星流夜

流々(るる)

願い

 どこへ向かっているのだろう。



 行き先なんて、どこでもよかったんだ。

 少し、疲れてしまった。


 黒を思わせる濃紺の波が光を映してきらめくこともなく、ただゆっくりと。

 ただ静かに、船は進んでいる。 


 最後に船へ乗ったのは、いつだったか。

 思い出せない。


 目的の地まで停まることはない。

 途中で誰かが乗りこんでくることもない。


 こんなゆるりとした時の流れが私には必要だったのかもしれない。



 まばらにしかいない乗客たち。

 そこに見覚えのある背中があった。


 まさか。

 そこにいるはずがないのに。


 裕美によく似た女性が美帆によく似た女の子を連れている。

 他人の空似か。


 母親が何か語り掛けると、娘は嬉しそうに答えている。

 私がもう一度見たかった、あの笑顔のように。


 裕美は幸せだったのだろうか。

 美帆は……どんな思いだったのだろう。


 私の中の時間は、あの日あのときに止まってしまった。



 あの女の子、本当に楽しそうだ。

 見ているだけで、こちらも笑顔になってしまう。


 二人に、会いたい。

 空を見上げる。






      *







「――はい、そうです。○○公園のベンチです。

 ――朝のジョギングの途中で……

 ――いえ、亡くなっていると思いますが……あ、はい。分かりました」

 通報を終え、深呼吸をする。


 この冬一番の寒さだと言うのに、どうしてこの人はこんな笑顔で死んでいるんだろう。


 遠くからサイレンの音が聞こえてきた。

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