あやかし通りにて〜迷子には気をつけて〜


 扉が開くと辺りが白い光に照らされていた。神宮寺先輩のメガネも物凄い反射で大変そうだと勝手に思った。


「あやかし通り?」


「あぁ、あやかし御用達の商店街があるんだ」


 そう言いながらもズンズンと前に進み始め、神宮寺先輩の体が謎の光に包まれていく。


 チリーン、チリーン、チリーン


「怖くないから――おいで」


 鈴の音が三回鳴った。どこかで聞いたことのある声がすぐ後ろで囁かれた。敵意のない優しい女の人の声。



「おかあっ………」


 その声はまるで――「お母さん」みたいで。でもあの人はあんなに優しい声は出さない。いつも僕のことを邪魔扱いするのだから。



 視界が開けると赤と黒の世界が僕を待っていたんだ。


 空は血のように紅く、ずらりと並んでいる店は柱から屋根まで黒い色で統一されていてその様子は圧巻。


 僕は思わずじりじりと後ずさってしまった。


 砂利の音で気づいたのか、神宮寺先輩が振り向きざまに素早く僕の顔に仮面をつけた。


「うわっなんですか? これは」


「ここでは仮面をつけるのがルールだ。名乗りもこいつが誰なのかとかも追求はしてはいけないことになっている」


 周りを観察すると色んなお面をつけており、顔は見えないようになっている。それにしても個性的だな。やっぱり人? のセンスは様々だ。


 神宮寺先輩はよくある狐のお面を被っていて、とても似合っていた。



「ちなみに僕のお面は何を?」


「あー適当に買ったものだから気にするな」


 気まずそうにそう言われてしまい、逆に気になってしまう。外すなと言われるとなんかありそうなので怖いし……あとで鏡とかで確認しておこうかな。



「――っ」


「どうした、せきっ……なにかあったか?」


 今この人名前を呼びそうになりましたー先生っ! と叫んでやりたい気持ちを押さえつけて、「なんでもないです」と貼り付けたような笑みを浮かべる。


 いやー、今あきらかに人型ではないものが横を通り過ぎて行ったんですよ。


 ってあれ? どんな妖だっけ……。


 でも仮面をつけていたからおそらく妖だと思う……けど今のは一体――。


 心臓が痛いぐらいに音を立てているのがわかる。



「さぁ、行くぞ」



 何事もなかったように前に進む神宮寺先輩を見て、今更ながら僕は、あぁ違う世界に来てしまったんだと実感した。

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ラノベにわかの自称ぼっちは、ヤンデレと妖からは逃げられない 子羊 @kamm1214

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