花に嵐に
安良巻祐介
嵐の後でよく晴れた日、往来にて花拾いに精を出していると、社を吹き壊された神様が一人、襤褸着すがたでやってきて、花をばひとつさあくれろと言った。
「いやだ、やるものか」
にべもなく断ると、顔を真っ赤にして地団駄を踏み、この罰当たりとうるさいので、艮の印を切りながら、ぶちまけてやった。
「何が罰当たりだ。おれも家を嵐にやられたのだ。お題目のわりに毎日毎日お供えを食らうばかりでご利益の一つも見せてくれなんだお前のようなものが、この期に及んで何を言うか。おれにはもう何もない。罰でも何でも当ててみろ。何もないからこうして花を拾うているのだ。物乞いをする前に自分で花でも拾ったらどうだ。」
一息に言ってしまうと、神様は目を白黒させながらもごもごと、言い訳のようなものを口にしていたが、やがてため息をついて、俺と並んで花を拾い始めた。
神様の着ている襤褸と、俺の着ている破れジャージとが、立派な清貧の御印に見えなくもない。
「なあ」
「なんだ、神様」
「この花あ…」
「皆まで言うな、黙って拾え」
殊勝な顔で頷きあい、神様と俺とは手を動かした。
椿の花は人の首。この花は椿ではないけれど、嵐に吹き散らかされた人たちのいなくなった後に散らばっていたのである。
「綺麗だなあ」
「綺麗なだけだがな」
これらの花を拾ったところで、それが何かになるわけではない。腹が満たされるわけでも、弔いになるわけでもない。そんなことはわかっていた。
けれど、今の俺たちにできることは、それだけだった。
「とりあえず、百、拾うたら、昼飯にしようか」
「そうしようか」
言葉を交わし、息を吐いた。
そう、それだけだった。
ただ一心に、黙々と、花を拾い続けることだけであったのだ。…
花に嵐に 安良巻祐介 @aramaki88
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