第6校
「そういえば、他の人たちはいつ来るんですかね」
俺はそう言って腕時計の針を見る。部室に俺が来てから数分しか経っていなかったが、大谷先輩と二人っきりという気まずさから軽くその二倍ぐらい長く感じる。
「そうね、まあもうちょっとしたら来るじゃないかな。クラスによっては先生の話が長いしね」
大谷先輩はそう言ってニッコリと笑う。
「そういえば大谷先輩はだいぶ早かったみたいですけど……」
「ああ、それはうちの担任が秒で帰りのホームルームを終わらせるからよ。そこが彼の唯一の美点だからね」
ホームルームの短さだけしか取り柄のない先生について、どう反応すれば分からず、また話が途絶える。そして俺は、何となく気まずさを感じる。
——いいから、誰か早く来てくれぇ
そう考えていると願いが通じたのだろうか、廊下からの足音が止まり、部室のドアが開いた。
「こんにちわぁー!」
中に入って来たのは何ともハイテンションな女子高生であった。少し小柄な彼女は髪に軽くウェーブがかかっており、色は染めたのだろうか、全体的に明るい茶髪で、見るからに俺とは一番無縁のイケイケ系女子であった。というか、この空間に一番無縁の人種に思えた。
——ん、何かの冷やかしか?
俺がそんな事を思っていると、彼女は俺の方を見て何やら口を開いた。
「えっえっ! 小敷谷君も新聞部に入るのぉ?」
「……ええっと、どちら様で?」
俺は彼女とは何の面識がなかった、と言うか、そもそもイケイケ系の方々とはまるで接点がないので、本当に誰だか分からない。
すると、彼女は非難めいた目でこちらを見た。
「えぇ? 知らないの? だってぇ同じクラスだよぉ」
「……同じクラスってことは一年四組の生徒?」
「どんなけ疑ってんのよぉ。そうに決まってるじゃない。私は、一年四組の平方夏帆。ちゃんとクラスメイトぐらい覚えといてよねぇ!」
「は、はぁ」
俺はそうやって、彼女——平方夏帆の勢いに圧倒されていると、その彼女は何やら他の事が気になったようで、大谷先輩に、
「そういえばぁ、仮入部の時からずっと気になっていたんですけど、ここのベニヤ板って何なんですかぁ?」
そう尋ねると、部室の真ん中にまるで仕切りのように立ててあるベニヤ板を指差した。
そこまで気にはなってはいなかった、というか目にも留めていなかったが、確かに言われてみると、ここにわざわざ置く理由がわからない。正直、空間を二分するだけで何もメリットが無い。
すると、大谷先輩は意外な事を話した。
「ああ、そういえば言っていなかったね、この部室、文芸部と共用で使っていて、私たちはそのうちの窓側半分なのよ。だからこのベニヤ板はそのための仕切りって訳ね」
「ええ! 文芸部が同じ部室なんですかぁ?」
平方がそう訊き返す。
「ええ、そうよ。だからここには本がいっぱい置いてあるのよ」
大谷先輩がそう答える。確かに言われてみれば、壁一面には本棚が置かれて、その一つ一つに文庫本などが詰め込まれている。
平方は何やら今の説明で納得しているようだったが、俺としては一つ腑に落ちない点があったので訊いてみることにした。
「あのぉ、一つ訊いてもいいですか?」
「ん? いいよ」
「仮入部の時、文芸部はここじゃなくて、図書室で活動してましたけど、それってどういう事ですか?」
すると、大谷先輩はこう答えた。
「それはあれよ、図書室が新校舎の方にあるから人を呼びやすいって事で、仮入部の期間だけは文芸部は向こうで活動しているのよ」
と。
「はあ、なるほど、そういう事だったんですか……」
これで、ある程度自分が腑に落ちる説明を得られた。
どうやら、文芸部はこの部室を新聞部と共有している事は事実であるらしい。俺はこの事についてひどく驚いたと同時に、放課後にアキと同じ空間に居られる事に嬉しさと、何が変わってしまうかもしれない不安さが襲ってきた。
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