第7校

 平方が部室に来てからしばらくして、掃除で遅れたという三人目の新入部員——柏座陽菜が来て、続けさまに部長もやって来た。

 ちなみに、柏座は黒髪に赤縁のメガネを掛けており、平方とは真逆の落ちた印象を受ける。そして、そこに俺はどこかホッとする気持ちになる。きっとそれは、自分と似ているように感じたからかもしれない。

 さて、部長が部室に入ると彼はこう話を切り出した。


「お、もう全員揃ってたのか。遅れてごめんごめん」

「大丈夫よ。別にそこまで待ってないから」

「ああ、そうなら良かった」

「でも、一応訊くけど何で遅くなったの?」


 大谷先輩がそう尋ねると、部長はこう話す。


「ああ、それは顧問と職員室で、今度の印刷所との打ち合わせの日程を確認していたから……あ、それはそうと新入部員の君たちに訊きたいことがあるんだ」


 何やら少々深刻そうな目で自分ら一年生の方を見る。


「ええと、なんでしょうか?」

「そうそう、えっとね、職員室にさっき行っときに文芸部の丸山——というか文芸部部長とその顧問が話してたんだけどさ、今年の文芸部、二人だけしかいなくて、このままだと廃部になるらしいんだ」

「はあ、それは大変ですね」


 部長は、この後に続ける言葉は何となく想像できる。


「それでお願いなんだ。誰か文芸部に入れる人を一人探してくれると助かる。少なくとも部員が三人いれば廃部は免れるんだ」


 やはり、予想通りだった。ただ、部長の緊迫した様子に思わず俺は、分かりましたと言いそうになってしまった。 

 だが、柏座が小さく縮こまりながら恐る恐るこう訊いた。


「すみません。少し質問させてもらってもいいですか?」

「ん? 全然構わないけど……どうしたの?」

「あのう、どうして文芸部の存続のために私たちが動かないといけないんですか? それが新聞部にメリットがあるんですか」


 その問いを訊いて俺はハッとした。確かに、いくら同じ部室を共有する文芸部の事だとしても、部員集めに奔走する必要性はないように感じる。むしろ、新聞部にとってはその分の空間が空くという、メリットがあるのではないかと。

 でも、部長の話はこうだった。


「チッチッ、違うんだよそれが。実は今まで幾度となく、文芸部の廃止&新聞部への合併を提案されてきたんだ。どうせ同じ部室なんだし、大差無いだろとね。でも、代々それを先輩方は回避してきた。それは何故だと思う? 柏座さん」

「えっ、えっとー、お互いに反りが合わなかったとかですか?」

「それは違う。むしろ両部は本当に仲が良いからね。でも、何としてでも回避しなければいけない理由がある。それはずばりカネなんだよ」

「カネですか……」


 何とも生々しい理由だ。


「そう、カネなんだよ。ウチの学校は部員の人数分かまず支給される。そこにプラスして一部活あたりに支給される基本金と、年一回の特別予算が大きいからね」


「特別予算とは……?」

「特別予算は部活に必要なもの……例えばウチだったらカメラとかパソコンを生徒会の予算でいくらか買ってくれる制度のことだね。やっぱこればかしは部活が合併しちゃうとその分不利になっちゃうんだよ」

「……なるほど、そういうことでしたか……それなら確かに部員集めをした方が良いですね」

 

 今度は俺がそう答えた。

 理由はとても不純というか、生々しい現実問題ではあったが、これはこの先にとって、とても重要なことであるのに違いはない。だから新聞部の僕らは文芸部の部員集めに奔走することになった。

 

——と言っても俺には一人、思い当たる親友がいるので、とりあえず訊いてみることにした。

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