第11校
次の目的地は、電車で一時間半ほど先にある小田原であった。大谷先輩曰く、せっかく乗り放題切符を買ったのだから範囲内の一番遠い所まで行きたいじゃない、だそうだ。
小田原の駅に着くと駅の近くの海鮮屋で海鮮丼を食べ、小田原城や二宮神社を訪れた。丼は美味しかったし、城は展望も良く、大大満足ではあったが、どうにも昼飯辺りから柏座の目線が気になっていた。なんというか監視をされている、そんな感じだ。
ただそれよりも、今の俺は、横浜での一件以来ずっとアキの一挙一動に意識が向いている。そして、たまに目が合うと気まずくそむけてしまう。
男、小敷谷智也としてみては潔く告白をしたい所だが、どうにもタイミングを掴めない。しかも、そうこうしているうちに、今日訪れる場所も残り一箇所である。ここで告白しなければ、このままの関係で先には進まない。そう思うと焦りを感じてしまう。ただ、それと同時に別に今のままでも良いじゃないか、そういう気持ちも少なからずあり、その間を右往左往している状態だった。
『吾妻山公園』
ここが今日訪れる最後の場所であった。東海道本線二宮駅から程近いこの公園は、山というよりかは小高い丘という様相である。先導する先輩二人に続き、涼、平方、アキ、俺、柏座の順に頂上を目指す。
俺はアキと同じペースで登っていたものの、気まずさからなかなか話すことが出来なかった。そして登るペースを落として柏座の方へと逃げた。
「はあ? なんでこっちに来るんですか」
柏座が俺に追いつくとそう話しかけてきた。
「ああ……まあね。ちょっと気分転換かな……」
すると柏座は大きなため息をついた。
「はあ、なんですか。気まずいからこっちに来たとか言うんですか?」
「まあそんな所……てか今日、俺らのことずっと監視している?」
「あ、話題そらしましたね、このどヘタレ。まあ、いいです。監視という言葉は良くありません、あくまでもお二人のことを遠くから見守っていただけです」
「認めたな」
「別に隠していませんから」
柏座はそう言って開き直った。てか、絶対隠れて見ていただろ……。
「……って、もしかして向山と平方が一緒にいるのはお前の差し金か?」
どうもいきなり距離が近くなりすぎだと思ったが、柏座の仕業だと思えば納得がいく。ていうかめっちゃ目が泳いでいるし……。
「ま、まあ、いいじゃないですかそんなこと。それよりも今泉さんとの仲は進んだんですか?」
「あ、話題をそらしたな」
「違います。話を戻しただけです」
「ホントかよ」
「そうです。というかいいんですか、今泉さんの方に行かなくて」
やっぱりそちらに話を戻される。
「ああ、やっぱり気まずくてね」
「それは……あの見つめ合った時のですか?」
「そうだよ」
すると柏座は少し怒ったような顔をする。
「……ホント貴方っていう人はヘタレですね。なんで、あの雰囲気から告白を躊躇うんですか?」
「んー、やっぱり俺はこの幼なじみの関係が居心地良いのかもしれない。そう思っちゃうんだよ……」
「……そうですか……まあ、それならしょうがないですね。私も無理強いしたいわけではないのでこれ以上言いません」
わりとあっさりと引き下がったことに驚いた。
「驚いた、もっと強引に俺たちをくっつけさせるのだと思ってた」
「……なんですか、私が仲立ちして付き合おうと思ってたんですか?」
その言葉を訊いて妙に納得してしまった。もしかしたら今、柏座に話しかけたことも結局はそういう期待があったからかもしれないと。
「ああ、そうか俺は結局は柏座に手助けして貰おうとしていたのか……なら俺に告白する権利なんてそもそもなかったのかな……」
自分でも驚くほどセンチメンタルになっていた。そしてそんな俺を見て、今度はなぜか柏座は笑っていた。
「なんで笑ってるのさ?」
俺が訊く。すると柏座はこう答えた。
「やっと自分のことをヘタレだと認識してくれたからです」
「はあ……」
「まあとにかく、ヘタレだとわかったからにはきっと大丈夫なはずです。なにせ貴方はそれさえ無ければ、告白は上手くいくはずなんですから」
そんなに簡単なものかと疑問には思うが、背に腹は変えられない。
それに柏座は改めて笑うと、ほら早く行ってください、と俺の背中を押してくれた。特に物理的に。
それはとても有り難かったし、勇気をもらった。
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