第13話 酒場

私はウイジールの用が終わるまでの間

共に買い物に付き合ってくれたアリュメトの騎士カーターと

町で出会った謎の老人と酒場で時間を潰す事にした

私は老人の名前をまだ聞いていなかったが

あえて聞かないようにしていた


酒場の席に着き

一時間かそれほどでカーターは出来上がっていた

酒は強くないようだ


なぁ

お前歳いくつら?


14です


わっかいなぁ…

その時は俺も叱られっぱなしだったよ

父さんが厳しくてなぁ

朝昼晩ずーっと剣に馬に礼式だよ


カーターは私の肩に腕を回しながら喋っている

私は適当に相槌を返しながら

時折

老人にも目を向ける

老人はというとゆったりと酒を飲み

鶏の肉に噛り付いている

その様子は少し品が無かった

見ていたら私も腹が空いてきたな


今度馬おしえてやうりょ

うまぁ


そうですか

感謝しますサー・カーター

ところでお腹が空いたんですけど何か奢ってくれませんか?


いいよぉ

おいおやじ!この子に一番太った鶏を用意してくれ!


酔ったカーターは声を荒げながら

店の店主を呼びつける

代わりに若いウエイトレスがこちらに来て注文を伺う

我々が注文を言い終えると

カーターはすぐに戻ると言い外へ小便をしに行った


逞しい騎士様ですな

お付きのお方


老人が私に話しかけてくる


そうですね

私が偉そうに言える立場ではありませんが

頼りになります

少し酒は弱いようですが


老人は少し笑みを浮かべると

私の方に席を近づけてきた

グイグイと距離を近づけ

少し窮屈な程

すると老人は私の耳元で囁いた




この酒場盗賊の根城でしてね

用心なさった方が良いですよ

ガランサス様



老人は突然打ち明けた

案内してきた張本人であるのに


今の発言を鵜呑みにするなら

老人も盗賊の一人という事になるが

それより私には気がかりな事があった


この老人何かあると思っていたが

それは確信に変わった


その発言の瞬間私は何か反応を示したはずだ

ほんの些細な物だろうが


おそらく気取られた

老人は私の顔を見て薄らに笑みを浮かべている


これ以上駆け引きをするのも面倒だ

私は先に話した盗賊の件などはかいつまんで

単刀直入に一つの疑問を老人へ投げかけた


私貴方に名前をお教えしましたか?


相槌を打つような感覚で返事を返した時

老人の顔から笑みが消えた


いや

老人のみならず

トレイを片手にこちらに向かってくるウエイトレスの顔からも笑みが消え

こちらを見つめていた


何かおかしいと察知し

辺りを見渡すと

全員がこちらを見ていた

先程まで会話を楽しみこちらに関心など示さなかったであろう酒場の雰囲気は

打って変わり

一気にこちらだけを注視する異様な状況

一変した環境の中

先程外に出ていたカーターが戻ってきた


なにか

おかしいと思ったんだよ

客が皆話し込む割には

グラスの酒が全く減ってなかったからなぁ

何者だお前?


カーターは鞘から剣を抜こうとした瞬間

近くのウエイトレスがトレイをカーターに投げつけた

咄嗟に身構えたカーターの隙をぬって老人は酒場から逃げ出してしまった

同時に酒場にいた者達は懐から刃物を取り出し

こちらに臨戦の構えを取る

カーターはそれを見て取ると

私の前に立ち剣を構えた


俺の後ろにいろ

離れるなよ


サー・カーター

ここはカルーラのど真ん中だ

殺してはマズイ!


近くにいた男がナイフをカーターに向けて突っ込んできた

それをカーターは剣で弾くと前蹴りで男を迎撃

続けざまに三人が迫ってこようとしたが

カーターは近くのテーブルを引っくり返し距離を取る

私はカーターの背中に引っ付いたままだ

倒したテーブルを飛び越えこちらに向かってきた男の一人を

すぐさまカーターは剣の腹で男の頬を叩き薙ぎ払う

みねうちであるが男の体は別の客席へ吹っ飛び気絶している

今の攻防で一瞬意識がそちらに向いた暴漢二人の隙をつき

カーターは振りかぶった拳を暴漢の一人に浴びせ

もう一人に対しては剣の柄でこめかみを殴打し

あっという間に昏倒させる

殴られてひるんでいた男は立て直そうとしたが

カーターに胸を蹴飛ばされ苦しそうにうずくまる

今ので四人ほど撃退したカーターであるが店内の刺客達はまだ数人おり

依然窮地のままだ


サー・カーター!私も戦えます!

前に出てカーターに助太刀しようとしたが

カーターは必要ないと言わんばかりに私の身を手で制し

己が背後に戻す

そのやり取りに乗じて刺客の一人がジョッキを投げつけ

カーターをひるませようとする

腕で防ぎ顔面への直撃を避けたが隙の出来たカーターに刺客がすぐさま襲い掛かる

カーターに一瞬出来てしまった隙を補う為に

私は

刺客の持つ刃を手で掴み頭突きを与えて遠ざける

その直後もう一人が私に襲い掛かってきたがカーターがこれを迎撃し

またすぐ私の前に立ち剣を構える


暴漢の数は残り三人程だった

三人の暴漢達は刃をカーターに向けて敵意を示す

なれどもカーターは一切の隙を作らず剣を構えながら暴漢達を睨み返す

少しの膠着状態が続いたが

暴漢達は旗色の悪さを感じ取り

やがて全員が引き上げていった


私とカーターは窮地を脱したのだ

緊張の糸が切れ私は思わずため息をこぼしてしまった


無茶すんなよガランサス子供の癖によ

そう言うとカーターはハンカチを取り出し私の手に持たせた

夢中で気付かなかったが私の手の平は刺客の刃を受け止めた際に血が出ていた

私は感謝の言葉をカーターに言った後ハンカチを傷ついた手に巻く


あのジジイ

賊と繋がってたんだな

油断ならねぇ町だぜ


カーターはそうこぼしていたが

それはわからない

あの老人は賊ではなく恐らくはカルーラの手の者だ

だが確かな根拠などはなく

私の名を出した事がせめてもの根拠だが

その会話を聞いていなかったカーターには分かりえぬ事

仮にカルーラの手の者を殺めてしまったら後々面倒な事になるかもしれないと

そのせいでカーターを命の危険に晒してしまった

今後はもっと慎重にならねばいけない

そう自責の念に駆られていると

カーターは倒れている暴漢の一人を叩き起こし始めた


おい

お前何が目的だ?この野郎

寝ている男の頬を軽く叩き

ゆすって起こしている


んん・・・

なんだなにか誤解をしているのか?


うるせぇコラ

あのジジイに50万くれてやったろうが

舐めた真似しやがって

衛兵に突き出してやる


男は誤解だと

カーターに弁明していたが問答無用で担がれた


男はカルーラの手の者では無いのか

ただの雇われだろうか

問い詰めたいところではあるが

今私はウイジールやアルメンドロス等が気がかりで一刻も早く宮殿に向かいたかった

だがまだ迎えに行く時間ではないのでそれを急かすとカーターに何か悟られる

なので今男を衛兵に突き出す為に宮殿近くまで行ってくれるのはありがたい

私は口を挟む事無くカーターに従い共に向かった



その間男は降ろしてくれ降ろしてくれ

誤解だとカーターに申していたがその都度

面を叩かれ黙らされている


我々は宮殿近く衛兵が警備する要所に近づく

すると

宮殿の前でウイジールとアルメンドロス

カルーラ軍団長サリバンの姿があった

もう用事は済んだのだろうか

同じくそれに気づいたカーターは進路を変更しそちらに向かった


王子!ウイジール様

もう用はお済ですか?

カーターが挨拶に向かう

傷ついた男を担いだままなのでアルメンドロスは面食らっていた

ウイジールも何をしでかしたかのと渋い表情を浮かべる

だが傍らにいた軍団長サリバンだけは反応が違っていた


また何かお戯れをなさったのですか?


呆れたような物言いで話し始めるサリバン

自分に向かって喋っているのかと戸惑うカーターだったが


助けてくれサリバン

このままでは衛兵に捕まってしまう


サリバンに返事をしたのは

カーターに担がれていた男だった

サリバンは男を降ろすようカーターに促し

困惑しながらも男をサリバンに引き渡した

男は解放されると汚れた服を手で払う


参った参った

酷い目にあったぞサリバン

助太刀しようと試みたのだが


賢者様

まずは彼らに謝って下さい


今サリバンはこの男を賢者様と言った

この大陸で三傑の一人であり

カルーラ王国の象徴でもある人物の肩書だ

恐らくこの時カーターは目が点となっていた事だろう

ボロを纏った男は服を払い終わるとこちらを見つめた


先程はすまなかった

騎士殿に少年よ

私の名はジズ・ラウムだ

賢者などと呼ばれている



私の頭は追い付かなかった










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アリュメト戦記 序章 ガランサス 賢者アルトリート @ELtreatV

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