伝承・やまたのおろち?
パタン。書庫の隅に座り込んだアイシャは、音を立てて本を閉じる。
「……だいたいわかった。後は、具体的にどうするかだな~」
そんな事を言いながら、アイシャはひょいと本を投げ捨て、今度は神殿の見取り図を手に取った。
「……痛い。おお、やまたのおろち……」
アイシャの投げた本が頭に当たり、それから、宵虎の前に落ちる。
その本の表紙には、蛇が描いてあった。いくつもの頭を持つ蛇が。
宵虎はその本を持ち上げて、隅で丸まっているネロをちょんちょんとつつく。
「なにかにゃ、だんにゃ?セクハラならアイシャにするにゃ」
「せくはら……助平?違う。……これは、やまたのおろちか?」
本の表紙を見せながら、宵虎はそう尋ねる。
けだるそうなあくびを一つ、ネロはその本に視線を向けた。
「やまたのおろち?良くわかんないけど、……これはヒュドラにゃ」
「ひゅどら?」
「首がいっぱいある蛇、みたいな奴にゃ。しょうがないにゃ~。読んであげるにゃ。えっと、昔々……」
「どの程度昔だ」
「そこ突っ込んじゃうのかにゃ?あ~。超昔にゃ。超昔、あ~えっと……とにかく、ヒュドラが暴れてたにゃ」
「何故?」
「知らないにゃ。ヒュドラにはヒュドラの事情があったんじゃないかにゃ?で、とにかく暴れてて……そこで勇者が現れて、」
「どこから?」
「だから、知らないにゃ。で、えっと……火の剣でぶった切ったって書いてあるにゃ」
「火の剣とは?神下ろしか?」
「さあにゃ。まんま燃えてる剣じゃないのかにゃ?で、ぶった切って……その毒を取った?封じた?……う~ん、書き方が古すぎて良くわかんないにゃ~。アイシャ、良くこれ読めたにゃ」
音を上げて、ネロはアイシャにそう呼び掛ける。
するとアイシャは、さらっと適当な事を言った。
「え?あ~読めてないよ。とりあえず、火が効くっぽいな~って。毒取ったってのはもろ蛇毒だろうし。とりあえず、燃やしてみれば良いって事でしょ?」
「燃やすって……都合よくそんな事できるのかにゃ?あ、でもだんにゃやってたにゃ。失敗してたけどにゃ」
「失敗ではない。あれは、剣が悪い」
「え?お兄さんが?魔術……かな。でも、失敗したんじゃ駄目だよね~」
「そうだにゃ。失敗したらダメダメだにゃ~」
「……だめだめではない。失敗ではない」
「でも、私が使えるから良いよ。いや~、便利だから覚えたんだけど、こんな所で使えるとはね~」
そう言って、それからアイシャは見取り図を脇に置く。
「よし。……だいたい決めた。……他に手もなさそうだし……。あ、でも、一応、お兄さんの意見も聞こうかな~。ね、お兄さん?」
「失敗したわけでは無い……。太刀さえあれば……」
俯きぶつぶつと漏らす宵虎に首を傾げ、アイシャはネロに尋ねる。
「……なに?お兄さんどうしたの?」
「にゃ~。本当、ギリギリまではカッコ良かったんだけどにゃ~。惜しかったにゃ~」
そのネロの言葉にも、アイシャは首を傾げるのだった。
「一体、なんの話?」
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