長生きするぞ」
「あと三十年は生きるつもりですよ」
「くくっ、その時まで俺が生きてたら、この村で隠居生活するのも悪くなさそうだ」
そう言葉を残し、俺は階段を降りていく。下にまで降りてきて辺りを確認してみると、予想以上な広さがあった。七×七キュビットの正四角形の部屋。
普段は倉庫として使われているのだろう。保存食を始めとした、普段使わないようなものが収められている。
祭りの小道具らしき木製の狼や、予備の狩猟道具も置かれていた。非常事態にはかなり役立ちそうな物が結構置かれている。
魔石灯を適当なテーブルの上に置いて後ろを見てみると、ダルメスが出入り口の扉を閉めていた。魔石灯一つしか光源は無いが、今回はそれだけあれば十分だろう。
地下室には男三人が簀巻きにされて転がされており、うめくような声を上げ、もぞもぞと動いている。俺達が入ってきたのを察知したのだろう。
全員が負傷しており、目隠しと猿轡がされている。これをあの村長がやったのだとすれば、盗賊ギルドでもやっていけるだろう手際の良さだ。
「むぐむぐ!」
「むぐ!?」
「煩いですねぇ。一人減らしちゃいますか?」
「……ダルメス、俺はその言葉が、一番嫌いだ」
「あっ! ……すみません……」
「いや、いい。やる側に立ってみれば、実際その通りなんだからな」
三人の簀巻きから適当に一人を選び、目隠しを外してやる。キョロキョロと辺りを見渡した男は、ダルメスのところで視線が止まった。
俺は懐から取り出したナイフで猿轡の紐ごと、頬を少し切りつけた。
「――ッ! ……いってぇ。……お前ら、村人じゃないな?」
「そういうお前らは?」
「ちっ……てめぇら、この黒蛇団をしらねぇのかよ。俺達ァ、泣く子も犯す『ブラッ――」
喋っている男の顔面を――蹴りあげる。
「がっ!! ……なにしやがんだ、てめぇッ!!」
俺は煙草に火を点け、一度煙を吐き出してから、再度問い掛ける。
「で、お前らは?」
「くそっ。俺らも酷いが、お前ら頭どうかしてんじゃ――」
――再度、男の顔面を蹴りあげる。運悪く前歯が折れたのか、白い欠片が地面に転がった。
「――ぐぁッ! ……くそっ、わけわからねぇ。……てめぇらは――」
喋っている男の腹部を、ダルメスが殴りつける。
「ぐぶっ! ……話を聞く気が……ねぇのか……?」
「つまらん時間稼ぎは要らん。俺達が知りたい事だけを話せ」
「だからっ! 何が知りたいっていうんだよ!!」
「ふぅー……いいか? おまえが死なずに済む方法は、たった一つしか用意されてない。俺達が知りたいことを、一つ残らず。しかも、嘘を混ぜないで話す。それだけだ」
「クソッタレ! その聞きたいことが何だって、俺は聞いてんだよ!!」
喋っている男の顔面を、再度蹴り上げる。
「駄目だ……ジケット、こいつら……言葉がつうじねぇ」
「ジケット? そっちの間抜けは、ジケットって言うのか?」
「ああそうだよ、自慢の弟さ。俺に付き合ってこの道に入ってなきゃ、有名な冒険者になってたかもしれねぇぜ。こんな場所で無様を晒していい器じゃねぇ」
「そうか。で、おまえは?」
「シエンだ。何でも答えるからよ、弟だけは助けてやってくれ……頼む、こいつは特別な男なんだ」
「むぐ!? むぐーっ! むぐむぐ! む゛ーっ!」
「お前は話さなくていい」
俺はジケットという男の足にナイフを突き刺し、足で踏みつける。
「ム゛――――ッッ!!」
「やめろ! やめてくれ!! お願いします!!」
俺がその声を聞いて足を離すと、ダルメスが無言でシエンを蹴り飛ばした。結構な力を込めたのか、壁際まで移動している。
「ぐぶっ! ゲホッ! ゴホッ!! ジケット……生きてるか?」
「随分と、愉快な勘違いをしているらしいな。お前たちは今、お願いをできる立場に立ってない。弟を生かしたいなら、お前は余計な事は話さずに、俺の質問に答え続けろ。弟は俺の質問に、首を振る事で答え続けるんだ」
「答えが違ったら、わかりますよねー?」
シエンは一つ頷き、ゆっくりと口を開く。
「……何でも聞いてくれ」
「それじゃあまずは、お前ら全体の人数。それと、他の奴が今何処にいるのかを言え」
「残ってる人数は二十……五か? いや、七か……? 今拠点にしてる場所は、南西の村と、北西の村だ。それぞれ半分に分かれて、女子供を楽しんでる筈だ……」
ジケットの方を見てみると、必死に首を縦に振っている。経験からくる感想は……嘘は言っていないという事だ。
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