第7話
寒い寒い一年の最後の日、二人はまた天ぷらそばにありつきました。お正月のお祝いだからと、女将さんは今度はミカンまでごちそうしてくれたのです。
ウサギは、苦手な天ぷらを親友のどんぶりにポイとやって言いました。
「ミカンは、ぼく、大きいほうをもらうよ」
「いいとも、いいとも。そら、どうぞ」
タヌキは、真っ白な雪の中でいったいどうやって汚したのか、真っ黒な手でミカンを掴んでよこしました。
「ぼくは食事の前にはきちんと手を洗うんだよ。たぬくん、君はいつ・・・」
タヌキはもう、どんぶりに落っこちそうになりながら、天ぷらにかぶりついております。ウサギは嫌味ったらしくミカンの皮をばか丁寧にむきながら、今年1年分の皮肉を全部ひっくるめて言いました。
「来年はぼく、旅に出ようか。あちこち訪ねて行って、アンケートをとるの。あなたは、汚れたタヌキと洗ったウサギ、どっちが好きですかってやつをね。うん、そうしよう」
するとタヌキはあわてて言いました。
「やぁ、そんならおいらも一緒に行こうねぇ。楽しみだねぇ。英国へ行くのかい」
「英国だって?」
ウサギは雪を蹴散らして跳びはねました。
「そいつはいいね。英国へ行くならジャムを持たなきゃ。キツネさんに届けるんだ」
「オセロも持って行こうか」
二人はもうすっかりその気になって、キラキラと顔を輝かせています。
「ジャムにオセロに・・・あ、大変だ! たぬくん、ぼくら洋服を持っていないじゃない」
「うさくん、おいら嫌だよ、犬に裸を見られるなんて」
いつか二人は本当に、旅に出るかも知れません。女将さんから洋服のお下がりがもらえないとも限りませんし、少なくとも風呂敷マントは持っているのですから。そしてある日、誰かの玄関先に立ってこう言うのです。
あなたは、汚れたタヌキと洗ったウサギ、どっちが好きですかーー。
<おしまい>
汚れたタヌキと洗ったウサギ イネ @ine-bymyself
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