Tips:ドラクリア騎士団の騎士鎧
これはドラクリア王国が独立する少し前のお話。
建国にあたり様々な準備を進めていたガリアだが、机仕事というものは時にどうしようもなく滞ってしまうもの。羽ペンを指先で弄びながら、うんうんと唸っていた。
……こんな時は気分転換だ。どうでもいいことを先に考えよう。
愛用の手帳を開き、優先度の低いタスクを眺める。服飾関係……これだ。
バンパニアから独立するにあたって、使えなくなるものがいくつかある。その内のひとつが制服関係だ。
別に自分の国なので平服でも構わないのだが……騎士団(といってもマリエッタとギルエラの二人しか居ないのだが)ぐらいには揃いの騎士鎧を誂えておきたい。その方が格好いいし。
思い立ったが吉日。伝手を辿ってデザイナーに相談することにした。
※
「というわけで三つ考えてもらった」
数日後、とある用事で集まった三人――メライア、マジータちゃん、マリエッタに制服のデザイン案を見てもらうことにした。ギルエラは忙しいので明日。
事を終えた室内に立ち込めていた熱気が外に逃げ、代わりに寒気の冷たい風が吹き込んでくる。適度に盛り上がりつつも冷えた頭でデザインを吟味しようという腹積もりだ。
「まずはこれだ」
最初に見せたのは、上はシャツにジャケット、下はスラックスと、その上から甲冑を着込むタイプ。バンパニアの騎士鎧にならったデザインだ。実のところガリアはバンパニアの騎士鎧を気に入っているので、この案には期待している。
新興国でも多く採用されているタイプなだけあり、反応は上々だった。
「私はいいと思うよ。マリエッタちゃんにもギルエラちゃんにも似合うと思うし。私も着たいかも」
しげしげとキャンバスを眺め、マジータちゃんが言う。どうやら気に入ってくれたらしい……が、他に不満があったようだ。眉をひそめ、横目でガリアを見やる。
「……で、どうして私には相談してくれなかったの? これでも仕立て屋さんなんだけどなー」
「そう言やそうだったな……悪い、忘れてたわ」
すっかり忘れていた彼女の本職に思いを馳せ、ガリアは咳払いした。気を取り直して他の二人に意見を求める。
「メライアはどう思う?」
「いいと思うぞ。機能的だし威厳もある。マリエッタは?」
「わたくしとしてはもう少し身体を動かしやすい装備がいいと思いましてよ」
「なるほど……因みに次のはその真逆だ」
そう言いながら持ち出したキャンバスには、オールドタイプの全身鎧が描かれていた。分厚い鉄板で全身を包み、関節部にも蛇腹状の鉄板が用いられている。一応可動範囲は確保されているらしいが……見た目からして動きにくそうだ。
マリエッタが苦言を呈す。
「これは……ナシですわね」
「そもそも私達は不死身なんだから、そこまで防具としての性能にこだわる必要はないだろう」
メライアの言葉に、ガリアは目からウロコが剥がれ落ちた気分になった。
「ああ、それは確かに……じゃあ逆にこれもアリなのか……?」
言いながら、ガリアは三枚目を取り出す。
それはほとんどビキニ水着だった。申し訳程度の装飾に加え、兜だけはそこそこしっかりしている。それにしたってこのドピンクはどうなのだろうか。
「多分これが一番動きやすいと思う」
ガリアの言葉に、マジータちゃんが引き気味で返す。
「いや、確かに動きやすいだろうけどさ、でも、これは……」
「これを着て人前に出られるのか……?」
メライアは頭を抱えつつ、ちらりとマリエッタに視線をやった。急に話を振られたマリエッタは、「えっ」などと驚きの声を上げてから、咳払いして視線を戻す。
「こんなもの……あなたの前でしか着れません」
「え、俺の前でなら着てくれるの?」
ガリアの言葉に、彼女はハッとして口元を隠す。
「ち、違いますわ! これは、その……と、とにかく、わたくしは反対ですからね!? 反対です、こんなもの!!」
誤魔化しの言葉が出てこなかったのだろう。キャンバスを取り上げたマリエッタは、それをベッドの下に放り込んでしまった。なんてことを。
「じゃあこれはメライアの夜伽用の衣装ってことにしておくか……」
こんなこともあろうかと用意していおいた予備のキャンバスを持ち出す。
メライアは叫んだ。
「わ、私も着ないぞ!? これ、裸より恥ずかしいだろ!」
「それが良いと思うんだけど……」
ガリアの言葉にマジータちゃんが頷く。
「私もそう思う」
「マジータ!?」
裏切り者を見るような目でマジータちゃんを見やる。マジータちゃんがそこに満面の笑みを返したものだから、メライアはヤケになってキャンバスを粉砕してしまった。なんてことを……。
もっとも、原本はデザイナーの手元にあるのだが。
※
その後ギルエラの意見も聞いたが、結局は最初の案で落ち着いた。妥当な結末だ。ガリアもそう思う。
しかし……ビキニアーマーも人数分発注しておいたのは秘密だ。
《プロジェクト》ドラクリアン 抜きあざらし @azarassi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます