2章

太刀を探して浜辺へと

「というわけでね。酷い話だと思わない?ねえ、お兄さん」


 宵虎が食事を終えるまで、アイシャは喋り続けていた。


「何を言っているかわからんが……うるさい娘だ。良く喋る……」

「しかし、良く食べるよね~お兄さん。ナーガだよ?大蛇だよ、これ。美味しいの?」


 明らかに宵虎の身体より大きい風穴の空いたナーガの死骸を呆れた様子で眺めながら、アイシャはそう言う。

 しかし、その言葉は当然通じず、宵虎はどこ吹く風と手を合わせ、言った。


「ご馳走様でした」

「あ。お腹一杯になった?」


 そう首を傾げたアイシャに、宵虎は感謝の意と共に頭を下げた。

 それから、宵虎は立ち上がり、アイシャに背を向けて歩き出す。


「あ、お兄さんどこ行くの?言葉が通じる人の所だと私嬉しいんだけどさ~」

(さて、次は……太刀だな)


 先程大蛇と戦って、やはり太刀は必要だと宵虎は痛感したのだ。潮に流されたとして、あるいは近くに流れ着いているかもしれない。なら、とにかく、浜に向かうべきか。


 *


「この辺に誰かいるの?ねえ、お兄さん。おにーさーん?おーいっ」


 波打ち際を前に仁王立ちする宵虎。その耳元で、アイシャはずっと喋り続けている。


「……鬱陶しい。何故、ついて来る……」


 大蛇を焼いてくれた恩は確かにある。邪険に扱う訳にもいかず、しかし何を言っているのかもわからず、へきえきとしたまま、宵虎は浜辺で刀を探したのだが……


(……ないな。この辺りには流れ着いていないか……)

「ねえねえお兄さん。何やってるの?水遊び?それとも、砂遊び?楽しいの?あ、城とか作るなら壊させてよ。壊すために作るのはめんどくさいしさ~。ねえ、お兄さん?」

「ひたすらうるさい。……む?」


 と、そこで宵虎は気付いた。

 濃い霧の掛かった海の向こうに何か建物の様な物が見え隠れしていると。


「あれはなんだ?」

「なーに、お兄さん?」


 尋ねたら首を傾げられてしまった。そこで、宵虎は建物のようなモノを指さしてみる。


「え?あっち?……あれ……神殿、かな?ふうん……供物の捧げ忘れとか?……え~、それ思いっきり危険な奴じゃん……」


 どこか嫌そうに、アイシャは呟いていた。そんなアイシャの言葉に、宵虎は頷く。


「……うむ。何を言っているかまるでわからん」


 良く考えたら尋ねても無駄だった。なんせ、言葉が通じないのだから。


 とにかく、だ。あちらに陸地があるらしい。ならば、そちらに太刀が流れ着いているかもしれない。そう考えた途端、宵虎は迷いなく海へと踏み出した。


「え?行く気なのお兄さん。……ていうか、泳ぐの?お兄さんさ~。短絡的って言われない?あ、見てよお兄さんあれ!ほら、船があるよ?」


 いざ飛び込もうとしたその途端、アイシャは宵虎の腕を取って引き留めた。

 そして、浜の一角にある小舟を指さして何かを言う。

 良くわからないが、あれで行けというのだろうか。


「……借り受けるか」

「でさ、あっちに人いるの?ねえ、お兄さん。……あれ、あからさまにヤバそうなんだけどな~。でも、一人で行くよりマシか……。盾になってくれる?ねえ、おに~さ~ん、」


 舟に向かう宵虎の後を、ぶつくさ言いながらアイシャはついて行った。

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