第5話 白雪さんとの吉高祭①


「やっぱり、恋に大事なのは『いべんと』だと思うんです!」

ふわりと綺麗な黒髪をなびかせて俺の机にバンっと手を置く白雪さん。

うん、確かに。そうだな。

同調したい気持ちは山ほどある。

が、いつもの放課後と違って、今は3時間目の休み時間で。

しかも周りにはクラスメイトが居るわけで。

あぁあ周りの奴らがヒソヒソ何か言ってるのが聞こえるぅ…っ。

「ちょちょ…っ白雪さん…、そう言う話は放課後やって…っ」

小声で訴えてみる。

「でもですね、この学校って文化祭が無いらしいじゃないですかっ」

全っ然聞こえてねー!

くそ、ただでさえ目立つ白雪さんが、ぼっちの俺に話しかけるなんて…っ

今までは転校したてということもあって

白雪さんの周りにはいつもクラスの連中がいたから、俺のとこに来ることなんか無かったのに…っ。

「うちの学校は文化祭の代わりにクリスマスにイベントをやるのよ」

慌てふためく俺を他所に、高飛車な声が近づく。

この声は…

「恋雪ーっそんなのあたしに聞いてくれればいいのにっ」

ガバッと白雪さんに抱きつく、成瀬沙耶香なるせさやか

「えへへーくすぐったいよー沙耶香さやかーっ」

この2人…確かこの間も一緒に居たっけか。

とにかくよかった。なんとか話を逸らしてくれて。

キーンコーン…

予鈴とともに一気にクラス中が席に戻り出す。

それは目の前に居る白雪さんと成瀬さんも同様だ。

戻る途中、白雪さんは俺に手を振ってくれたが、成瀬さんは俺をひと睨みした。

白雪さんに小さく手を振り返そうとしたが、苦笑いで止めておいた。

俺、成瀬さんに何かやったっけ…?



放課後、いつもの教室――

「クリスマス前ってことは、そろそろ実行委員とか決まるって事ですか?」

相も変わらず、白雪さんの恋の手助けの為に集まっている。

今はクリスマスに開催される学校の恒例行事である通称『吉高祭』の話で白雪さんが盛り上がっている最中だ。

「うーん、そうなんじゃない?俺も初めてだからよく知らんけど」

「はぁーーっ楽しみですーっ

クラスの皆ともっと仲良くなれますかねー」

両手を頬に当て、恍惚の表情を見せる白雪さん。

本当俺とは正反対だな。

俺は如何にして交流を避けて、平穏に文化祭を終えるかばかり考えていたのに。

「平木さんっ吉高祭、一緒に見て回りましょうよ!」

「お゛っ…ゴホッゴホッ」

びっっっくりした。

面と向かってあんな笑顔でこんなこと言われるの初めてすぎて心臓が痛え。

思わずむせ返ってしまった。

「うわわわっ大丈夫ですか!?わ、私飲み物買ってきますっ!」

あわあわと走り去っていく白雪さん。

なんとか落ち着いてきたけど、もう白雪さんの影も形も無かった。

まぁ…いっか。

「本っっ当、なんでアンタと恋雪が一緒に居るのか全然わかんないんだけど」

トゲトゲとした声色と共に、聞き覚えのある声が入ってきた。

「成瀬…さん…」

「もういい加減にしてくんないかな

この前恋雪が反省文書かされてた時もアンタが絡んでたんでしょ?

アンタみたいなのが近くにいるとさ、恋雪に悪影響なワケ。

だから金輪際関わらないでくれる?」

あまりの威圧的な態度に恐縮する。

あれ、最近もこんな体験した気がするぞ。

最近物騒なヤツが多いなあ…

なんて頭の隅で考えていたら、

「じゃ、そういう事だから。」

踵を返す成瀬さん。

「おわっ!?沙耶香!?どうしたの?」

ちょうど飲み物を買いに行っていた白雪さんが帰ってきたようだった。

「あ、恋雪ーいいところにっ

アイツなんか具合悪いらしいから、解散だって。一緒に帰ろーよ」

「え、そうなんですか

平木さん大丈夫ですか?」

「あー、アイツの事はほっといていいから

帰ろっ」

「えっ?で、でも…っ」

ずるずると成瀬さんに引きずられる白雪さん。

成瀬さんのオーラに負けて、なんの弁解をする余地も無く、2人の後を見送ってしまった。


…いや…話しかけんなって言われても…

俺が何やっても白雪さんなら構わず話しかけてきそうなんだけど…

…………。

まぁ…いっか。


どうせ明日も集まるだろうし。


ふぁあ…眠いし、俺もとっとと帰ろ。



――次の日のHR

「…じゃあ今から実行委員を男女2人決めるぞー」

先生のセリフが言い終わる前に挙手する白雪さん。

「おぉう、早いな、白雪」

先生もちょっと引いてんじゃん。

「じゃ次ー男子でやりたい奴いるかー?」

案の定、手は上がらない。

こういう場合って大概日直のやつか、日付の出席番号の奴なんだよなー…

「えーと、じゃあ今日は15日だから…」

よし、俺にはならなそうだな。

「1列目の5番目の席の…平木!お前に決定な」

は!?

なんて理不尽!

抗議しようとしたがそれより先に動いた奴がいた。

そう、成瀬沙耶香だ。

「先生、それならあたしが実行委員を務めます。

白雪さんは転校してきたばかりなので、まだ学校には不慣れでしょうから。」

立ち上がって発言する成瀬。

完全に成瀬が場を支配している。

「おう、そうか。じゃあ実行委員は成瀬と平木で異論は無いなー?」

もちろん反論なんか誰もするわけが無い。

少し白雪さんが残念そうにしていたのが見えたが、それよりこちらを睨みつけている成瀬さんが鬼の形相なのがとんでもなく恐い。

俺……ちゃんと文化祭迎えられんのかな…。

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白雪さんは恋がしたい まかろに @makaroniiiiin

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