第15話 神様の寵愛

クオードに手紙を送ってから3日後。


あまりにも暇すぎるので「お嬢様にそのようなことはさせられません!」と拒否するガリオンにわがままをいって、わたしはお庭で剣をびゅんびゅん振りまくっていた。


…正直この世界、どうやって生きていけばいいのかまったくわからないんですよね。なんせめちゃくちゃ孤独。孤独でしかない。頼りになるのは自分だけ状態。


だからこそ、天使様が言ってた「とにかく強さが全て」っていうのにも妙に納得感があるというか。身を守ってくれる両親は別居中だし、とにかく自分の身は自分で守るっていう必要があると思うんだよね。


(ユーリ、魔力はイメージとつながっているよ?)


頭の上をくるくる飛びながら、指導してくる妖精達。いつもはふざけたことばかりして遊んでいるのに、魔力のことになると真剣に口を出したがるらしい。


──頭の中でイメージして。剣にまとう風を。柄から湧き出す雷を。剣先から湧き出す、水を。


ビュン。


剣を振れば風が刃になる。

水がわたしを覆い守る。

雷は地を這い、獲物を追う。


(そうそう、上手よ!)

(ユーリはパパと違って神様に愛されているのね)


チートすぎる…。惚れ惚れとしながら自分の剣を眺めていたら、妖精の言葉にドキッと胸がはねた。


「…え、パパと違って?」


(そうよ、ユーリのパパは愛されてないの)

(だから力がないの)


──ユーリのパパは愛されてない?

──力がない?


「それってどういう…くわしくおしえ」


て。


そう言った瞬間、胸にぶらさげていたネックレスのストーンから光が漏れ始めた。


え?もしかして、と思ったのも束の間。


目の前がパッと光り、現れたのはやっぱりこの人。


「…クオード様はお暇なのでしょうか」


「酷い言いようだな。神話を手紙で伝えるのも冷たいぞ」


ムスッとした顔の王子様が、やっぱり来てしまいました。






「…色々と文句を言いたいところではあるが、礼も言う。神話を教えてくれてありがとう」


加護を受けた礼の報いが手紙か?あまりにも冷たいのではないか?婚約を申し込み迷惑だと感じられているのは理解しているが、あくまで家のため。国のための建前だ。君を懐柔しようと足繁く通っているのではない。直接会って話しをする、光の世界へ来るなどの行動があってもよいのではないだろうか?

わたしの部屋へ移動する最中、ぶつぶつぶつぶつと長い小言を言い終えて落ち着いてきたのか、柔らかいソファに腰をつけて、従者の煎れた紅茶に落ち着いたのかはわからないけど、とりあえず王子様は一息をついてくれた。


…10歳ほどの男の子に礼儀を説かれるなんてすこし恥ずかしい気もするけど、まあ、いいのだ。わたしも見た目は10歳だから。


「お役に立てたのなら嬉しいです」


「⋯⋯」


とりあえず、愛想笑い。

じとーーとした目で見てくる王子様に、早くお帰りになってもらわなくちゃ。

いくら友人とはいえ、そんなにたくさん会ってることが魔界にバレたら五月蝿そうだし。


「はやく帰って欲しいと思ってるだろ」


「いえいえまさかそんな」


ちにみにいま私と王子様が居るのは、私の私室だ。まだ子どもだし、迎え入れたって問題ないだろう。それよりもうおじいちゃんのガリオンに心配はさせられない。こっそり来てもらい、こっそりおかえりいただかなくては。


ところでこの人、なんでこんなにわたしと話をしたがるんだろう。特に婚約に前向きでもなさそうだし。やっぱりこの人も暇なのでは

…とぽけーと眺めている時、ふと、クオードの表情が固まった。え、


「あ」


目線の先にあるのは、この世界に来てすぐに渡された時期魔王様の写真。扱いに困って壁に雑に立て掛けていたのを忘れていた。

クオードの顔が一気に曇り、唇がきゅっと結ばれる。やべーどうでもよくて写真の存在忘れてた。


「時期魔王が心の中にいるから写真を飾っているのか」


「いやいやそんなまさか」


「…門番の者が片方の王族との婚約を受けるべきではない」


「従者にも散々言われていますし、弁えております」


「君の父上は平民を娶った。だが魔界の者だった。光の世界は焦っている」


…うーーん。まだ10歳と少しくらいの少年なのに。

この子はすごく大人びているなあと思った。こどもと話している感覚が全くない。

自分が前世で10歳の頃は何してたっけ?

ゲーム?漫画読んでた?

ああ、そういえばあの漫画の続き、読めないまま死んじゃったなあ。天使様に日本の漫画だけはこの世界からでも読めるようにしてくださいって言えばよかっ


むぎゅ。


「おい、無視するな」


「いひゃい」


ほっぺつねられました。

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おどる悪役令嬢 こえだ @zondeen_987

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