第70話 一つの旅の終わり(終話)
重力制御システムの甲高い音が響く中、大気圏外縁部から出来る限り最高速で港に向かい、無事に着陸ポートに降着脚がつくと、エリーナがベルトを弾き飛ばすように外した。
「様子見てくる!!」
バタバタと操縦室を飛び出て行ったエリーナの足音に苦笑していると、スッと背後に気配が現れた。
「よう、ニャンコ先生!!」
背もたれごしに振り向くと、笑みを浮かべた女性が立っていた。
「要するに、あのアリシアって野郎とよろしくやってりゃいいんだろ。お見通しなんだよ!!」
「うむ、さすがだな」
俺は笑った。
「はいはい、あくまでも元首はお前だぞ。ったく……すぐどっかいっちまうからな。まあいい、ちゃんとやっとくから、小まめに帰ってこいよ!!」
女性は小さく笑い、操縦席から出ていった。
「サム、カーゴルームを閉じろ。エア・ロック閉鎖」
『あいよ、もうできてるよ。エリーナがボケてる間にいくぞ!!』
「うむ、それがいいな」
重力制御装置が作動し、危険な程の勢いで船が着陸ポートを離れた。
正面スクリーンが宇宙の星空に代わり、俺は小さく息を吐いた。
「エリーナの荒療治ってヤツか。まあ、まだ優しい方だろう。さて、まずはコンビニだ。腹が減った」
『お前、さっき食ったばかりだろ。ったく、ケチくせぇ事いうな。コンビニの方が牛丼屋より遠いんだよ!!』
俺は笑みを浮かべた。
「ケチ臭い事をいってるのはお前だぞ。いいからいけ」
『あっ、そういやそうだな……わかったよ!!』
高速航行モードに移行した操縦席で、空の隣の席を見て苦笑した。
そこには、エリーナが残していった携帯端末があり、画面に「振り込み決済済み」の表示があった。
「サム、これいつやったか知ってるだろ。俺の口座の残高は?」
『まあ、ぶっちゃけアルガディアっていう西側最大の軍事大国は、事実上もう崩壊して存在しないぜ。国中のありったけの金を、お前の口座にブチ込みやがったからな。あの国によっぽど恨みでもあったんじゃねぇの。ああ、エリーナからメッセージを預かってる。『今まで大変お世話になりました。迷惑料、船のチャーター料諸々全てこれでお許しください』だとよ。とんでもねぇ、王妃様だな。いきなり、自分の国をぶっ潰しやがったぜ!!』
「全く、とんでもないな。まあ、あの国の王妃という立場を考えれば、無理もないが。やれやれ、猫缶何個買えるかな」
『馬鹿野郎、猫缶に換算なんかできるか。いきなり大金持ちどころじゃねぇぞ。ケチくせぇ事いわねぇで牛丼にしろ!!』
「うるさい、俺はコンビニが好きだといっているだろう。ポイントも貯まるしな」
俺は笑った。
「さて、エランに戻るぞ。しばらくして馴染んだ頃に、また様子を見にいくとしよう」
『あいよ、これでもう帰らねぇとかいえねぇぞ。面倒だから嫌とか抜かして逃げ出すから、しなくていい面倒な経験したんだからな。ったく!!』
サムの声に俺は笑った。
「面倒はないだろう、貴重で尊い経験だ。サム、たまにはオートだ」
『あいよ、面倒くせぇからフルパワーでいくぞ。経路設定完了、何度もつかえねぇから、帰りは一般航路だ』
Gキャンセラ-が唸りを上げ、四発のエンジンが瞬間的に最大出力になった。
爆発的に加速した船は、まずは近くの転送ポイントを目指した。
『おい、やっぱ派手に金が動いたから目を付けられたぞ。エリーナらしく振込先はキッチリ偽装してあるから問題ねぇが、目立つ動きはしねぇ方がいいぜ!!』
「だろうな。まあ、金には困らないし、エランでゆっくりしようか」
俺は苦笑して、正面スクリーンを見つめたのだった。
(完)
猫の船長 NEO @NEO
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