第69話 すぐそこの国際親善

「ああ、エリーナ。腹も膨れた頃だろう?」

 ようやく落ち着いた様子を見せてきたエリーナに、俺は問いかけた。

「何とかね……はぁ、疲れたよ」

 エリーナは苦笑した。

「よし、ついでだ。これもまた、国際親善だ。ついでだから、付き合え」

「なに、またどっかいくの!?」

 俺は笑みを浮かべ、側に控えていたアリシアに目配せした。

 アリシアは微かに笑みを浮かべ、携帯端末を弄り始めた。

「よし、まずは船に戻ろうか。すぐそこに顔を出すだけだ」

「す、すぐそこって、どこよ!?」

 俺は小さく笑って、会場から廊下に向かった。

「ま、待ってよ、おいていくな!!」

 エリーナの声を聞き、俺は思わず笑った。


 俺はエリーナ連れて車で港に戻り、そのまま船に飛び込んだ。

「サム、コードGXDEEE-478。これで分かっただろ?」

 操縦席に座ってベルトを締め、俺は息を吐いた。

『はいはい、あいよ。これ疲れるんだぜ、目標座標はここでいいのか?』

「うむ、問題ない」

 俺はパネルの画面をチェックした。

「ちょっと、どこ行くの。明らかに、異常な表示だけど。どこの、宙域に飛ぶのよ!?」

 隣のエリーナが喚いた。

「まあ、みてろ。ここじゃ目立つからな。一回、大気圏外に出るぞ」

 俺は神経インターフェースに手を乗せ、思わず笑みを浮かべた。

 聞き慣れた重力制御システムの甲高い音共に、船は着陸ポートを離れた。

 程なく大気圏上縁部に達し、さらに安全ラインを通過すると、俺はメイン・エンジンを始動した。

「こ、こら、どこまでかっ飛ばす気だよ!?」

「うむ、速度は問題ではない。ただの勢いだ。サム、そろそろいいか?」

『ああ、問題ねぇ。いくぜ!!』

 船の中に金属質の音が響き、正面スクリーンがブラックアウトした。

 脳に直接響くような衝撃の後、金属質の音は止んだ。

「な、なに、今の……」

 頭でも痛いのか、エリーナが首を振った。

「まあ、こういう機能もあってな。お前はここで待ってろ。挨拶にいってくる」

 俺は小さく笑い、操縦席を下りた。


「……あのさ、あそこってどこなの?」

 最高速度に近い速度でエラン・ガルドに戻る船の中で、エリーナが聞いた。

「国際親善といっただろう。細かい事は、気にしない方がいい」

 俺は神経インターフェースに手を乗せたまま、小さく笑った。

「……分かった。君がいうなら聞かない方がいいね。ビックリしたよ、私も強い方なんだけど、あんな強力な魔力の持ち主がいるなんて。いつの間にか見失っちゃったけど、もっと話したかったな」

「うむ、代わりといっては失礼だが、どういうわけかこの船が気に入ってしまった連中や、お前と同じくらいの話友達を高速輸送中だろ。いかにも、貨物屋らしくな」

 俺は笑った。

「……うん、ビックリしたぞ。なんだ、この船!?」

「うむ、ただのボロ船だろう。どこからみてもな。よし、エラン・ガルドが見えてきたな」

 正面スクリーンに映る星を見て、俺は笑みを浮かべた。

「確かにこの操縦室じゃ全員入れないけど、カーゴ・ルームじゃ申し訳ないって。早く降りろ!!」

「なに、こういうの慣れてるんじゃないか。あるいは」

「えっ?」

 これの声に、エリーナが声を上げていた。

「なんでもない、あっちも似たような乗り物だしな。さて、サム。オート・モード。港への最短コースに軌道修正だ。急いだ方がいいのは確かだからな」

『分かってるよ。ったく、一際変わった貨物……っていったら、エリーナにぶっ殺されるな。まあ、とにかく急ぐぜ!!』

「ああ、そうしてくれ」

 俺は笑みを浮かべて、シートの背もたれに身を預けた。

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