第6話

 秋が深まると、山は妙にがらんとして、落ち葉のパリパリ鳴る気持ちのいい小路があちこちにできあがります。夏の間は草が生い茂っていて見つけられなかった抜け道を、今日もまたひとつ見つけて、タヌキはいかにもごきげんでした。けれども少し、無用心です。自分の足音があんまりパリパリいうもので、聞き逃してしまったのでしょうか。茂みの中から、トトントン、トトン、トン、という不思議な音が、もうずっと鳴り続けているのです。

「トトントン、トトン。ああ、そうだ。あれはうさくんが危険を知らせるときの足音だよ」

 そう気付いてあわててふり向いたときにはもうそこに、ピカピカの靴を履いて、ズボンとコート、鹿撃ち帽までかぶった背の高いキツネが、すぅっと立っていたのです。

「キツネの目を見ちゃいけない。たぬくん、目をつぶるんだよ」

 ウサギは茂みの中から賢明に叫びましたが、もう手遅れでした。無用心なタヌキはキツネの目をまともに見てしまって、グルグルと目を回しています。するといよいよ、キツネが大きく口を開けて笑いました。

「はっはっはぁ。君たち、まだそんな子供みたいなことを言っているのか。よくごらん、俺だよ、不在穴のキツネが戻ったのさ」

 それでウサギはようやく茂みから姿を現しました。

「わぁ、キツネさん、いつ旅から戻ったの」

「たった今だよ。またすぐに旅立つがね」

 タヌキもくるくるしたまま叫びました。

「おかえり、おかえり、キツネさん。今度はどこへ行ってきたの。そうしてまたどこへ行っちゃうの」

「まぁ、まぁ、まずはお茶でも飲もう。二人とも、ほこりを払うのを手伝ってくれるね」

 三人はキツネの家へ行って、ドアを蹴破り、家具のほこりをみんな払いました。三人で座るにはちょっぴり狭い部屋ですけれど、旅人にはこれくらいがちょうどいいのです。

 キツネは、ツィードのコートとお揃いの帽子を脱いで壁に掛けると、どっぷりと椅子に埋まって言いました。

「いやぁ、ヨーロッパはもう、すっかり冬だよ。ここよりずっと寒い」

 そらからピカピカの靴も窮屈そうに脱ぎ捨てました。

「信じられるかい? 英国じゃ、人間も犬もみんな洋服を着てるんだ。俺にはどうも堅苦しくて仕方がないよ」

 確かに、去年キツネが旅に出発したときは、彼は洋服なんてひとつも持っていませんでした。裸足で、ただ一枚の風呂敷をマントのように羽織っていただけです。

 それから三人は、キツネがお土産に持ち帰った紅茶を淹れて飲みました。そして翌朝には、旅人はまたどこかへ旅立ってしまったのです。

「しまった。ぼく、キツネさんにキイチゴのジャムを持たせてやればよかった」

 友人を見送ったあとで、ウサギは紅茶にジャムを溶かしながら、悔しそうに顔をしかめました。タヌキも、顔中でジャムをベロベロやりながら、うんうん、とうなずいて紅茶をすすりました。

「英国って、どんなところだろうね。キツネさん、すっかり紳士の格好だったね」

「うん、靴まで履いていた」

「それに犬も洋服を着ているだなんて」

 二人は一瞬まじめな顔つきをして、お互いの格好を眺めました。

「でもさ」

 それからまた一度に笑いました。

「そんな国に、キツネさん去年は素っ裸で行っちゃったんだから、おかしいねぇ」

「うん、風呂敷のマントでね。英国人はおどろいたろう。うっふっふ」

 ウサギはふと思い立って、戸棚からお気に入りの小鍋を取り出してきました。

「そら、かぶってごらんよ。紳士みたいに」

 タヌキが小鍋を頭に乗っけてみますと、なんともまぬけな格好です。

「どこかに風呂敷もあったね」

 二人は、別の鍋もかぶってみたり、空き缶を足に履いてみたりして遊びました。

 間もなく冬がやってくると、二人の毛はふわふわの冬毛に生えかわります。そしてそれは、銀色の雪の上でどんな洋服よりも美しく輝くのでした。

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