食卓で情報共有

「つまり、あの娘たちは連れ去られたと」

「スキュラは国が欲しい、ね…。なら、すぐ殺すことはなさそうだね」


 料理を手に、アイシャたちはネロを中心に情報共有を進めていた。


 海に飛び込んだ後―どうも、アイシャとネロ、そして宵虎は同じ場所に流れ着いていたらしい。ネロはしきりに不思議がっていたが、あの不可思議空間に行っていた以上、地霊の導きとやらがあったのだろうか。とにかく、そんな宵虎とアイシャを、ネロは一生懸命街まで運んで、適当な家を借りて、怪我の手当てをして、料理まで作って待っていたのだ。


 そんな健気なネロを、不意にアイシャは睨んだ。


「だいたいわかったかな。…でさ、猫ちゃん。知ってること全部吐いて」

「にゃ。なぜそんな不穏な言い方をするにゃ……」

「わけありなんでしょ?キルケーとシーピショップ。そんな感じだったけど?」

「にゃ……」


 言いづらそうに、ネロはそっぽを向く。

 だが、やがてもう隠してもしょうがないかと観念したのか、ネロは話し出した。


「はあ、しょうがないかにゃ。シーピショップは、もともとあの神殿の神官だったにゃ」

「神官?」


 首を傾げる宵虎を横に、アイシャは先を促す。


「ふ~ん。それで?」

「ん~っとにゃ…。ある日、あの神殿にローレライが流れ着いたにゃ。大怪我した奴が」

「ろーれらい?」

「ああ。だから呪歌を…」

「そうにゃ。そのローレライに何があったかは知らにゃいけど、結構な大怪我で、それでマスターが相談を受けたのにゃ。どうにか、治す方法がないかって。でも、マスターにも治せなかったにゃ。それで、その時にぽろっと霊薬の事を言っちゃったらしいにゃ。確証はないけど、治るかもって。蛇毒が変ずるうんちゃらかんちゃら?」

「霊薬?……苦そうだな」

「神殿にあるってやつ?」

「そうにゃ。で、たぶんだけど、それを使ったからローレライがスキュラになったにゃ。神官も魔物になって、で、マスターはそれを後悔しててにゃ。言わなければ良かったって。あたしが知ってるのはそれだけだにゃ。国が欲しいとかも、なんでだかわかんないしにゃ~」


 そこまで言って、それからネロは少し悲しげに呟いた。


「ただ…元々は二人とも良い奴だったにゃ」


 ネロの話を聞き終えて、アイシャと宵虎は呟く。


「…ふーん。な~んとなくわかった」

「要は邪に呑まれたという話か…。どこであろうと、その類は大して変わらんな…」


 そんな二人にネロは問い掛けた。


「それで、これからどうするにゃ?」


 アイシャは少し考えようとして、だが宵虎は即座に答える。


「無論、すきゅらとやらを切る。人に害なす化生に違いはない。飯の恩もあるしな」

「…お兄さんなんて言ってるの?」

「スキュラを倒すって言ってるにゃ」

「あ、そっか。…やっぱり、そうなるんだ。一応、止めてみてくれる?」

「わかったにゃ。だんにゃ?悪い事は言わないからやめとくにゃ。昨日勝てなかったしにゃ」

「今度は負けない」

「そんな、子供みたいなこと言わないでほしいにゃ…。そもそも、もう武器もないにゃ。ナイフで勝てるのかにゃ?」

「…頑張る」

「頑張ってどうにかなるならそもそも負けてないと思うにゃ……。にゃ?アイシャ、なんであたしを睨むのかにゃ?」

「……別に。とにかく、スキュラを倒すんでしょ?じゃあ、そうしよ。決定」

「そうしよって……アイシャに至っては足怪我してるにゃ。そもそも歩けるのかにゃ」

「え?…あ~……どうにかなるんじゃない?多分」

「無根拠なお返事だにゃ~。こっちも結構子供だにゃ……」


 呆れ返ったネロを眺めながら、アイシャは言う。


「まあ、具体的にどうするかはおいおい考えるとして、どっかに武器ないの?お兄さんに使えそうなやつ」

「ん~。兵士の詰め所とかなら、あるかにゃ?」

「じゃあ、そこに案内してよ」

「しょうがないにゃ…。じゃあ、だんにゃ。ご飯はもう終わりにゃ」


 渋々、と言った様子でネロはそう呟き、立ち上がる。

 宵虎は一つ頷くと、料理の残りをかき込んで、それからアイシャへと歩み寄ってきた。


「え?どうしたの、お兄さん。わ、ちょっと…運んでくれるの?」


 宵虎はアイシャを抱きあげたのだ。お姫様だっこである。どうやら、さっきのネロの言葉からアイシャが足を怪我していると知って、助けようとしたらしい。


(親切だな~…ん?)


 感心した直後、ある事に気付いたアイシャは、じ~っと宵虎を見上げて言う。


「お兄さん?どこ触ってるの?」

「……なんだ?運ばれるのが嫌なのか?」


 意図の通じ合わない二人を眺めて、ネロは呆れながら言った。


「…セクハラかにゃ~だんにゃ?」

「せくはら?」

「えっと……スケベにゃ。スケベ」

「助平?」


 その言葉に首を傾げ、宵虎はアイシャに視線を向ける。


 片手は、膝の下を通っている。そして、もう一方の手は背中を回り―。

 もにゅ。もにゅ。二度揉んだ末に、宵虎は呟いた。


「……柔らかい。……ぐはっ!?」


 宵虎の顎は、鋭い掌底によって跳ね上がった。

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