人肌が恋しくなる爆弾人類

ちびまるフォイ

人を殺す人なんてひとじゃない

「愛しているよ」

「ええ、私も……」


二人は素敵なイルミネーションを背に手をつないだ。

その瞬間に二人の体はふき飛んだ。


『緊急ニュースです。

 他人同士の接触が行われた場合

 人間の体が爆発するウイルスが広がっています!』


テレビを見ていた男は鼻でせせら笑った。


「ハハハ、そんな馬鹿な」


男はいつもどおりの時間に家を出て、

いつものように駅に行き、いつものように電車に乗った。


グラリと電車が揺れた時。


「おっと失礼」

「いえ、大丈夫です」





『ただいま、川ノ手線で大規模な爆発がありました!

 みなさん、人と接触する交通機関の利用は避けてください!』


ヘリコプターからの映像では電車が線路もろともふっとばされていた。

誰もが車を使うので道路は大渋滞となり、歩く人で交差点は賑わった。


そして。



『みなさん! 人混みは避けてください!!

 たった今、スクランブル交差点で大規模な爆発がありました!

 危険です! 人が多い場所には近づかないでください!!』


人々は自分たちが爆弾になったことを自覚するまで時間がかかった。


理解してからの対応は早く、誰もが家から出ないようにした。

意識しなければ他人に触れる機会などほとんどない。


テレビでは終日その話題で専門家が連れ出されていた。


「本日は、爆弾専門家のスルゲン氏にお越しいただいております」


「スルゲンです。みなさん、できるだけ家から出ないように。

 そして家族との接触も避けてください。自分以外はみな他人です」


「スルゲンさん、手袋などをして触れるのは大丈夫なんですか?」


「ダメです。それを試したうちの助手が吹っ飛びました」


「街の声を見てみましょう」


今度は街で女性を中心にした映像へと切り替わった。


『爆弾? あーーでも安心かも。変な男に触られないし』

『電車も距離をあけておけば乗れますし、そんなに不便ないですよ』

『痴漢の心配もないので安心です、このまま男がみんな爆死すればいい』


「ゲンスル氏、一部では肯定的な意見もあるようですが」


「このままというわけにもいかないでしょうから、

 我々としても原因の救命を急ぎたいと思い……」


ゲンスル氏が言葉を止めた。

スタジオにはフードをかぶった男がやってきた。


「君は誰かね? ADか? いま本番中だぞ」


男はまっすぐ歩いてくると、ゲンスル氏にぽんと手を触れた。

その瞬間にゲンスル氏は顔を恐怖で歪めた。


「うわぁぁぁ! ば、爆発する!!」


しかし何も起きなかった。

油断して力を抜いたとき、男はゲンスル氏を引っ張って司会の人にぶつけた。


「あ」


画面には強烈な爆発が見えたかと思うと砂嵐が映った。


『ただいま放送を受信できません。

 しばらく素敵なボートの映像を御覧ください』


画面には代わり映えしない映像が流れ続けた。


テレビ局に現れた男は近くの人間の服を掴むと他の人間にぶつけ続けた。

男の手によって四方八方から大爆発が起きる。


「き、君! 一体何が目的なんだ!」


「意味なんかねぇよ。なんとなく」


「やめっ……うわぁぁぁ!!」


男が突き飛ばすと、倒れ込んだ表紙に逃げる人同士でドミノ倒しになる。

いくつもの爆発が連続して建物を破壊していく。


その様を見て男は楽しそうにはしゃいでいた。


建物を出ると、道で油断している人間をドンと突き飛ばし

他の人間にぶつけて爆発を起こさせる。


「あはははは! みんな死んじまえよ!」


男の暴走ですぐに警察が出動しパトカーで男を囲んだ。


「君、そこから動くんじゃない!」


警察の制止も無視して、男はパトカーに突進。

整った隊列の警察を突き飛ばして警察官同士で爆発させる。


「こいつ、無茶苦茶だぞ!」

「無力化させろ!!」


催涙ガスを投げ込んだが、男の巻き起こす爆風で効果は半減。

訓練されて統率された部隊にとって、男はあまりに縦横無尽で手がつけられない。


「アーミー作戦だ!! やれ!!」


控えていた警察官はバズーカ砲のような筒から網を発射した。


「ぐっ!」


網に絡まった男は芋虫のように動けなくなった。


「よし! 無力化成功だ!!」


男は網の下でも身をよじって、誰かに触れないかとしている。

距離を置いた状態で警察官たちは見守る。


「みなさん、近寄らないで! 絶対に中に入らないでください!」


男の処遇を決める偉い人がすぐに現場に急行した。

すでに男の周囲はギャラリーで埋め尽くされている。


「危険な爆弾魔だ! 殺してしまえ!」

「こんなやつを野放しにするな!」

「今ココで殺さないと、安心して外に出られない!」


周囲の人たちは男に石やゴミやらを投げつけ殺せコールを続ける。


「皆さん、落ち着いてください!」


偉い人はメガホンで鼓膜を破らんばかりの声をはった。


「見てください。彼はれっきとした人間です。

 殺せ殺せなどと、簡単に命を奪うわけにはいきません!」


「……」


「命の重みもわからずに軽く人の命を奪うようなら、

 それは彼とまったく同じじゃないですか。

 我々は最後まで、人として、人らしく生きましょう」


加熱していたギャラリーは収まり、静かな反省ムードに包まれた。


「……それで、この男はどうなるんだ?」


誰かがぽつりと言った言葉に偉い人は答えた。



「彼だけは他の人間に触れることができる。

 この研究を進めれば、きっと強力な兵器が実現できます。

 その研究対象として彼を有効活用するに決まってるでしょう!!」

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