私自身バックグラウンドは自然科学系なこともあり、この Earth II Europa はとても好きな小説です。
さらりと「遺伝子編集」に CRISPR とルビを振っていたり、「優性/劣性」ではなく「顕性/潜性」という用語を使っていたりと、いったい何者……と思ったら大学院生さん。本職でした。
遺伝学のみならず、AI アシスタント、VR、いま私たちを取り巻く技術のその先を見ているような気にさせる、未来のイメージがとても巧みです。社会派SFというだけあって、技術と世の中の関係描写も。
堅いサイエンスの中に一筋差し込まれるテレポーターというフィクション要素がスパイスのように効いていて、上手いなあと唸らされます。
ともすれば論文のように堅くなりかねないテーマを、柔らかい文章で包んで届けてくれる語り手。
ゆっくり動いていく物語を追いかけるのも楽しみですし、何なら真弓たちの語りを聞き続けるだけでも飽きることはなさそうです。
ドローン社会の発展、
AIの発達による日常生活の利便性の大幅な向上、
そして外部インプラントにより人間の能力までも進化させ、
そして、遺伝子の有無によりテレポート能力を持つ人間と普通の人間に分岐し、能力を持つ者と持たない者が対立する。
それぞれを単独で扱った作品はよく見ますが、
これを全て織り込んだ作品はなかなかなく、
一つ一つの事象に対しても細かい考察がなされているところに、
作者様の持ちうる知識を総動員して、
読者である私たちに、自身が想像する未来を見せようという熱意が感じられました。
私自身SF作品がどういうものかあまり理解していませんが、
きっとこういう作品をSF作品と言うのではないかと思いました。
そして作者様が私たちに見せたい未来はまだまだたくさんあるはず、
続きを期待したいと思います。