第二話 『月の影』
馬で移動する事しばらく……。
「この森か」
「ここからは私が先頭歩きます? セイパイじゃ暗視が無いですよね」
「いや、狩人の集落に辿り着くまでは魔石灯を使う。馬はその辺の木にでも繋いでいこう」
「りょーかーい」
「ダルメスは後ろを警戒してくれ。……俺もその目が欲しいよ」
「うえっへっへっ、アタシはゼルセンパイの目んたまが欲しいですよー」
「お前の欲しいと俺の欲しいは違うけどな……」
馬から降りた俺とダルメスは馬を茂みに隠して木に繋ぎ、周囲を警戒しながら道を進んでいく。周囲の気配を探ってみるが、特に変化は見られない。
いつもどおりの月明かり、風にざわめく木々の葉の音。時々聞こえてくる鳥の泣き声などは、平和そのものだと言えるだろう。
「センパイ? なんかあったんですか?」
「いや、なんでもない。先を急ごう」
感覚的に今ある道は南へと向かって伸びている。予定ではここから三十分ほど進めば狩人たちのメイン集落が見えてくという話だ。
そこからすこし回り道をして、集落へは東側の入り口から訪問しろと聞いている。
南へと向かって二十分程歩いていると……直進する道の他に西へと伸びる道を発見した。地図には脇道が書いてない為、何処に辿り着くのかは判らない。
場合によっては襲撃を受けた村に向かって伸びている可能性だってある。
「どうしますー?」
「道なりに進むぞ。まずは集落で現状確認だ」
「りょーかい」
そこから南へ十分移動したくらいだろうか、高台になっているその場所から、集落の明かりが見えている。パッと見た限り、集落は今のところ問題無さそうだ。
高台から回り込むように移動する事二十分……右手側に集落へと伸びる一本道が見えてきた。俺とダルメスは魔石灯を少し高い位置に掲げ、誤射を受けないように集落の方へと進んでく。
何事もなく狩人の集落へと辿り着いた。時間も思っていたよりは掛かっていない。
「止まれ! そこを動けば、頭が消し飛ぶと思え!!」
村の中へと入ろうとしたその時、少し離れた位置からそんな言葉が飛んできた。かなりピリピリしているのか、その言葉には確かな殺意が込められている。
動けば本当に撃ってくるだろう。これは警告だ。
「待て待て! 俺はエボニーナイトからやってきたゼルだ!! 森で何があったか、詳しく話を聞きたい!!」
「…………」
「センパイ、あの村人、手で何かに合図送ってる」
「ああ、何人か隠れてるぞ」
ややあって、武器を持った村人達が姿を現した。弓を持っている者が四人、剣を持っている者が二人。
「一応、証拠を見せてくれねぇか?」
出て来た村人たちは距離を詰めてきたが、そこには先程までのピリピリとした空気は存在していない。ここの集落の狩人は、一般人にして考えると相当な手練れだ。
「これで良いか?」
「確かに」
エボニーナイトのエンブレムを渡してやると、何人かがそれを見た後に返却された。村人たちの顔には柔らかい笑みが浮かんでいる。
「詳しい話は村長がしてくれる。警告を飛ばしたヤツが既に向かってるはずだから、このまま行ってくれて大丈夫だ」
「あいよ」
俺とダルメスは魔石灯の明かりを消し、バックパックの横にひっさげてから、指差された建物を目指す。ダルメスのバックパックが俺のより二回りくらいでかいのは、ご愛嬌。
建物の中に入った俺たちは村人に茶を出され、五分ほど待たされる事になった。建物の様子としては、村人たちの集会場というところだろうか? 室内にはいくつかの魔石灯が存在しており、十分に明るい。
巨大なテーブルを囲うように、簡素な椅子が並べられているのが特徴だ。村の中はかなり物静かな空気を纏っている。
これが襲撃による影響なのか、狩人の集落だからなのかは判らない。俺は適当な椅子に腰かけ、懐から煙草を取り出し、口に咥えた。
「吸っても良いか?」
「どうぞ」
「あんがとよ」
懐からジッポライターを取り出した俺は、それに火をつける。魔石を使わずに火を点けられる便利なものなのだが、着火の魔道具が五個は買えてしまうくらいに高い。
適当に煙草を楽しんでいると……外から誰かが入ってきた。華奢な男だ。
「お待たせしてしまい申し訳ない。私が村長のフレッシュだ、よろしく」
「エボニーナイトからやってきたゼル」
「同じく、ダルメスです」
エンブレムを見せてやると、フレッシュは堅い表情で頷いた。
「エボニーさん、予想外に行動が速いですね。こっちは詐欺に遭ったくらいの気持ちで獲物を収めていたのですが……冒険者ギルドに依頼を出すより三日は早い」
「あぁ、俺もここに来るまでは詐欺だと思ってたよ。あんたらがエボニーナイトに収めてた獲物をエボニーさんが気に入ってるらしくってな、それで手の空いてる俺達が遣わされたという訳だ」
「なるほど、欠かさずに獲物を収めていた甲斐がありました。……本来であれば、お二人の手伝いとして狩人を数人付けたいと思っていたのですが……」
「問題か?」
「すまないね、少しばかり面倒事があっ――」
「――村長!! 奴らの仲間が来ました!!」
扉を勢い良く開けて入ってきたのは、入り口に立っていた狩人の一人。
「はあぁ……やっぱり来たか。予定通り、歓迎してやりなさい」
「それは、ワインを添えないほうで?」
「勿論。添えてやるとしたら、トマトケチャップだけにしない」
「了解!」
そう言葉を残して出て行った狩人。
「はてさて、お二人はここで待っていてくれますかね? なに、そう長くは待たせませんよ」
「馬鹿言うな、俺達が何のためにここまで来たと思ってる。少なくとも今回は、獲物の催促じゃあないんだぞ」
「ほぅ……」
「んーーーよしっ! ちゃっちゃと終わらせて、お酒タイムといきましょっ!」
ダルメスは背中から厚身のクレイモアを抜き放ち、やる気満々といった感じだ。俺も腰からロングソードを抜き、薄い笑みを浮かべてやる。
「それじゃあ、頼りにさせてもらいますよ先生がた!」
「おい馬鹿。その台詞を吐いた奴を、俺は先生ごとなで斬りにした事があるぞ!」
「頼りにしてますよ、センパーイ」
「いや……正面からの戦闘は、お前の十八番だろうが……」
そんな悪態を吐きながら荷物を置いて建物から出て行き、村の正面にまでやってくると……弓が届かないギリギリで、喧しく喚き垂らしている四人組を見つけた。
「オイゴラァ! 仲間を捕まえてンのは判ってンだよ!! さっさと返さねェと、全員ブチ犯して奴隷にしちまうぞ!!」
「顔にもいれる穴は七か所あるんだじょー! みんな仲良く、穴だらけにしてやるんだじょー!!」
意気揚々と、近場にある木の柵を蹴り倒しているゴロツキたち。あの人数で狩人たちに敵うとは思えないのだが……何故……?
見た所、そんな手練れにも見えない。狩人たちが十人で囲えば、一人負傷するかどうかくらいだろう。
単純で簡単な仕事だと思っていたが、少し臭くなってきた。ちょっとした後ろ盾がいる可能性も高いだろう。
実はもっと大規模な野盗団であるのか、余程のバカなのか。それとも……どこかの盗賊ギルド支部が絡んでいるのか……。
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