第4話

「よう。俺の期待を裏切らなかったな。」


男は「ククク」と笑いながら言った。


「やらなきゃいけないことが残っていましたから。」


ガレッタは確固たる眼差しで返した。その目をみて男はニヤリと笑った。


「契約通りお前にもう一度生を与えよう。あぁ、ついでに土産もやろう。これは俺からのプレゼントだ。」


そして、ガレッタは男に何か言う前に眠りに着いた。


ガレッタは痛みで目を覚ました。ミカは泣いていた。わんわんと、周りを気にすることなく号泣していた。それを男達は侮蔑と嘲笑、そして嗜虐の目でみながら大笑いしていた。


「さて、そろそろこいつを頂くとするか。そんな心配そうな目をするなお前ら、一発出したらお前らにもヤらせてやるよ。」


その言葉はミカには届かなかった。ガレッタを殺した男はミカに近づき、ボロボロになったローブを剥がそうとした。


その時、小屋に一つの火柱が上がった。燃え上がる炎は遥か遠くの都でも見えたという。


「神の怒りだ。」


ある聖職者は喜び狂乱した。その火柱は神が悪に対して行った天罰だと。そして自分はその奇跡を目の当たりにしたと。そう思った。


「悪魔だ。悪魔がこの世を滅ぼしに来た。」


ある権力者は怯えた。悪魔とは断罪するもの。手を汚したくない神が差し向ける使徒だとも言われている。権力者は搾り取った富を取られること、そしてその罪を罰せられることを恐れた。


この火柱は国中に大きなショックを与えたのだ。


「何が起こった!」


男達はその火柱の方に振り返った。そして皆が同じ顔をした。その顔はまるでおとぎ話の魔王を見た子どものように絶望と恐怖を表していた。


「殺してやる。」


火柱の中心にはガレッタがいた。ガレッタは本能的に炎の使い方を分かっていた。そしてミカを守れる力を得たことで男達を相手しようと思った。


しかし、男達は我先に小屋から逃げ出そうとした。それもそうだ。魔法なんておとぎ話の中でしか聞いたことない。目の前にいるガレッタは今まで磨いてきた技術は通用しない、別の次元の存在であると瞬時に理解していたからだ。


「冗談じゃあねぇぞ。このクソガキ、今度こそ息の根を止めてやる!」


ガレッタを殺した男は剣を手に目の前の化け物に切りかかった。今ばかりはこの男に賛辞を述べよう。イレギュラーで未知の存在に果敢にも立ち向かったのだから。


ガレッタはその男を視界にに捉え、瞳を燃えるようなオレンジに染めた。それだけで十分であった。男は燃え上がり火だるまになった。その行く末を見守ることなくガレッタは他の男達に目を向けようとする。


「もうやめて! これ以上ガレッタが傷つくことはないわ。」


ミカが呟いた。虫の羽音のように小さな声だった。ガレッタに聞こえたかは分からないがガレッタは男達を殺すことなく炎で逃げられないように囲った。そしてミカのもとに歩いた。


「ごめん、君を守れなかった。」


「でも私を助けてくれたわ。ありがとう。」


ミカは目の前の悪魔的所業を成し遂げた男に怯えなかった。何故なら彼の瞳は先程のような地獄のような荒々しさは無く、穏やかな暖かいオレンジ色に変わっていたからだ。


その後、火柱を見て駆けつけた衛兵にガレッタとミカは保護され男達は牢に入れられた。ガレッタとミカは衛兵に事情聴取をされ、ほんの少しの嘘と真実を語った。あの火柱は神の怒りとされた。むしろそれ以外に説明がつかなかった。真実を知っているのはガレッタとミカ、そして恐怖でその事を話せない男達だけであった。


それから数日後、ミカは孤児院から協会に戻ることになった。事件の被害者である彼女には休養が必要と判断されたからだ。


「君に会えないとなると寂しくなります。」


ガレッタは言った。ミカは涙を目に溜めながら笑った。


「一生の別れではありません。この空の下に私たちはいます。この空のもとにいる限りまた神が私たちを結んでくれます。」


そしてミカは馬車に乗った。御者が馬に鞭を打ち馬が走り出した。


「貴方からの便りを心待ちにしてます。ガレッタさん、また会いましょう。」


ミカは窓から顔をだしていった。ガレッタはそれに答えるように大きく手を振った。


青年が起こした奇跡は、また少女と出会う機会を与えてくれた。


青空の下、青年の瞳には燃えるようなオレンジが広がっていた。

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地獄からの帰還者 おぶち @obuchibuchi

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