第68話 宮殿にて

 再び進み始めた車のなかで、エリーナが一心不乱に携帯端末を操作していた。

「えっと……この情報を分析すると、怪しい地点は十二箇所かな。マークしておいた」

 携帯端末をいじっていたエリーナが、局長にそれを返した。

「うむ……なるほどな」

 局長は頷き、手元にあった無線で矢継ぎ早になにやら命令口調に交信を始めた。

「お、おい、何が始まるんだよ……」

「うん、ちょっとした掃除だ。問題ない」

 俺は笑みを浮かべた。

「掃除って……」

「うむ、いつもの事だ。なにも、問題ない。楽しい星だろ?」

 俺は小さく笑った。

「ぶ、物騒な……」

 エリーナが顔を引きつらせた。

「さて、掃除は任せよう。さて、そろそろだな」

 俺は車の前に見えてきたデカい宮殿をみて苦笑した。

「あっ、あれが……」

「うむ、猫が住むにはデカ過ぎるかな」

 俺は笑った。

「馬鹿野郎、デカいなんてもんじゃねぇだろ!!」

 エリーナが怒鳴った。

「うむ、無駄に余った金を全部ブチ込んだ結果だ。さて、着くな」

 車は宮殿の門を潜り敷地内の小道を通って、宮殿のメインエントランスの前で駐まった「よし、いくぞ。固くなるなよ」

 俺が笑った時、外から車の扉が開けられた。

「か、固くなるよ……」

 顔を引きつらせたまま、エリーナが車を降り、俺も降りた。

「この、馬鹿野郎!!」

 俺が車から出ると同時に、スーツをきた女性が俺の首をつまみ上げた。

「うむ、元首代行ご苦労」

「ご苦労じゃねぇよ。どこほっつき歩いてやがった!!」

 その様子をみたエリーナが固まった。

「うむ、いつもの散歩だ。なんの問題もない」

 俺はつまみ上げられたまま笑った。

「問題大ありだ、山ほど案件溜まってるぞ!!」

 俺を睨み付けた女性は、そのまま地面に下ろした。

「あ、あの……」

 エリーナが恐る恐る声を出した。

「ああ、これは失礼しました。私は側近のアリシアと申します」

 アリシアがエリーナに笑みを向けた。

「あ……こ、これはどうも。私は……」

「はい、すでにお話しは伺っております。いきなりこのような醜態を晒してしまい、もうし訳ありませんでした。どうぞ」

 アリシアが手で扉の向こうを示した。

「うむ、いこうか」

 俺は隣に立つエリーナに目を向けた

「わ、分かった……」

 かなりおっかなびっくりな様子のエリーナに俺は笑った。

「アルガディアでもこういう場所はあるはずだぞ。大して変わらん」

「あ、あるけど……国外は初めてだぞ……」

 凍り付いたように固まったエリーナに、俺は笑った。

「緊張するな。いこう」

 あまりにカチコチなエリーナに、俺は笑った。


「こちらへ」

 アリシアの先導で、俺たちは大広間に移動した。

 中にはすでに国の重鎮どもがウロウロしていて、歓迎の宴の準備が出来ていた。

「お、おい、規模がデカい……」

 隣のエリーナの顔が青ざめた。

「うむ、エリーナは国賓だからな。アルガディア王妃としてな」

 俺は笑った。

「こ、国賓……王妃……」

「うむ、さっそく始めようか。あの壇上に上がろう」

 俺は床より少し高い壇上になった場所を示した。

「な、なんか……喋ったりするの?」

「アドリブでなんか適当な事をいえ。あまり待たせると、なにかがブチキレて暴れるぞ」

 俺は笑って壇に向かって歩いていった。

「ああ、待て!!」

 そのあとをエリーナが慌ててついてきた。

 俺たちが壇上に上ると、集まっていた連中が一斉に注目した。

「うむ、西側にあるアルガディアの王妃だ。暇だからきた。ただそれだけだから、特に意味はない。変に警戒しないように」

 俺がいうと、そこここで笑いが起きた。

「というわけで、国際親善も兼ねておこうか。まずは、ひと言やってくれ」

 俺はエリーナをみた。

「ひ、ひと言って……」

 極度に緊張した様子のエリーナが、そっと口を開いた。

「あ、あの、野郎どもよろしく!!」

 爆発するように言葉を吐き出し、エリーナは慌てて口を押さえた。

「や、やってしまった……」

「うむ、いいスピーチだったぞ」

 盛大な拍手が起こる中、俺は笑った。

「ありがとうございました。歓談の用意が出来ています。ご自由にどうぞ」

 どこかにいっていたアリシアが寄ってきて、笑みを浮かべた。

「ど、どうしよう……」

「いや、悪くないぞ。堅苦しい挨拶などつまらん。メシでも食おう」

 俺は笑った。

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